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第20話 おじさん、健康診断後に女難

「……というわけで、これからは絶対無理しないように。分かりましたね?」

「は、はいぃ……」


 ユリエラさんの圧と愛あるお説教をしこたま頂いた俺はしっかりと頷く。まあ、それもそうだろう。口の中も肺も火傷させてるんだもんなあ……。

 ふと、気になって俺は自分のステータスを見ようと魔水晶タブレットに視線を落とす。


カイエン(G・瀕死)

年齢:40

身長:179

体重:83

体力:1283(A)

筋力:1254(A)

魔力:1261(A)

敏捷:1226(A)

器用:1322(A)


状態:火傷、呪い(【???の呪い】【封魔の呪い】【鈍化の呪い】【鈍感の呪い】【聴覚の呪い】【触覚の呪い】【視覚の呪い】【味覚の呪い・弱】【嗅覚の呪い・弱】【老化の呪い】)


「おおぉ……ちょっと良くなってる……」


 火傷はしているが、呪いが弱まったものがある。悪魔を倒したおかげか、それともまさか口の中と肺を焼いたお陰か、味覚と嗅覚の呪いが弱まっている。後者だったら二度とやりたくはないが。ただ、呪いは弱まっても火傷が残っているせいか瀕死状態は続いている。うむ、引き続き健康には気を付けていこう。


「カイエンさん……きいていますか?」

「はい!? はい!」


 ユリエラさんの話は終わったのだと油断していたが、まだ何か伝えようとしていたらしい。いかんな、早く聴覚の呪いも弱めたい。焼くか。いやいや。


「す、すみません……ちょっと健康確認をしてまして……」

「もう……! ……も、もう一度しか言いませんからね。私は、カイエンさんが、その、健康で無事に帰ってきてくれればそれだけでいいんですから……無茶しないでくださいね?」


 胸元で両手をぎゅっと握り瞳を潤ませ上目づかいで俺を見るユリエラさん。いかんね、これは反則だよ。美しく、そして、かわいすぎる……! こんな美人に心配されるだなんておっさん冥利に尽きる。気の利いた返事の一つでも出来ればいいのだが……


「あのー、受付の方? いい加減に業務に戻ったらいかがですか? お仕事終わってないのでは? わたし、おじさまにお礼をしたいので」

「さ、サリー?」


 のだが、何故か横からサリーさん登場。そういえば、報酬を持ってきてくれていたのだが、あまりにもユリエラさんの圧が凄すぎて、そっちに先に反応してしまっていた。だが、なぜだろうか……あの可憐なサリー嬢がちょっと攻撃的だ。まるで火の魔法のよう。それに対してユリエラさんも何故か絶対零度の微笑を向けている。


「あら? ふふふ……お嬢さん? 私はね、ギルドマスターからカイエンさんをサポートするように言われているの。だからね、カイエンさん優先しても何も問題はないのよ。『長年』一緒にいる仲ですからね、カイエンさん?」


 ええ、あの、冒険者と冒険者ギルド受付嬢として長年ですよね。急接近というか、送り迎えとかご飯は昨日からですからね。


「……時間の長さで勝負しようなんて『すごく』大人の人はちょっと狡いと思いませんか? カイエンのおじさま。長さではなく、どれだけ濃い時間を過ごしたかですよね。わたしの頭を撫でてくれたカイエンおじさま?」


 えーと……ソウダネ。時間の濃さというのも大事だけどね。とはいえ、今朝出会ったばかりの俺たちだからね。


「お、おっさん……オレの目には、二人の後ろにレッドドラゴンとホワイトフェンリルが見える気がする、ゆ、ゆーとりますけどー、は、はは……これ、オレの気のせいかな……!」


 うん、ユート君。視覚の呪いにかかっている俺にも見える気がするよ。

 だからかな、汗が止まらないのに、震えも止まらない。フシギダネ?


