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貢物

 呉斗の父は雪乃の妹と、そして妖怪と共に居たのだった。

 その妖怪は牛の首に、蜘蛛の胴体を持ち、明らかに並の陰陽師では戦いにもならないほどの雰囲気を纏っていた。

 呉斗の父は少しだけ媚びるような雰囲気で妖怪に話しかける。


「牛鬼様、この娘が今回の貢ぎ物です。ご要望にお応えして、妖怪の少女をご用意いたしました」


 そう言って、父は、雪乃の妹を牛鬼の方へ差し出す。


「これが……雪女か。最近食べる女は皆普通の女でな。楽しみだ。いつも助かる」


 牛鬼をそう言って、妹を摘まんで持ち上げると、舌なめずりをする。


「いえいえ、牛鬼様。こちらもお世話になっておりますから。またよろしくお願いします」


 呉斗は、自分の父が雪乃の妹を妖怪に差し出している所を見て、言葉を失う。


(いったいいつからこんなことを? なぜ、妖怪に、人を差し出している。このことはどこまでの人が知っているんだ? なぜ村で今まで騒ぎになっていないんだ?) 


 呉斗の脳内が疑問符で埋め尽くされる。

 だが、やるべきことは分かっていた。


「何をしている!」


 呉斗はただ、叫んだ。

 それを見て、牛鬼は不快そうに顔を歪めた。


「誰だ……?」


「すみません、うちの愚息です。ご迷惑を」


 父は頭を下げると、呉斗へ向き合う。


「呉斗……そろそろお前にも伝えようかと思っていたところだ。佐渡家は代々牛鬼様にお世話になっているんだ。お前も挨拶を」


「ふざけるな! 妖怪を祓い、村人を守る陰陽師が、村人を妖怪に売るなど許されるはずがない! 今すぐその手を放せ。さもなくば、祓う!」


 呉斗は、牛鬼を睨みつけて言い放つ。


「ハハッ! 雑魚の息子が偉そうに。お前、今まで何も気づかなかったのかよ? この山は霊力も高い霊山なのに、被害が少ないとよ? 第三級立入禁止地区なのに、三級陰陽師が一人で守り切れると思うか?」


「何を言っている。事実今まで佐渡家は守り抜いてきた」


「何も知らねえようだな。この馬鹿や、村人が、俺に貢ぎ物をしてたからこの程度の被害ですんでたのよ!」


「……綺麗事で、村は守れん。少数の犠牲で、他の村人の安全が買えるのなら、と昔からこの伝統はあったのだ」


 父はそれを肯定するような台詞を吐く。


(雪乃が言っていたことは本当だった。父は本当に、妖怪に人を売っていたのだ!)


「そこをどけ。そいつを祓う!」


「何を言っている、呉斗! すみません、牛鬼様、突然のことで息子も混乱しているようで」


 その時、静かな洞に、牛鬼の舌打ちが響く。


「うるせえよ。お前等雑魚共に花を持たせてやってるのに、調子に乗りやがって」


 牛鬼は冷めた声色で呟いた後、前足を振るう。次の瞬間、何かが折れる鈍い音がした。

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