第四話 おじさん、健康診断前にトラブル
酒場にも届く大声。
それは冒険者ギルドの受付の方から聞こえてきた。
しぱしぱする目を凝らすと、目の悪い俺でも分かるほどの巨漢。冒険者ギルドでも1,2を争う大柄な戦士、ドドがギルドの受付にくってかかっているようだった。
ギルドの受付が誰かはよく見えないが、金髪。心当たりはある。俺は痛む膝にこらえながら騒ぎの中心へと歩いていく。
「ですから、ドドさん。貴方の現状の実績ではこの依頼を受けることはできません」
よく通る凛とした声。ユリエラさんだ。
「なんでだよ! Bランクの依頼だろうが!」
「貴方はまだCランク冒険者です。Bランクの依頼を受けることはできません」
「オレはもう十分にBの実力はあるはずだ! それをそっちがチンタラと昇級しないからだろうが!」
ドドの声はとにかく大きい。そして、態度もデカい。力もあるのだが、肝っ玉小さいので、すぐに叫んだり暴れたりしてみんなチームを組みたがらないので、依頼をこなすのに苦戦しているらしい。
「ドドさん、何度も言っているように、Bランク以上の依頼は国からの依頼もあります。こちらも信頼できるものでなければ、昇級させることが出来ないのです。貴方の今のような態度では。もしくは、真面目にC級を多くこなして信頼を勝ち取ってください」
「あー! こうるせえババアだな! ミラちゃんに変えてくれよ!」
ユリエラさんは、俺と同じ年の40らしいが、そうとは思えないほど若々しい。
ただ、ドドくらいの若造からすれば年上をみんなババアと呼びたいんだろう。一番若くて人気のミラちゃんに受付してほしいというのがまた若い感じがする。
「ミラと変わっても構いませんが、B級以上の依頼は私かギルドマスター、副ギルドマスターを通してしか依頼を受けることはできません」
ユリエラさんのはっきりとした物言い。俺はこの大人な振る舞いが素敵だと思うのだが、若造ドドくんは気に入らないようで、表情はよく見えないが、空気がぴしりと固まったように感じる。
「不細工ババアかよ……! ふざけんなああ!」
「ちょっと、待った……!」
俺は二人の間に割って入る。ドドも突然の俺の登場に驚いたのか、二、三歩咄嗟に下がる。
このあたりが、ドドの肝っ玉のサイズを表している。
「……なんだ!? 誰かと思えばカイエンのおっさんじゃねえか! なんだ!?」
「ちょっと、待った……!」
「待ってるだろうが!」
「いや……ちょっと、息が整うまで、待って……ちょっと走ったから息切れが……」
いや、ほんと、しんどい。膝も腰も痛いのに頑張って走った。
肺が痛いし、頭も痛い。ヒューヒュー言ってる。
だから、待ってほしい。ほんとマジで。
「………」
「はぁはぁ……はぁー」
「…………」
「はぁ……ふぅ……」
「……」
「……」
「……………いつまで待てばいいんだよ! カイエン、なんの用だよ!」
まだちょっと肺が痛いんだが、若者はせっかちだ。
俺はまだ整ってない息のまま、ドドに説明する。
「いやいや、どう考えて、も、ユリエラさんの、言う事の方が、正しいだろ? ドド、お前、最近特にひどいぞ。大声で、怒鳴り散らかして」
まあ、正直声がデカいのは俺は助かるけど、みんなには迷惑だろう。
「うるせえよ! 冒険者ギルドが馬鹿すぎるから言ってるんだろうが! オレをとっととB級にしないから!」
「いやいや、だから、みんなと同じでC級依頼を沢山こなせばB級に」
「うるせええ! ぶっころすぞ! やんのかテメエ!」
ドドが大きな身体の上に置かれたとても大きな顔が俺に迫ってくる。
「いやー、俺、医者に喧嘩は止められてるんだよ」
「酒やヤクでしか聞いたことねえよ! そんな台詞!」
はい、またキレたー。なんだコイツは。本当にすぐ怒るな。
襟首掴んで。やれやれ……ちょっとビビらせてやる必要があるな。
俺がキッと睨むとドドは少し怯んだ様子を見せる。この辺りがドドの肝っ玉の小ささを表している。
「おおっと! いいのかな!? 俺は……弱いぞ!?」
「……はあ!?」
ドドは俺の言葉に首を傾げる。俺は襟首掴まれたまま締まっていく首に耐えながら必死で声を出す。ぺちぺち手を叩いてるから気づけよ。
「お前のようなデカブツに殴られたら一発で死ぬ可能性があるぞ。暴れて冒険者を殺したとなればお前はこの街で活動出来ないかもな」
基本的に冒険者は自己責任だ。
だが、そこにもある程度のルールはある。まず、冒険者同士の殺し合いは禁止。ダンジョン内で襲い掛かられたとかよほどの理由があり、証拠もちゃんとしてれば認められる場合もあるが、基本は禁止だ。撮影精霊が生み出されてからは特にこのあたりが徹底できるようになってありがたい。
ドドも流石に分かっているようだし、コイツの小肝っ玉では人間を殺すなんて出来ないだろう。顔を青ざめさせ始めた。
だがな、ドド。
おじさんの方が青ざめてるから! はよ手を放せ!
俺が限界を感じ、必死でぺちぺち音を鳴らすとようやく気付いたドドが手を放す。
「くそが! おい! ユリエラのババア! 覚えておけよ!」
小物若造らしい捨て台詞を吐いてドドが去っていく。
サエ&コウといいドドといい、自分がどれだけ周りから白い目で見られているか気づいていないのがすごいな。俺みたいに目が悪かったり耳が悪かったりするわけではないだろうに。
と、そんなことを考えながら、床に手を吐きせき込む俺。あー、しんどいしんどいしんどい!
「カイエンさん! 大丈夫ですか!? 粒ポーションと水です!」
流石ユリエラさん、近くに準備しておいた簡易ポーション剤と水をくれる。
液体ポーションは高い上に、俺の弱った身体にはちょっと刺激が強すぎてよくおなかを壊すし、ほんと助かる。
「ふいー、いやー、まいったまいった」
「あ、カ、カイエンさん。助かりました。けど、焦りましたよ。ドドさんと喧嘩を始めるんじゃないかって」
ユリエラさんが胸の前でぎゅっと両手を握り心配そうに俺を見つめる。俺にもジーセブンにもやさしいユリエラさんはじいさん・おじさんの癒しである。
「いやいや、言ったでしょ。俺は医者に喧嘩は止められてるんで」
「あら、ふふふ……でも、本当に一度健康診断を受けてください」
「あ、はい」
ユリエラさんの目は優しかった。だけど、声には圧があってちょっと怖かった。
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