第11話 おじさん、健康診断後に送迎
お久しぶりです。完結まで頑張って書き続けたいと思います。
「さて、と……これからどうしようかねえ」
冒険者ギルドの職員と騎士団に来てもらい状況を説明し、ユリエラさんの為に一度冒険者ギルドに戻った俺は酒場でエールをちびちびやりながら自分の手をぐっぱぐっぱを握っては開くを繰り返す。
ドドを吹っ飛ばした時のような力が溢れる感じはもうない。ただ、明らかに身体の調子がいい。シアに4つの呪いを解いてもらったことによるものだが、こんなに力を抑えられてたとは……。
俺は、貸し出された魔水晶タブレットを取り出す。ちなみに、このタブレットはとんでもない呪いの数を見たハク医師が涙目で貸してくれた。
『死なないでください! 死んだらメンタルヤバくなっちゃうのでワタシ!』
よく医者になれたものである。
他の人に聞くと、まあいろいろあるらしくとにかく人が死んだらへこむから『絶対に死なせない名医』なんだそうだ。
まあ、そういう意味でも俺としては有難い。
「なんせ……」
俺はタブレットに視線を落とす。
カイエン(G・瀕死)
年齢:40
身長:179
体重:85
体力:1283(A)
筋力:1254(A)
魔力:1261(A)
敏捷:1226(A)
器用:1322(A)
状態:呪い(【???の呪い】【封魔の呪い】【鈍化の呪い】【鈍感の呪い】【聴覚の呪い】【触覚の呪い】【視覚の呪い】【味覚の呪い】【嗅覚の呪い】【老化の呪い】)
やはり、とんでもないステータスだ。クレイ爺の薬の効果が切れて少し下がったとはいえとんでもない。
全部Aランク。まあ、Aランクといっても昔最強だったが、あまりにもそのあとどんどんすごい奴らが現れて今はA、A2、A3、A4,A5と上のランクが作られた。それでもAランクはここの冒険者ギルドでは異例のランク。その上、今の俺は……。
「まだ体調不良の状態だもんなあ……」
体調を取り戻した時、俺のステータスがどうなっているのか。とんでもなく上がるのか、意外とそうでもないのかは分からない。だけど、間違いなく、今までの人生とは全く違うものになるだろう。
「はは……」
笑いがこみあげてくる。Gランクだったおっさんが一気にAランク。
俺は今からでもやり直せるんだ。冒険者を。
そう思うと元気も出てくる。エールもうまい。
「あー! いたー! カイエンさん!」
俺の名が呼ばれ振り返ると、冒険者ギルドの受付であるルルエちゃんが真っ赤なポニーテールをぶんぶんさせながらこっちにやってくる。相変わらずの元気っ子だ。
「おー、ルルエちゃん、どうした?」
俺は未だ痛む腰を抑え席を立ち、ルルエちゃんにわざわざやってきた理由を尋ねる。すると、ルルエちゃんが俺の腕をガシっと掴み彼女の可愛らしい顔が目と鼻の先に……。
「……え?」
「カイエンさん! お願いがあるんです!」
と更に顔を寄せて迫ろうとして思わずのけぞり腰を痛める。痛みに顔を歪めた俺に驚くルルエちゃんが誰かに肩を引っ張られ遠ざかっていく。そして、その肩越しにユリエラさんが申し訳なさそうにこちらを見ているのがおじさんの老眼でもぼんやりと見えた。
「本当にすみません……」
「ああ、いいんですよ。ユリエラさん。悪いのはドドです」
ユリエラさんがまた頭を下げそうになるので慌てて止める。ルルエちゃんのお願いはユリエラさんのことだった。
『またドドみたいな奴がユリエラ先輩を襲わないとは限らないですよね!? だから、今日はカイエンさんが送っていってくれませんか!?』
とルルエちゃんは真剣なまなざしで言ってきた。
冒険者ギルドのギルドマスターにもいろんなことがあったから今日は早めに帰ってゆっくりした方がいいとユリエラさんは言われたそうだ。それを聞いたルルエちゃん、一人で帰らせるのは心配だと俺に付き添いを頼んだ。つまりはそういうわけだ。俺は本当にユリエラさんにはお世話になっているし、出来る事はしてあげたい。任せろと胸を叩いてむせた。
