第12話 おじさん、健康診断後に買い食い
「ユ、ユリエラさん……そのー」
ユリエラさんが顔を伏せ胸元を押さえている。
そりゃあそうだ。あんな大量の木材が倒れてきたら誰だってびっくりして心臓が痛い。以前の弱った俺なら心臓麻痺で死んでる。
いや、正直今も心臓が痛い。
あと、胃も痛い。いや、ほんとにユリエラさんに何かあったら、と想像したら胃が尋常なく痛い。
俺は、少しでもユリエラさんの心を落ち着かせるために何が出来るか思案する。
さっきの騒ぎも落ち着き、街中はいつも通り人が多く、活気にあふれている。冒険者ギルドが近くにあるからか冒険者も多く、武器をぶら下げた奴も多いのでトラブルが起きないように気を付けなければならない。
露店ではまだ日も沈まぬ内から酒をあおり肉にかぶりついている奴もいる。
正直、うまそう。だが、あんな風に飲み食いするのは不健康おっさんには無理だ。羨ましい。
「……ん? 待てよ」
「カイエンさん?」
突然の閃き。俺は呪いが少しだけ解け、以前に比べれば大分健康な状態。流石にユリエラさんを送り届けようという今、酒は飲めないが、肉なら……?
「ユリエラさん、少しだけ寄り道していいですか」
「え? ええ、はい」
ユリエラさんの返事を聞くなり俺は露店に向かう。そして、デカい肉の刺さった串を二本買う。肉汁が滴り、実にうまそうだ。
「ユリエラさんどうぞ」
「え?」
俺は、肉串をユリエラさんに渡す。ユリエラさんは目をぱちくりさせている。
「いや、せっかくですし、うまいもん食べながら帰りましょう。ドドの奴のせいで帰り道も暗くなるくらいなら、なんか喰って元気出しましょうよ。俺、楽しくない帰り道は医者に止められているんですよ」
「……! ふふ、そうですね。……カイエンさん、本当に調子がよくなってきたみたいですね。嬉しいです」
俺はにかっと笑う。ユリエラさんもつられて笑い、肉串を受け取った。そして、一緒にもぐもぐしながら歩いていく。
うまい! やっぱり肉はさいこうだぜ!
と、思っていた時期が俺にもありました。
「う……腹が……」
駄目だった。普通におなかが痛くなった。そりゃそうか。飽くまで身体の状態がよくなっただけで、腹の中は依然不調なのだ。
「カ、カイエンさん、大丈夫ですか?」
ユリエラさんが心配そうに俺の背中をさすってくれる。やさしい。おじさん涙が出ちゃう。だが、俺の荒れ狂う胃はおさまらず手にはほとんど残ったままの肉串。うう……うまそうなのになあ!
「……」
涙目で俺が手にある肉串をじっと見ていると、気付けばユリエラさんが真剣な眼差しで俺を見つめていた。
「あの……カイエンさん、そのお肉、私に貰えませんか」
「ええー、ユリエラさん、すっごい食欲」
俺が感心していると、ユリエラさんぼんっと聞こえてきそうな程一気に顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ち、違います! そこまで食い意地張ってません! もう! いきますよ!」
「はいはい……そう言う事にしておきましょうね……って、あれ?」
気付けば、ユリエラさんの家にお邪魔していた。
ユリエラさんの部屋はとてもきれいだ。女性らしい、なんというか女性らしい部屋である。花も飾られているし、一つ一つの小物もかわいらしい。目悪いからなんとなくだけど。
そして、俺は今その部屋にいる。
そして、何故か……ユリエラさんが台所に立って、俺から受け取った肉を串から外し刻んでいる。うーん、聞こえるナイフの音が心地よい。耳遠いから大分聞こえづらいけど。
なんだか、鍋からいい匂いがする。鼻死んでるから多分だけど。
全てが曖昧だが、間違いないのは俺、今、ユリエラさんの家にいる。
え? 夢? もしくは、ボケた?
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