第14話 おじさん、健康診断後に初めてのダンジョン配信
「おっさん、足だけは引っ張らないでくれよ」
「ちょっと、ユート」
10代の男の子のノンデリケートな発言におっさんのガラスハートに10のダメージ。
ダンジョンに入る前に大丈夫だろうか。
「すみません、あの……私はサリーです。ジョブは魔法使いです。アイツはユート。ジョブは戦士です」
10代の女の子の思い遣りある姿勢におっさんのガラスハートが10回復。
ダンジョンに入る前でよかった。
「それにしても……」
若さ溢れる10代の眩しき男女におっさんの目が潰れそう。そして、彼らの役に立てるか不安で胃が潰れそうである。なんせF級ダンジョンに潜るのも久しぶりだ。
何故、雑用GランクおっさんがF級ダンジョンに若者と一緒に入るのか、それはユリエラさんの家でご馳走になった翌日の事。ユリエラさんを朝迎えに行き、冒険者ギルドに入ったところで俺は屈強なギルドスタッフに捕まえられ、胃が潰れそうになる場所へと連れていかれた。
「なるほど……カイエン君は呪いによって力が激減してしまっていた、と。そういうことだね」
「は、はい……」
体調不良な上にいくつもの呪いをかけられ呪霊に取りつかれていた俺だが、もっと体調不良になりそうだった。静かな応接室の中に、俺と、俺を見つめる屈強ギルドスタッフ達と、そして、冒険者ギルドのギルドマスター、ハイエルフのエトワさんだけが座っている。そして、誰もが俺をじっと見つめている。
どうしてこうなった……!
ドドをぶっとばした事情を説明するためらしく有無を言わさず連行され根掘り葉掘り聞かれる俺。
ギルドマスター、エトワ。魔法に長けたエルフの中でもトップクラスの魔法の使い手で、どんな生意気な奴らでもこの人の前では借りてきた猫だ。
俺も勿論例に及ばず。借りてきたおっさん猫である。
ああ、折角昨日調子を取り戻したはずの胃が痛い。
エトワさんの緑の瞳による視線の刃が突き刺さる。主に俺の胃に。
「ふむ……しかし、にわかには信じがたいステータスだね。とはいえ、ハク医師が診た以上、嘘ではないだろうし……」
ハクというあの医者がエトワさんの信頼をここまで得ていることに驚く。俺の死にそうなステータスを見て死にそうだったあの人、そんなにすごかったのか……。
顎に手を当ててふむ、と考え込むエトワさん。
「まあ、いいさ。カイエン君。君は今健康な身体になりつつあるようだし……健康であることは良い事だ。それにドドについては他からも声が挙がっていた。不問としよう。不安定とはいえ、Aランクの冒険者を手離すには惜しいしね」
「あ、ありがとうございます!」
俺は頭を下げるが、ギルドマスターは手をひらひらさせるだけ。そして、その目は俺をまだ値踏みしているように感じる。引き続き胃が痛い。
「とはいえ……まだ呪いは残っている以上、普通にAランクとして扱うわけにはいかない」
「……はい」
エトワさんの言う通り、俺にはまだ呪いがいくつも残っている。
昨日、ユリエラさんの料理を食べたことで呪いが少し薄れた。が、であれば逆もまた然り。何かの拍子で呪いが進行し、弱体化することもありうる。
「うむ……なので、一旦君をGからEランクまで特例で上げる。そして、ギルド側からの依頼として同ランクパーティーの追加要員になり一つずつ実績を積み重ねて言って欲しい」
「……といいますと?」
おっさんは鈍感の呪いにかかっているのだ。察しが悪い。
「まずは、Eランクになってもらう。そして、一つ下のFランク冒険者のパーティーにギルド公認の追加要員として参加。基本的には依頼報酬はパーティーのもの。君への報酬は冒険者ギルド側から出す。それで暫く様子を見させて欲しい。どうかな?」
どうかなと言われてもこちらとしては安定して報酬が貰えるのだ。そして、相手パーティーにとっても邪魔にさえならなければ丸儲けになるので嫌な目で見られることは少ないだろう。俺は二つ返事で了承し参加した、のだったが……。
「じゃあ、やるぞ! はーい! 視聴者の皆さん、こんにちは! ゆーとりますけどもー!なんちゃって! ルーキー冒険者のユートです。そして、相方サリーです。今日はちょっと事情があって、元Gランクのおじさんと一緒に、このF級ダンジョン【小鬼の塒】に挑むことになりました」
【がんばれーユート】
【おっさんの介護とか大変だなwww】
一応上のランクであるはずのおっさんには確認をとらずに撮影精霊を召喚し配信を始める若者。ノリが……。
まあ、まだ10代だしなあ……コウサエに比べればマシマシ。
ではあるけれど、不安は山積みだ。何の確認もせずにダンジョンに入る気だし、まだ冒険者資格をとったばかりなのに小鬼〈ゴブリン〉に挑むつもりのようだし、それに……
「おじさん! いくよ!」
「あ、あの……カイエンさんですよね? いきましょうか」
俺は痛む胃を抑えながらダンジョン【小鬼の塒】に入っていく若者たちについていく。
「いやー、ダンジョンゆーとりますけれどもー! 所詮は、冒険者の入り口F級なんでね。ちょちょっと攻略しちゃいたいなーと思いますけれどもー!」
【いけるいける】
【余裕でしょ】
【いや、おっさん介護のハンデがあるからなー】
ノリがキツイ。最近の10代の配信というのはこんな感じなんだろうか。
おっさんが見る配信は、S級の気持ち良い活躍とか、あとは死なないようにする為の安全講座配信とかなので新鮮であり、未知。
そもそも……
「ゲギャ! ギャギャギャ!」
「げ! 3方向から! 卑怯だぞ!」
ゆうとりますけれどもー。ゴブリンは小賢しい魔物だ。あんなに大きな声でダンジョン内を歩けば気付かれるに決まっている。余程自信があったのだろうけど、果たして多方向からの襲撃に対応できるのか。
「卑怯だぞー!!!!」
ゆうとりますけれどもー。どうやら策はなかったらしい。正面から一対一なんてそんな甘い世界でもないし、気配を読み取って見ずに斬る事が出来るなんてそれこそB級以上でなければ難しいだろう。
「えーと……ユートさんは左のゴブリンを倒しちゃってください。正面と右のゴブリンは私が牽制しておきますのでその間にサリーさんが魔法を準備してください」
「は、はい!」
「オレもそう思ってたからなああああ!」
叫びながら突進するユートくん。慌てて魔法を準備するサリーさん。うむ、若い。
俺はサリーさんの魔法の準備が整うまで時間稼ぎ。片手剣を構え二匹のゴブリンに視線を送る。それだけでもゴブリンの間に緊張が走るのが分かる。ゴブリンは小賢しいが強い魔物ではない。自分の命が大事だ。だから不用意には飛び込んでは来ない。
だが、魔法の準備をしている魔法使いがいる以上放置は出来ない。じりじりと詰めてくる距離を測りながら、俺は隙を突いて足元の石を拾い投げつける。これでちょっと距離がとれれば御の字だろうと思っていた……のだが。
「ゴブリンさん、あぶないよっと! ……って、あれ?」
ドゴォオオオオオオオオン!!!!!
風を巻き上げながら飛んでいった石は右に居たゴブリンの頭を綺麗に貫き、その奥の壁に轟音を立てながらぶっ刺さる。
「……は?」
【は?】
【は?】
【は?】
「……は?」
うーん、やっぱりまだ自分の力すら把握が出来ていなくて不安すぎるなあ。
あー、胃が痛い。
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