やはり、能力は上がっても身体の不調は変わらずだった。なので、心配なところはあったのだが、ルルエちゃんが……
『カイエンさんならいろいろ安心ですし! それに……ユリエラ先輩もその方が喜ぶと思うんですよね!』
『へ?』
『……ル、ルルエ!? ちゃん! カ、カイエンさん、すみません! よろしくおねがいしますいきましょう!』
と、怒涛の勢いで連れ去られていって現在に至る。
冒険者ギルドを出ていく時には掴まれていた腕は、俺が指摘するとユリエラさんはすぐに外してくれた。それにしても、すごい力だった。ユリエラさん、冒険者としてもやっていけるんじゃないだろうか。
そんなことをぼんやり考えながらの帰り道、1人での護衛という事もあり、ユリエラさんの少し後ろをついて歩く。そこまでしなくてもと笑われたが、いきなり手に入った力だ。自分の力が分かっていない冒険者ほど危険なものはない。まだコントロールが覚束ないなら頼りには出来ない。Gランクだった時のように最善を尽くすべきだ。
不安なのは後方だけで俺が襲われればユリエラさんの背を押して逃がしてあげればいい。
「あ、あの……カイエンさん」
ユリエラさんがもじもじしながらちらと振り返り俺を呼ぶ。なんだろう? それにしても、見返り美人というのだろうか。ユリエラさんは美しい。
「……本当にいいんですか?」
「え? ああ、はい! 大分調子はよくなってますし、そうそう、ユリエラさんのお陰で健康診断受けて不調の原因が明らかになったわけですから。そのお礼ということで」
申し訳なさそうに尋ねるユリエラさん。そういえば受付嬢の制服じゃないせいか少しラフな印象。いや、実際にちょっと気が抜けているのかもしれない。俺をちらちら見ながら髪の毛をいじっている。仕事中のユリエラさんならそんな髪の毛をいじるような真似はしないし、なんだったら若い受付嬢が冒険者と話している時いじっていたら仕事中にと注意するだろう。
だが、今、彼女は仕事帰りであり咎めるものはいない。それにそれだけ気を許してくれてると思うとおじさんは嬉しいものだ。俺はそれらしい言葉を並べる。
「それに、俺は素敵な女性をほったらかしにするのを医者に止められているんですよ」
「……まあ」
口元を手で隠しはにかむユリエラさん。うむ、美しい。
「ふふ。で、では……お願いします」
再び歩き出そうとするユリエラさん。だが、次の瞬間びくりと肩を震わせ身体を硬直させる。
「あ! あぶない!」
誰かの叫ぶ声。そして、ユリエラさんにかかる影。俺がユリエラさんより早く左を見ると木材がバラバラとユリエラさんの方に倒れてくる。結構な太さでユリエラさんに当たれば怪我は間違いない。
「ユリエラさん!」
俺は慌ててユリエラさんの元へ跳び、彼女を抱えると……
「……せっ、と!」
一番最初に倒れてきた木材を手に取ると水平に構え全ての木材を受け止める。
「え?」
「ん~……せっとお!」
手に持った木材で押し返し、再び木材を立てかける。だが、やはり調整がうまくいかず、いくつかの木材は壁に叩きつけられ割れてしまう。手に持っていた木材も俺の握力に耐え切れずゆっくりと折れていった。
「え?」
「え?」
ユリエラさんと街の人間たちが首を傾げている。
まあ、俺みたいなしがないおじさんがこんなことをすれば当たり前か。そりゃ驚くに決まってる。俺も自分の力に驚いている。勿論、この力が気になるのは気になるが、今はそれ以上に……。
「あのー……この木材って誰に弁償すればいいんですかね?」
老後のたくわえがまた減ってしまうことだった。ああ……胃と懐が痛い……。
お読みくださりありがとうございます。
また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。
よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。
今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!
また、作者お気に入り登録も是非!




