第八話 おじさん、健康診断後に解呪
凄腕無表情おちゃらけシスター、シアが俺の周りを囲んで踊っているらしい呪霊達を見て楽しそうに笑っている。
「みんな、リズム感いいね」
「シア! 呪霊のダンスの評価はいいから早く消してくれない!? とりあえず、【治癒抵抗の呪い】と【虚弱の呪い】と【心病みの呪い】を! お願いしまあああす!」
こんなヤバい奴だが実力は確か。俺は神様にすがる思いでシア様に頼む。
「本当は500万イエンくらい寄付してもらいたけど、貴方の話は子供達から聞いてる。やさしいおじさんだって。だから、今回は特別にタダで解呪してあげる。笑わせてもらったし。ついでにその先に引っかかってる【半力の呪い】も解いてあげる」
「なに、それ……」
「【半力の呪い】。力を半分以下にさせる呪い。かけることが難しい呪いだけどおっさんの場合めちゃくちゃ呪われてるから成功したみたいだね。この呪霊は早めに消しとかないと厄介そうだから……消す……!」
シアが青白い魔力を身体中に纏い、真剣な表情で俺を見つめる。どうやら、ここからはおふざけなしらしい。いくつもの魔法陣が組まれ俺の周りを漂う。これだけ複雑な魔法陣を見るのは久しぶりだ。
「じゃまじゃまじゃまじゃまじゃまじゃま。全部消してやる。耳元で騒ぐな、呪霊。うるさいくさい気持ち悪い。近寄らないで」
なんかおっさんにもダメージである。
だが、シアは至って真剣。恐らく、呪霊と戦うために言霊を飛ばし心を強くしているのだろう。友人に聞いたことがある。
言葉が鋭く放たれれば放たれるほど青白い魔力が鋭い刃と化し俺の周りの何かを切り裂いていく。
「……ぁ」
青白い魔力が消え、シアが糸の切れた人形のように崩れ落ちようとする。そして、ちらりと見えた黒い霧が刃のような形に変わり……シアを狙う! 呪霊からすれば、そうなるのか!
「させるかああああああ!」
俺は慌ててシアを抱きかかえ黒い刃を必死で躱す。が、黒い刃は流石呪い、しつこい。もう一度飛んでくる。今度は俺に向かって。刃が眼前に迫った。息が詰まる。心臓が痛い! 心臓がぁああああ!
「あ……!」
死ぬ。黒い刃よりも先にビビって心臓止まって死ぬ。なんという虚弱体質。
その瞬間、走馬灯が俺の頭の中を駆け巡った。体調不良に悩まされた数年、その前から虚弱体質でGランクから上がれなかった20代、もううろ覚えな10代、誰かとずっと一緒にいた幼少期、そして……。
走馬灯とは自分の人生を思い出すものだ。であれば、俺の人生は俺がこの世界に生まれたところまでが記憶のはず、だった。だが、走馬灯は止まらなかった。真っ白な空白の記憶を突き抜け、俺は『もうひとつの記憶』にたどり着いていた。
『はあ……何をやってもどう頑張ってももう余命いくばくもない、か……』
俺は……前世でおっさんだった。いや、前世でもおっさんだった。
こことは違う世界。ファンタジーがゲームや映画、小説の世界にしか存在しない世界で俺は病気に侵されていた。一生懸命社会の為に身を粉にして働いたはずなのに理不尽な神の仕打ちだと思った。そして、その理不尽は止まらない。
『おい、おっさん。金くれよ! おい!』
『う!』
『え? 嘘だろ! 小突いただけで? おい! おっさん! 雑魚が! 死ぬなよ! 俺が殺人犯になるだろうが! ふざけんな! おっさん!』
不良に突き飛ばされて、死んだ。
ああ、そうだ。俺は思ったんだ。生まれ変わったら……もっと、健康に気を使って、身体を鍛えて、そして……。
「エクストラヒール!」
澄んだ声が光となって俺を包み込んだ。そして、俺は駆け巡ってきた走馬灯を逆走するように戻っていく。
目を覚ました瞬間、シアの必死な顔。そして、その後ろに迫る呪いの刃。
俺は慌ててシアを再び抱きかかえ、黒い刃を無我夢中で!
「すぅううううううううう!」
吸った。黒い刃とはいえ魔力の類のようにも見えたし、とにかく必死だったから思いきり吸った。
すると、
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ……ァ……」
めっちゃ吸えた。え? なに、俺のこの吸い込み力?
「エクストラヒールで一時的に身体の不調がとれたのかもね」
俺の考えていることが分かるのか、いや、分かりやすく驚愕していたのであろう。シアがぐいと俺の胸を押して抱きかかえられたまま俺を見つめてほほ笑む。いや、近いんだけど。おっさんどきどきしちゃう。心臓しんどい。
「おっさん……ありがとう。まさか、呪霊を吸い込んでしまうなんて、ぷぷぷ」
シア噴いてる。……まあ、よしとしよう。
「これで、俺の呪いが解けたのか?」
「【半力の呪い】の5層まで。呪いは何層にもなっていて中に近ければ近いほど魂にくっついてるから。徐々に解いていくべき。じゃないと、魂も一緒に剥がれて頭おかしくなる」
「ゆっくりでお願いします!」
人間の身体も一緒だしな、うん。ゆっくり少しずつ呪いを解いてもらおう。
「それより……その呪いは誰に……」
「シスター、た、助けて!」
シアが何かを言おうとした瞬間、声が聞こえ振り返る。
ヒナの弟、ゴウタがこちらに向かって泣きながら走っていた。
「ねえちゃんが冒険者に殺される!」
お読みくださりありがとうございます。
また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。
よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。
今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!
また、作者お気に入り登録も是非!