嫌い
「おいで、真、莉世。話は聞いてた?」
俺の言葉と共に、莉世と真が顕現する。
「勿論ですわ! まだ道弥様の凄さを理解していない馬鹿に格の違いを思い知らせてあげましょう」
莉世が元気満々に言う。
「頭は残せよ。それでカウントするからな」
「「御意」」
俺の言葉と共に、二人は山の中へ消える。
恐るべき速度で、山の中から妖怪達が消える。まるで山狩りだな……。
俺は呑気に座る。俺の出番はなさそうだ。
三十分後、俺の目の前には夥しい数の妖怪の頭部が積みあがっている。
その数、二百八十八体。
一方、未希の討伐数は二十三体。
未希は引きつった笑みを浮かべていた。
「嘘だろ……二百余裕で超えてるぞ……。これが新人のすることかよ……」
と周囲の陰陽師も息を呑む。
「これいくらになる? 一億超えるなこれ……」
「奴の使役している式神を見たか? あれは一級以上あるんじゃないか? 動きが全く見えなかったぞ」
一億という言葉を聞いて真っ青になる未希。
だが、俺は躊躇なく目の前に契約書を見せる。
未希は覚悟を決めた顔をして、口を開く。
「ねえ、分割でいい?」
「利子付けますからね。年利三パーセント」
しっかりと分割払いについても記載してある。払えないと思ったからな。
「げええ!」
未希は悲鳴を上げた。
「うう……大赤字だよお……。貯金全部出しても、まだ半分以上残るし」
「変な勝負を仕掛けるからです。ですが、彼の実力は分ったでしょう?」
「そりゃあもう。超新星の名は伊達じゃありませんね……はあ」
「まあおかげで多くの妖怪を祓うことができました」
「じゃあ、経費で落ちませんか?」
「落ちませんが」
「ですよねえ……」
未希はその後、こちらへやってくる。
「いやあ、本当に凄いね君。試したこと、素直に謝るよ」
そう言って頭を下げる。
「いえいえ、お礼はたっぷりいただくので」
「くうう……私の稼ぎだと五年くらいは返済にかかりそうだから、気長に待っててね」
「はい。未希さんはなぜ、この依頼に。三級ならいくらでも仕事があるでしょう」
「それは、佐渡さんは私の憧れだったんだよ。君は知らないかもしれないけど、私の世代だと、佐渡さんは超有名だったの! 一級も目指せる逸材ってことでね。二十二歳で二級になった人なんて、殆どいないからね」
と輝くような笑顔で言う。佐渡さんにつられて来てたのか。その割に雑に扱われていたな。
「なるほど。憧れの人に会えると思ってきたわけなんですね。そんなに有名だったとは。だが、それほどの人がなぜ……」
辞めたのか。
「それは私も知らない。当時は普通に話題になったよ。二級陰陽師って七十人ほどしかいないからねえ。一人でも減ると、大問題だよ。だから引退となっても籍は残ってたんだと思う」
「無駄話はそこまでです。今日はここまでにしましょう。日が暮れてきました」
前方の佐渡さんから声がかかる。
俺達は苦笑いしながら両手を広げる。俺達は村にある唯一の宿へ向かった。
築八十年ではきかないだろう木造の宿だ。不愛想な婆さんに部屋に案内されるも、天井には蜘蛛の巣がかかっている。
「空き家を宿として使ってるんじゃないだろうな……」
俺は埃っぽい部屋に嫌気がさして外へ出る。
宿の前のベンチには、煙草を吸う佐渡さんの姿があった。
「部屋に驚きましたか?」
佐渡さんは少し笑いながら言う。
「はい。あれを宿として出すとは……」
「はは。殿様商売の極みでしょうねえ。東京ならそうはいかない。しょっちゅうビジネスホテルに泊まりますが、ここより汚い部屋には未だに出会えていません」
「佐渡さんは今、陰陽師ではなく、サラリーマンをしているそうですね」
「はい。東京の会社で営業をしています」
「強かったんでしょう? なぜですか?」
俺は思わず尋ねてしまった。
「陰陽師が嫌いだからです。こんな仕事、しないに越したことはありませんよ」
今までの優しい声色から一転、低い声ではっきりと言った。
「道弥君、まだ若いのでしょう。陰陽師になどならずに、普通の職を探すといい。命を張るような価値、この仕事にはありませんよ」
佐渡さんはそう言って、煙草を地面に押し付けると吸い殻を携帯灰皿をしまい立ち上がる。
そのまま佐渡さんは宿へ戻っていった。
『強い言葉でしたなあ。何かあったのでしょうか?』
真が言う。
「なにか、事情がありそうだな」
俺は宿に戻る佐渡さんの後ろ姿を思い出しながら、そう呟いた。
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