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第18話 おじさん、健康診断後に赤面

「はぁああ~……けほ……!」


 焼けた肺と口内。鼻を焦げた匂いが通り抜け、思わずむせてしまう。

 味覚の呪いがなくても、今日は飯の味があまりしないかもしれない。

 そんなこと考えながら俺は、さっきの酒をもう一度口の中に含み、しっかりと鼻で息をしながら酒の香りが肺に辿り着くように何度も鼻呼吸を繰り返す。


(これで、いいはず……!)


 手に持った酒。これは冒険者ギルドで爺セブンから受け取ったもんだった。

 俺が多少健康になったから祝いにと貰った魔酒だ。魔力を練り込んだ特殊な酒で身体の事故治癒能力を高めたり、状態異常にもある程度効果があったりと冒険者では持ち歩くヤツが多い。ただ、気を付けないといけないのが……


「おっと……」

「カイエンおじさま!? 大丈夫ですか?」


 フラつく俺を慌てて支えてくるサリーさん。だが、申し訳ない気持ちがどんどん膨れ上がる。恐らくサリーさんは、火の球を口に含んだダメージと思っているかもしれないが、これはただの酔いだ。酒に酔っただけ。魔力を含む酒は、普通の酒よりも酔いやすい。その上、これは爺セブンに貰ったお手製の安酒で、俺の体調はまだ完璧ではない。

 それによって、酔っ払いおっさんが出来上がってしまった。ただ、それだけだ。

 だけど、気分良く酔っ払っている場合ではない。


『げ、ゲグ、よくモォ……!』


 直撃を避けた頭と首、右肩だけを残した悪魔が俺を睨んでいるが、流石に深手なのかあっちはあっちで宙をふらついている。

 早くなんとかせねばと思ってはいるのだが……。


「ぁれ?」


 思ったよりも酒が回っているのか。足元がおぼつかずふわふわと夢見心地になっていってしまうおっさん。ふはは、なんかちょっと楽しくなってきた。いい気分だ。

それにしても……サリーさんは俺を支えようと顔まで使って俺を押してくれている。 呼吸が荒く、そんなになってまで頑張ってくれているサリーさんに感謝しかない。


「すんすんすん……はぁ~、くさいおじさまの匂い……すんすん」


 サリーさんがなんか言ってる気がするけどよくわからんかった。酔ってるし、聴覚の呪いがあるし!

 きっと、俺を励ましてくれているのだろう、きっとそうだ。なんて良い子なんだ……! 俺に娘がいたらこんな感じなんだろうか。そう思うとサリーさんがどんどんかわいく見えてきて、俺は思わず頭を撫でてしまう。


「お、おじさま……ふにゃあああ」


 なんてかわいい俺の娘! 俺が撫でた手に頭をぐりぐりと押し付けてくるではないか!


「てめ……こんなに時に、何サリーの頭を!」


 ユート君が大きな声をあげて、こちらにツカツカと近づいてくる。うむ! 生意気坊主もかわいい! 頭を撫でてあげよう!


「て、め……や、やめろ! や、やめろよぅ……親父にも、されたことないのに……」


 男の子だからな! 乱暴めに頭をガシガシ撫でるとどんどん大人しくなっていくユート君。うむうむ、かわいい!


『イギィイイイイイイ! ワタシの前でそんな不快なモノを見せるんじゃないワヨ! モット、嫉妬、強欲、憤怒……そんな美しい心の輝きを見せなサイ! これだから人は愚かなのヨ!』


