久しぶりだね
電車に揺られ数時間、その後バスに三十分程度で俺は目的地の麓にたどり着いた。
埼玉県某市にある武峯神社のある山こそが今回の目的地だ。
神聖な霊力が山全体から感じられる。麓から神社までは石造りの長い階段が敷き詰められていた。
なぜ妖怪を調伏に来て、神社のある山なのか。それは、今回調伏する妖怪が神として崇められているからである。
「出世したな、真」
俺はそう呟くと、神社にたどり着くため参道を進む。
「三ツ鳥居か、珍しいな」
俺は入り口にあった三ツ鳥居を見て言葉を漏らす。
三ツ鳥居は大きな鳥居の両脇に、小規模な二つの鳥居を組み合わせたものである。
鳥居のすぐ傍には狛犬の代わりに狼の像が鎮座していた。
周囲は夏休みのせいか、参拝客の姿も見える。
どうやらここの神は随分と好かれているようだ。
階段を上がること十分、ようやく境内へ到着する。
境内にはわずかに霧がかかっており、どこか神秘的な雰囲気が漂っていた。
奥に進むと古くも丁寧に手入れがされている拝殿が見える。
俺は参拝客に混じり並ぶと、参拝を行う。
俺の目的は勿論参拝ではない。
「ここには居ないな……もっと上か」
神社は山の中腹にある。だが、俺の目的はさらに山の上に居るらしい。
俺は山の登頂許可をもらうために、神主の元へ向かった。
「登頂許可? もしや陰陽師か?」
神主が怪しそうな者を見る目で尋ねる。
「はい」
正確にはまだだけど。俺の言葉を聞いた神主が呆れた顔をする。
「定期的に来るんだよ。山の神を調伏しようやってくる陰陽師が。だけど、皆会うこともなく帰っていく。会っても、ぼろぼろになって救急車だ。神は優しいが、同時に厳しくもある。君はまだ若い。悪いが許可は出せない」
「そうですか。分かりました。ご対応ありがとうございました」
俺は頭を下げてその場を辞す。
「今年受験かい? 頑張りたまえ」
帰りかけの俺に、神主はそう声をかけた。
俺はそのまま帰ったように見せかけて、全く別の道から山を登る。
「悪いね、神主さん。友人に会いに行くんだ」
とは言ってももう千年は会っていないが。
険しいけもの道をかき分け進むこと、一時間。
肌がひりつく感覚に襲われる。
「結界か……」
おそらく一般人が山頂まで来れないように山の神が結界を張っているのだろう。壊しても構わないが……。
俺は結界を弄り、すり抜ける。
これなら中に入ったこともばれないだろう。
結界の中に入りさらに進むこと二時間、ようやく山頂近くの小さな御神殿に到着した。
この懐かしい雰囲気に俺は笑みがこぼれる。
「大口真神、お前を調伏に来た」
俺ははっきりとそう告げた。
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