「カイエンさん、こんな小娘さんはもおう遅いしお帰り頂いてウチでいつも通り夕飯を食べて帰って下さいね」


 小娘言うとりますけど。あと、いつも通りって昨日からですけど。


「……カイエンおじさま、今日はおばさまのご飯は食べずに、わたしとカイエンおじさまとユートで今日のこの出会いを祝して、一緒にお食事しませんか?」


 おばさま言うとりますけど。あと、ユート君もびっくりしてるからね。急な予定はよくないよ。


「ユリエラさんに銅貨1枚!」「サリーちゃんに2枚だ!」「いやいや……」


 あと、後ろで賭けを始めたゲイル。絶対許さんからな。

 さて、そろそろこの場を納めないとどうにもならないな、と思い竜と狼が睨み合う魔境へと一歩踏み出そうとしたその時だった。


「す、すみません! お二人! と、カイエン、さん! あの! 少しだけよろしいでしょうか!」


 気付けば、もうダンジョン帰りの冒険者も多くなってきた時間で酒場も混み始めた中で、騒ぎが起きたせいか人だかりが出来ており、それを割って入ってきたのは、一人の紫髪の青年。

 細身だが、ひきしまった体。かなりレベルの高そうな冒険者に見えるけれど……。


「あ、す、すみません! 僕は! 冒険者パーティー【赤き盾】のホークと言います!」


 【赤き盾】。どこかで聞いたことがあるような名前だったけど……どこだっけな……もやのかかったような頭の中ダンジョンで記憶を探すが、おっさん冒険者には荷が重くなかなか見つからない。


「あ、【赤き盾】! A級冒険者パーティーのホークさん!? お、オレいつも配信見てます!」


 ユート君の声で思い出す。そういえば、配信で見たことがある。ここの冒険者ギルドでは五本の指に入る冒険者パーティーだ。何を隠そう、あの……酔っ払って調子こいて放った魔法剣も【赤き盾】唯一のS級冒険者の技、だった気がする。そんな実力者パーティーが何故俺のところに? まさか! 魔法剣を勝手に使ったらいけない、とか!?


「あ、ユート君だったね。小鬼の塒頑張ったね。ただ、もう少し慎重になった方がもっとよかった。カイエンさんのアドバイスはしっかり聞いた方がいいよ」

「あ、あざーす!」


 ユート君に対しても、物腰柔らかで、しめるところはちゃんとしめる。自分の能力に溺れ他人を見下したり、油断をするような奴らとは違い、素晴らしい冒険者だ。その丁寧な物腰にさっきまで睨み合っていた竜さんと狼さんも気まずそうに静かになっている。あっちも納めるなんて本当に素晴らしい! そんな素晴らしい冒険者ホークさんが俺を真っ直ぐ見て頭を下げる。え!? なに!?


「あ、あの……お、わたしが何か?」

「カイエンさん! ウチのリーダーがカイエンさんに是非次のダンジョンアタックで参加していただけないかと言っておりまして! お願いします! 命を賭けても連れて来いと言われておりまして! お願いします! 僕を助けると思って!!」


 え、ええええええええええええ~……?


 急にさっきの好青年スマイルから一転。涙目全力懇願でおっさん困惑。

 そう言えば思い出した。【赤き盾】と言えば、ユート君の配信でも撮影精霊からのコメントで俺を誘ってくれていた人達か。確かに、A級ステータスではあるけれど、こんなにお願いされるほどではないと思うのだけど。


「……!」


 ホークさんがぴくりと肩を震わせ反応。に遅れ俺が反応。俺の横を風が吹き抜けた。

 そして、気付けばテーブルに置いていた魔水晶タブレットがない。いや、テーブルに腰かけた獣人の女性が手に持ってこちらにひらひらと見せている。黄色毛の虎人族で、全身から溢れ出ている魔力はこの辺りではお目にかかれないS級の証といったところか。


