どちらが強いか教えてやろうか？
「裏切りが得意な芦屋家と組み、こちらを裏切ったな。ゆず！」
これはもう全くこちらの言葉を信じるつもりはなさそうだ。
「おい、はっきり言ってやる。お前の弟なんて、わざわざ罠にはめるまでもない。普通に倒せるからな。それにしてもお前、正義面でこちらを糾弾しているが、やっていることは集団で囲んで少数の人間を袋叩きじゃないか。たいした正義感だ」
俺は嘲るように言った。
「なっ……！ これは正当な作戦だろう！」
「正当な作戦？ お前の弟もそうだったよ、罠にかけようとしたうえで、集団でこちらを囲んできた。それが宝華院家流の作戦なのか？」
「俺のことはともかく、我が一族を侮辱するな！ 芦屋家の分際で！」
「芦屋家を侮辱しておいて、我が一族を侮辱するな、か。いい身分だな、御三家ってもんは。実力は俺以下の癖に、家柄だけで威張れるんだから」
俺の言葉に、渚は目を血走らせ苛立っていた。
「お前に何が分かる！ 御三家であることの大変さ、それを束ねる本家の大変さ！ お前のような日陰者の芦屋家など、消えても分からん弱小一族には我等御三家の苦労など分からん。俺は我が一族を傷つける者を許さない」
「許さない？ そちらから襲っておいて随分な言いぐさじゃないか」
「まだそんな堂々と嘘を吐くか！ 恥を知れ！」
「自分の信じたいことしか信じない馬鹿を相手にするのは疲れるな。来いよ。ハンデだ、怖いなら囲っているお仲間と一緒に襲ってきても構わんぞ？」
「殺してやる！ お前如き、俺一人で十分だ！ いでよ、中鬼！」
渚は怒りながら、中鬼をもう一体、計二体召喚する。
「中鬼、叩き潰せ」
渚の言葉と同時に二体の中鬼がこちらへ襲い掛かって来た。
俺は襲い来る二体に軽く触れて呪を唱える。
二体の中鬼はそのまま光の粒子となって、消えていった。
「中鬼達が消えた⁉」
それを見ていた周囲を陰陽師がどよめきを上げる。
「しかもあの消え方は……」
そのうちの一人が唾をのんだ。
突然の式神の消失に渚も驚きを隠せないのか、叫ぶ。
「俺の中鬼をどこへやった！ 一体何をしたんだ芦屋！」
「何をしたかは、お前は分かっているはずだろう？」
「け、契約破棄など……。中鬼を契約破棄などできるはずがない。四級妖怪を契約破棄なんて最低でも二級陰陽師以上の実力が……祓っただけに決まっている！」
渚は青くなった顔をこちらを見る。その顔には、今までと違い怯えが混じっていた。
「まだ繋がりを感じるか？」
「黙れェ！ 水行・四氷槍」
渚は護符を取り出すと、呪を唱える。それに伴い、四つの氷の槍が空中に生み出されると、俺めがけて放たれる。
俺は結界で全てそれを弾く。
恐怖で少しずつ後退する渚に近づくと、俺は蹴りを放つ。
蹴りを受け、倒れこむ渚に俺は告げる。
「まだわからないのか？ 陰陽師に最も必要なものは何だと思う？ 実力差を図る感覚だ。 俺達の仕事は、自分より強い妖怪と出会うことなんてざらだ。その時、すぐさま実力差に気付き、逃げられる者が長生きできるんだ。お前、陰陽師に向いてないぜ？」
渚はしばらく悔しそうな顔をして蹲る。だが、再びこちらを振り向いた時、その顔は歪んだ笑みに変わっていた。
「確かに、今はお前の方が強いかもしれないな。だが、俺は宝華院家だ。お前は強くとも、親はどうかな？ 宝華院の力を使えば、お前の親を消すことなんて――」
ぺらぺらと話していた渚は俺の顔を見て、口をつぐむ。
「どうやら優しくしてやったからか、勘違いしたようだな。姿を見せろ、莉世。完全顕現だ」
その言葉と同時に、木々の中から莉世が飛び上がる。
背中から、灼けるほどの熱気が立ち込める。
そこには全長二十メートルを超える巨大な九尾狐、莉世が顕現していた。
「子供達のお守りはこれで終わりですね」
莉世は森の中で二人を見守らせていた。万が一の時に守らせるためだ。だが、莉世の万が一は相当な状況らしく二人は傷だらけになってしまっていたが。
完全顕現した一級以上の妖怪の妖気により、空気が歪む。
多くの陰陽師がその妖気に当てられ、倒れこんだ。
「きゅ、九尾？ なぜ……こん、な……ところに。まさか！ 白光山の九尾狐が消えたという噂があったが、お前が！」
渚はなんとか必死で意識を保っていた。
だが、歯はがちがちと音を立て、全身は震えている。莉世は前足でそんな渚を押さえつける。
「お前、今殺されないと勘違いしているんじゃないか？ もし俺の知り合いに手を出したら、お前だけじゃない。宝華院家全員をこの世から消してやる」
「お、お前如きに父さんが負ける訳がない！ 父さんは一級だぞ！」
「一級？ お前の父さんと俺、どちらが強いか教えてやろうか？ なあ、莉世」
「あの時の生意気なガキの処分ですね。魂まで焼いてあげましょう」
莉世の言葉に、渚は震え上がった。
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