第13話 おじさん、健康診断後に健康的な食事
「これは夢?」
俺は夢を見てるのか? 頬をつねって痛みを感じる、必要はない。 胃が痛いもの。うん、現実だ。
そして、俺の目の前には……俺がぼーっとしている間にユリエラさんがテキパキと準備してくれた美味しそうな料理が並べられている。
「あの……先程の肉を食べやすく調理してみました。あと、サラダやスープなどがあれば、もっと胃に負担をかけずに食べられると思いまして……あの、そんなに料理が上手なわけではありませんが、その……今日のお礼に……なるかどうかわかりませんが……よろしければ……」
少し恥ずかしそうに顔を赤らめているユリエラさん。
「いやいやいや! こんなにうまそうな料理に恥なんて一つもない!」
俺は慌てて首を振るが肩と首がつりかけてまたみっともない姿をユリエラさんに見せ笑われてしまう。
(それにしても……)
小さくダイス状に刻まれソースがかかった肉にサラダ、スープとデザートまでついている。これ食ってもいいのか……? 俺だけどいいのか!? ポカーンとしているとユリエラさんが何故か更に顔を真っ赤にさせ慌てだす。
「あ、あの……やっぱり、駄目でしたよね。私ったら……」
「いや! 食べます!」
俺は慌てて料理に手を伸ばしフォークで肉を刺し口に運ぶ。こんなに食欲があるのなんていつぶりだろうか。
うまい。うますぎる!
ソースのかかったこの肉は柔らかく、かみ切れる。そして、肉の味が口いっぱいに広がる。だが、くどくない。胃が痛い俺でも食べられるように工夫されているのだろう。スープもサラダもパンも全部うまい!
「う……うまいです」
俺が涙を流し、この感動を伝えるとユリエラさんはとても嬉しそうに微笑んでくれた。
「ふふふ……よかったです」
いや、本当にうまい!気付けば胃も痛くない!ああ、味を感じる!
「え……?」
味を感じる? 俺はまだ味覚の呪いにかかったままのはずなのに?
『呪いは気からとも言う。カイエン、とりあえず、元気出せ。そしたら、少しずつでも呪いは解けてくから』
ふとシアに別れ際に言われた言葉を思い出す。おっさんは忘れっぽくてよくない。
だが、今、その言葉を思い出し、実感する。
少しだが健康になって前向きになれた。すると、肉を食べれるんじゃないか、と思った。
やさしいユリエラさんの作ってくれた料理を見て、食べたいと思った。
「元気、か……」
「カイエンさん? 何か料理に……」
俺は零れてくる笑みを噛み殺し、大きく口を開き、料理を頬張る。
「もご……いやあ、よく噛みしめて食べるように……美人の料理を慌てて食べるのは勿体ないって、医者に止められてるのを思い出しました」
「! ……身体の調子よくなったと思ったら、口まで調子がいいんですね」
ユリエラさんが笑う。俺も笑い返す。そして、俺は食事を続ける。
うまい。うまいぞ!
久しぶりに胃が痛むことなく満腹感に浸る俺。そんな俺をユリエラさんがチラチラと暫く見ており何事かと話しかけようとすると、急に綺麗な白い手でぎゅっと拳を作り、ふんすと頷き俺を見てくる。
「あ、あの……カイエンさん……」
「はい?」
「カイエンさんは……その……健康調査で、その、身体の調子が悪いと言われたわけじゃないですか……その……私、実は食事の……栄養に関する勉強をしてまして……で、その……多分ルルエが……暫く送るようにカイエンさんにお願いした方がいいって言ってたんです。で……その、私としても、もし送っていただけるのであればうれし……助かりますので……なので……よければ……また明日もウチでごはんを……」
「え、ええ!? いいんですか!?」
ユリエラさんの言葉を遮って大声を上げる。すると、ユリエラさんは少し驚いた顔をした後、またふんすと頷き、
「は、はい! 私の料理なんかでよければ!」
俺は心の中でガッツポーズをした。
いやあ! 本当にユリエラさんはやさしいなあ! こんなおじさんにお礼としてお料理をつくってくれるだなんて!
ここはおじさんらしく図太く遠慮せずに甘えてしまおう! どうせ数日の話だろうし、うん、鈍感の呪いのせいにしよう! いやあ、健康のための料理ってすごいなあ! どんどん健康になっている気がする。
「あはは! うれしいなあ! いやあ、毎日でも食べたいくらいおいしいですからねえ! ユリエラさんのお料理!」
「ま、毎日!? それって……その、私とでよければ、毎日……カイエンさんのために……」
ユリエラさんが何か小声で言っているが、よく聞こえなかった。聴覚の呪いは大分ひどいようだ。まあ、いいさ。そのうち治るだろう。
「あははははは! 嬉しいです!」
「うふふ、よかったです」
そうして、俺は暫くの間、ユリエラさんの健康に気遣った料理を頂く、つもりだった。そう、その『暫く』というのがいつまでになるのか知らないままに。
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