「この件は、僕に任せるんじゃなかったんですか?」

「いやー、ごめんごめん、任せるつもりだったんだけどさー、ちょっと『待て』が出来なくてね」


 ユリエラさんの落ち着いた声、サリーさんの可憐で少女らしい声とは違い、女性にしては低音の鋭い声。だけど、さっきの言葉といい、どこか聞き覚えのあるような……配信だろうか。

 ホークさんの口ぶりでも分かるが、【赤き盾】のリーダーで俺も何度も見たことがある名前は確か……。


「ねー、おっちゃん。配信で見た通りのステータスだけどさ、瀕死なんだね? ていうか、状態注意多すぎじゃない?」


 虎人の彼女がタブレットを見ながら苦笑いを浮かべる。

 ん? 状態注意?


「あのー、その、状態注意って?」


 猫のように金色の瞳を見開きキョトンとされ、猫で言うなら老猫な俺もつられてキョトン。


「え? ……あの、このタブレットの状態異常のトコロに三角があるの、見える?」


 虎人族の彼女が目の前まで近づけてくれたタブレットをよく見ると確かに、状態異常のところに三角がついている。そして、そのタブレットをずらし、彼女が爪でちょこんとその三角を叩くと……



カイエン(G・瀕死)

年齢:40

身長:179

体重:83

体力:1283(A)

筋力:1254(A)

魔力:1261(A)

敏捷:1226(A)

器用:1322(A)

状態:火傷・呪い(【???の呪い】【封魔の呪い】【鈍化の呪い】【鈍感の呪い】【聴覚の呪い】【触覚の呪い】【視覚の呪い】【味覚の呪い】【嗅覚の呪い】【老化の呪い】)

▽状態注意(異常までではないが気を付ける)

胃(毒)、腸(毒)、肺(麻痺)、心臓(麻痺)、手(麻痺)、肩(石化)、足(石化)、肝臓(石化)、関節(石化)、喉(火傷)、頭(混乱)、虚無



「おおおおおおおおおおい! 多い! 多い!」


 状態異常レベルではなくなっただけで、とんでもなく悪い状態だった。道理で瀕死が改善されないわけだ! あ、さっき気付いてなかったけどちょっと体重減ったやったー!

 タブレット横でらんらんと金色の瞳を輝かせ、舌なめずりをしている虎人族さん。

 え? 俺、獲物? こんなに身体おかしいし、おいしくないし食べても毒だよ。


「アタシ達がこれから行くダンジョンに一緒に行ったら、かなり改善されてもっと健康になれるよ。だから……『また』一緒に行こう、おっちゃん?」


 健康改善? 一緒にダンジョン?


 いや、それよりも。


 『また』、と彼女は言った。

 おっちゃんという呼び方。『待て』という言葉。そして、虎人族……。

 彼女は……。


「えーと……顔見知り、でしたっけ?」

「…………」

「…………」

「……え?」

「……え?」


 一瞬の沈黙。


「うにゃああああああああああああ! おっちゃんが! アタシのこと忘れてるぅうううう! にゃあああああああああああああ!」

「はあ……虎人族の成長は早いし、カイエンさんと出会ったのはリーダーが子供の頃でしょう? ったく、なんで自分で『覚えてくれてるかな』って不安がってたから僕が行ってあげたのに出て来ちゃうかなー、ニコさん」


 あ、思い出した。

 名前と、この猫のように丸まって泣きじゃくるこの姿。


「ニコちゃんじゃん、ひさしぶり~」

「おっそいにゃあああああああ!」


 いや、おじさんの記憶力舐めないでよ。ほんとごめん。

お読み下さりありがとうございます!よければ感想や☆評価を!

ゴールデンウィークという事で思いつき短編悪役貴族コメディよければお楽しみください!


『悪役貴族に転生した俺様、「敗者は勝者のものになる」という決闘を繰り返す悪役ムーブをかましていたのだが、ヒロイン達がこぞって決闘を挑んでくるだけど、大丈夫そ?』

https://ncode.syosetu.com/n8292kk/

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