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第17話 おじさん、健康診断後に覚悟

 悪魔。


 ダンジョンから生まれ、生き続ける魔物と違い、突如現れ、人の命を刈り取る者。

 悪魔は独特の魔力による声を発する為、頭に直接語り掛けてくるような反響がありとんでもなく気持ちが悪い。

 そして、奴らは【呪い】、【呪術】と言われる魔法に近しいながら悪魔特有のただの物では防ぐことの出来ない攻撃を使って来るため、冒険者にとっては最も会いたくない存在だ。


 悪い事をしたり、考えていると『悪魔が攫いに来るよ』とよく脅されたが、冒険者の中では有名な話として嫉妬心や殺意など悪意、『黒い心』が生まれた人間の元に現れるらしく、迷信めいた話もあながち馬鹿に出来ないなと思ったものだ。

 だが、サエ&コウのような弱者をいたぶる人間やドドのような怒り狂った人間でも会ったことがないのであれば、悪魔も常に悪意を探しているのではない。

 悪魔に悪意を見つけられた者は運が悪いと言える。


 だから、


「ユート、下がれ!!! 俺の手をとれ!」


 この10代で幼馴染の可愛い女の子とダンジョンに挑み、たまたまお試し中のおっさんと一緒にされ、たまたまおっさんが活躍したまたま勘違いした女の子がおっさんへの好意を見せ、嫉妬心を露にした男の子は不運としか言いようがない。だが、


『ギィイイイイイ! 何故! 何故ワタシの呪いが届かナイィイイ!』


 たまたま一緒に来たおっさんがとんでもなく大量の呪いをかけられ、まだ体調不良であったことで、悪魔の呪いに対抗する手段が偶然あったということは、悪運は尽きていないということ。


「はは、悪いね。俺の身体は呪いだらけでね、もう満員らしい」

『なあ!? そんな事が……いや、ナラ! そんな状態で何故生きてイル!?』


 その通り。おっさんにとっても、とっても不思議なこの状況。だが、今はそれについて考えている暇はない。悪魔をどうやって撃退するか。それが問題だ。


 これまでも悪魔が現れた配信は見たことがある。ほとんどが悪魔に攫われてしまい、そこで撮影精霊が消えてしまい、それで御終い。ただ、数度だけ悪魔を撃退し、撮影精霊の映像が残っている者を見た。


(その時は……)


「おじさま! 悪魔に対し、人は魔力でしか対抗できません! 私が!」


 サリーさんがそう叫び、火の魔法を発動させる。サリーさんはしっかりと悪魔の映像も見たことがあるようで素晴らしい、大正解だ。

 だが。

 悪魔はサリーさんの放った火の玉を見てニチャリと笑い、大きく息を吸い込んだかと思うとそのまま火の玉を口の中に入れて飲み込んでしまう。


「な……! そんな……!」

『ぐぷっ……なんとも弱い魔力だコト! こ~んなんじゃ、攻撃どころか餌にしかなりまセン~! キャホホホホ!』


 厭らしく嗤う悪魔。ただの物では傷を負わせることが出来ない為に魔法で攻撃したサリーさんの選択自体は間違っていない。が、悪魔の言う通り、まだ初心者F級のサリーさんの魔力では悪魔にとってはただの魔力の補給源にしかならないようだ。

 俺の今もっている剣もユート君の剣も魔力を帯びているような高級なものではない。そして、二人とも攻撃魔法が使えない。


「う、あ、あああああ……」

【ユート、しっかりしろ!】

【ああああ! オレのサリーたんが喰われちまう!】

【投石おじ! なんとかしてくれー!】


 俺が引っ張り込んだ後は腰を抜かしてしまったユート君はもう抵抗できそうにもない。撮影精霊がふよふよと彼の周りを漂い、見ている人たちの言葉を映しているが、 ただそれだけ。 

 仕方がない、奥の手を……と俺が懐に手を入れた瞬間。


 ぐぅううううう。


「か、カイエンおじさま?」


 こんな時に何故!? 

 腹の音が鳴ってしまう。こんな時でも腹が減る健康体になり続けているお蔭だろうか。だけど、めちゃくちゃ恥ずかしい! シアがこの映像を見ていたら爆笑するだろうなあ! 目の前の悪魔は、余裕のつもりか楽しそうに俺を見て笑い舌なめずりをしている。


「……! 待てよ」


 ハッと思いつく。もしかしたら……いけるかもしれない妙案が。

 だが、この作戦を実行するには、覚悟と勇気が必要となる。


『ゲハ! 呪いがきかないだけのお前はそのまま空腹で倒れていれバ、いいノォオオオ! その間に、あっちの青い二人を頂いチャウからぁああああ!』


 覚悟と勇気。


「待てよ! 悪魔!」


 前世で一度死んだ身。今もまた治りかけているとはいえ地獄に足を踏み入れていた運命。

 なら、もう怖いものなんてないだろう! 


「悪いな。俺はな、前途ある若者を見捨てることを医者に止められてるんだよ……!」


 それに老い先短いおっさんとこいつらとを天秤にかけるなら、絶対に彼らの方が大切だ。


「おっさん……!」

「おじさま……!」

【おじさま……!】

【おじさまーーーー!】

【投おじ! 投おじ! 投おじ!】


『ジャア、ワタシを止めてミレバぁあああああ!?』

「言われずとも! サリーさん、火の魔法を!」

「え? でも、火の魔法をアイツにぶつけても……!」


 俺の言葉に戸惑うサリーさん。だけど違う!


「俺にだ!」

「え? え? え?」

「早く!」


 俺の叫びに急き立てられるように火の玉を俺に飛ばすサリーさん。

 横目で見た悪魔はまた可笑しそうに嗤っていやがる。


『ギョホオオオオ! 死にたがりのバカでしたかぁああああ!?』

「そのまま笑っていやがれ……!」


 ただ、俺は死にたがりではない! 健康になりたい生きたがりなんだよ!

 ただし、若者を見殺しにしたら精神衛生上よくないから、絶対にてめえを倒す!

 どんなに痛みを味わおうと!

 俺は大きく息を吐き出すと、こちらに向かって飛んでくる火の玉を思い切り!!!


「すぅううううううううううううう!」

『エエエエエエエエエエエエエエ!?』


 吸い込む!

 そして、口を閉じる直前で、腰に付けていた色々役立つ度数の高い酒を口に流し込み閉じる。


「~~~~~!」


 口の中では炎が暴れ、肺まで焼けそうになるのを必死で耐え、思い切り悪魔の野郎を睨みつけて口の中の炎を全力で吹いてやる!!!


『グ!? ゲゥエエエエエエエエエエエエエ!』

「かみにささげる、しゃ、酒は魔力をふくみ、俺の体内にま、まとわりつく呪いと混じりお前をひへい、否定する。その上、俺の回復しつつあるはいから勢いよくふきだしたんだ。結構きくでや、効くだろ! 馬鹿やろう!」


 身体のほとんどを失い狂ったように叫んでいる悪魔に向かって俺も叫ぶ!

 ただし、口の中も舌も火傷でめっちゃひりひりする。ああ、今日はご飯が食べられないかもしれない……! 嗚呼、健康が遠のくぜ!


お読み下さりありがとうございます!よければ感想や☆評価を!

ゴールデンウィークという事で思いつき短編悪役貴族コメディよければお楽しみください!


『悪役貴族に転生した俺様、「敗者は勝者のものになる」という決闘を繰り返す悪役ムーブをかましていたのだが、ヒロイン達がこぞって決闘を挑んでくるだけど、大丈夫そ?』

https://ncode.syosetu.com/n8292kk/

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