第21話 おじさん、健康診断後にA級ダンジョン
ニコ=ティガロ。
A級冒険者パーティー【赤き盾】のリーダーであり、個人ではS級冒険者という実力者。
虎人族らしい筋力を活かした圧倒的な力と彼女独自の技『魔法剣』で魔物を倒していく様は爽快で、冒険者配信でも人気だ。その上、金色の瞳や虎人族特有の稲妻のような模様、声のかっこよさも相まって恐らくこの辺りでは一番の人気を誇っているのではないだろうか。
そんな大人気冒険者が……
「俺と一緒に冒険していたあのチビ猫ニコちゃんだったとは……」
「な~にを言ってるんだ、おっちゃん? そろそろ行くよ~?」
昨日の大猫泣きから一転。今日は尻尾がピーンとたってるのでご機嫌なのだろう。
「すみませんね、カイエンさん。昨日はお騒がせして……」
紫髪をぽりぽりと掻きながらやってくるホークさん。ホークさんの方が顔がやつれているんだけど……。恐らく、【赤き盾】での苦労人ポジションなのだろう。昨日も猫泣きするニコちゃんをなだめながら、俺と話をし、そして、周りに謝りながら、去っていった。
「大変ですね……ホークさん……若いのに……」
「いえ、カイエンさんこそ……あのあと大丈夫でした」
俺の心配をしてくれるホークさん……! なんで、出来た人なんだ……!
まあ、実際大変だった。ニコちゃんが去った後、何故知り合いなのかと詰め寄ってくるユリエラさんとサリーさんになんとか説明しなだめ、落ち着いたと思ったら結局夕食はどちらと共にするのかと詰められ折衷案で、ユリエラさんのところにある程度持ち込ませていただいて今日のお疲れ会をさせていただくのはどうかとなった。
『ユリエラさんのごはんは毎日食べたいくらい美味しいので』
『ま、毎日……こほん、仕方ありませんね』
『出来る限り、サリーさんと一緒にいたいですからね』
『……もう! 狡いです! おじさま!』
なんか色々言ったけど知らない。それは未来のおじさんに託した。
一先ず、冒険者ギルドでの騒ぎを回避するのが最優先とおじさん頑張った。【赤き盾】のリーダーと知り合いという事で急に尊敬の眼差しになったユート君の応援もあったし。ま、瞬殺されてたけど。それでも若者の応援は力になったよ、うん。
夕食会では、再び竜と狼の料理対決が巻き起こったけれど、ユリエラさんの優しい味の絶品料理と、サリーさんの不器用ながら一生懸命作ってくれた料理も本当に美味しくて泣いて喜んでいたら、二人とも顔を真っ赤にして静かになった。
ユート君もずっと美味しそうにいっぱい食べていてほっこりしたなあ。
「そして……」
カイエン(G・瀕死)
年齢:40
身長:179
体重:83
体力:1622(A)
筋力:1554(A)
魔力:1861(A)
敏捷:1526(A)
器用:1622(A)
状態:呪い(【???の呪い】【封魔の呪い】【鈍化の呪い】【鈍感の呪い】【聴覚の呪い】【触覚の呪い】【視覚の呪い】【味覚の呪い・弱】【嗅覚の呪い・弱】【老化の呪い・弱】)
▽状態注意(異常までではないが気を付ける)
肺(麻痺・火傷)、心臓(麻痺)、手(麻痺)、肩(石化)、足(石化)、肝臓(石化)、関節(石化)、頭(混乱)、虚無
俺のステータスをタブレットで確認するとまたステータスが上がっている。
心当たりは一つ。ユリエラさんの料理だ。ちゃんと準備が出来たとふんすしていたユリエラさんが作ってくれた料理はユリエラさんの故郷の薬膳料理らしく、見たことないような草や茸を使った料理だったのだが胃腸に回復魔法を直接かけられるような感覚で、どんどん食欲が出てくるのを感じた。
『ふふ……カイエンさん。あまりとり過ぎると逆に良くない可能性もありますからね。毎日少しずつ良くしていきましょうね……』
妖しくわらうユリエラさんだったが気にしない。毎日っていつまでかも気にしない。だって、美味しかったしね。あと、老化の呪いが弱まっているのは何故かを考えたけれど……もしかしたら……サリーさんの一生懸命作ったお料理のお陰かもしれない。
理由? なんか若者パワーを貰った気がするから! まあ、正直理由なんて気にしない。体調が良くなるなら儲けものだし。なので、なんだか今日は……
「カイエンさん、大変だったみたいですけどなんだか肌はツヤツヤしてますね……」
げっそりホークさんが羨ましそうに俺を見つめる。そう、老化の呪いが弱まったせいか肌の調子が良い。心持ち皺も減った気がするし!