 うるせーな。悪魔が何か言っている。嫉妬? 強欲? 憤怒? そんなのがいいわけねーだろ! なんでそんな身体に悪そうなもん見せなきゃいけねーんだ? ばっかがよー。


「お前、五月蠅いよ。こんな未来あるかわいらしい子たちになんて言う事を言うんだ」

『ナ!?』


 全くゆるせん話だ。こういう汚い言葉を使う奴らがはびこっているから子どもたちが傷ついていくんだ。


『何言ってるンデスカァアアア!? 人の子供なんて純粋で汚しがいがあるデショ! キレーに穢れて、オトモダチになるんでショー!?』


 うん、話が通じない。

 あー、ダメだ。頭がふらふらする上に、ちょっと頭痛までしてきやがった。

 こういうヤツにはおっさんがガツンと言ってやんないと。


「子どもの未来を守るのが年寄りの仕事なんでね。出来るだけ真っ直ぐに育ててやりてーんだよ、俺は」

「おじさま……」

「おっさん……」

【おじたま……】

【おじたま……】

【ぼく、投おじたまの子になる!】


 ふは。ユート君が近いので撮影精霊の言葉も視覚の呪い持ちの俺でもよく見える。


「いいぞ! みんな、俺の子だ。俺が守ってやるよ……!」

【おじたまーーーーー!】

『アアアアア! 気持ち悪い気持ち悪い! 綺麗言なんて沢山なんだヨ! 冒険者なんてみんな同じダ! オレもお前も、オレを蔑んだアイツラも同じダァアアアア!』


 悪魔が喚き散らすが言っていることが支離滅裂でよく分からない。

 ただ一つ言えることは……。


「キレイゴトが通じる世界にしておいてやるのも、おっさんのお仕事だな」


 お仕事をしに、かわいい子達のあたまをぽんと軽く叩き、悪魔へと歩みを進める。

 頭は痛い。ふらふらする。酔いが回る。身体があたたかい。

 身体中に魔酒が回っていくのを感じる。指先まで沁み込んだこの感じ。いや、なんだったら持ってる剣にまで流れ込めそうだ。


『ナ、ナアアアア! なんでお前が魔法剣ヲ! アイツのあのワザを!?』

「ん? 動画で見た」

『ソレで出来るカァアアアアアイ!』


 ふは。悪魔の驚愕顔めっちゃおもしれー。だけど、これ以上その醜い顔を子どもたちに見せたくはない。だから、斬る。


『コ……! の……?』

「え? おじさま、今の動き、というか……」

「一瞬で細切れに……!」


 出来るだけ小さくなるように多分20回くらい斬ってやった。肩が痛い。いけると思ったんだけどやっぱりあの『S級の魔法剣士』クンはすごいんだな。


『ハア……! ハア……! ヤバイ! ヤバイオッサンがイル! あの方ニ伝えネバ……!』


 小さな黒い魔力の塊になっても逃げようとする悪魔。身軽になったのかすごい速さで去っていこうとする。俺は残った魔力を振り絞り、剣に纏わせる。

 そして、痛む肩で思い切り身体を反らし、悪魔に向かって真っすぐ投げつける!


『……! ナゼ魔法剣を投げレルゥウウウ!』

「……ちょっと健康になったからだ!」

『ハァアアアアアアア、アギャ、ギャアアアア!』


 悪魔に突き刺さった剣は、悪魔を霧散させた後は、まっすぐにダンジョンの壁にぶつかり壁をぶち壊した。


「若いもんに立ちはだかる壁は全部俺がぶち壊してやるからな……!」

「おじさま……!」

「おっさん!!!」

【おじたま……!】

【投おじ! ボク大きくなったら投おじみたいになる!】

【至急我が冒険者パーティーへのご連絡くだしい】


 ユート君とサリーさん、そして、撮影精霊に向かって、グッと親指を立ててニヒルに笑うおっさん。




 それを後に、酔いがさめたけれども赤面しながら見ることになるとはこの時のおっさんまだ知る由もなし。


お読み下さりありがとうございます!よければ感想や☆評価を!

ゴールデンウィークという事で思いつき短編悪役貴族コメディよければお楽しみください!


『悪役貴族に転生した俺様、「勝者は敗者のものになる」という決闘を繰り返す悪役ムーブをかましていたのだが、ヒロイン達がこぞって決闘を挑んでくるだけど、大丈夫そ?』

https://ncode.syosetu.com/n8292kk/

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