「うん、おっちゃんが前のおっちゃんに戻ってる気がする! よかったよかった!」
ニコちゃんが嬉しそうに声を弾ませる。その頃というと5年前か。
5年前、俺とニコちゃんは一緒に冒険をしていた。当時の彼女はサリーさんよりも幼い感じの女の子で、
『あ、あの、にゃあは……ちがう。あたしはニコです。よろしくおねがしますにゃ、します』
借りてきた猫のようにびくびくしていた。当時の彼女はG級落ち寸前のF級で自信喪失状態だった。というのも、彼女は自分の虎人族としての力を上手くコントロール出来ず、失敗続きで里一番の力持ちだという長い鼻っ柱をぽきりと折られた状態。それで敢えてランクの低い依頼を受けた際に俺と一緒になり、まあ、相性がよかったのか、自信を少し取り戻せたのか、その後俺と暫く一緒に依頼をこなしていた。
そして、自信を取り戻すと同時にどんどんと実力を高めていった彼女はD級に上がるタイミングでスカウトされ、俺とはそれっきりになった。
「しかし、あの頃は泣き虫、いや、泣き猫だったニコちゃんがこんなに成長するとは……!」
「お、おっちゃん……! 泣き猫って言うの禁止! アタシ、S級冒険者だよ!」
「ああ、そうだね。そうなると、ニコちゃんっていうのもマズいよね」
「そ、それはそのままでいんじゃないかにゃ、じゃないかな!」
基準が分からん。だが、ランクも上の冒険者であり、パーティーリーダーが言うのだ。従うのが吉だろう。俺が頷くとしっぽぴーんしてるし。
「リーダー、そろそろ行きましょう」
「うん! じゃあ、出発!」
副リーダーであるホークさんに促され、メンバーに号令をかけるニコちゃん。号令に合わせて、一斉に動き出すメンバーたち。やはり実力者揃いということもあって、一つ一つの動きが洗練されており隙がない。俺のこともしっかり配信で見ていてくれたらしく、ほとんどの人たちが適切な評価、もしくは過剰な評価で俺を受け入れてくれたのも有難い。
「さあて、おっちゃん。初のA級ダンジョンだけど、大丈夫そうかな?」
ニコちゃんが牙を見せながら笑うその向こうには、朝にも関わらずうっすらと橙色に染まる谷が見える。その谷の合間には、これまた橙色に輝く怪鳥たちが飛び回っている。
「A級ダンジョン【極楽鳥の巣】か……まあ、腰に気を付けながら、邪魔にならないよう頑張るよ」
俺の健康を取り戻す為、そして、ニコちゃん達の為に奴らを倒さねばならない。
俺は腰をとんとんと叩き背筋を伸ばした。
お読み下さりありがとうございます!よければ感想や☆評価を!
思いつき短編悪役貴族コメディもよければお楽しみください!
『悪役貴族に転生した俺様、「敗者は勝者のものになる」という決闘を繰り返す悪役ムーブをかましていたのだが、ヒロイン達がこぞって決闘を挑んでくるだけど、大丈夫そ?』
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