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鬼人魔王

 長船と呼ばれる男は、俺に気付くとくしゃっとした笑顔を浮かべ、こちらにやって来た。


「自分が芦屋君か~~~! 挨拶したくて来たんだ!」


 身長二メートル近い巨体に、たっぷりと髭を生やしているが威圧感は感じない。

 スーツを着ているが、スーツ越しでも分かるくらい筋肉が膨らんでおり、陰陽師よりプロレスラーのようだ。

 そしてこの人……。


「初めまして。芦屋です」


「おうおう、ご丁寧に。ここは人も多い。中入ろか?」


 背後で騒ぐ長船さんのファンを放置して、再び病院に入る。

 長船さんは病院の人と知り合いだったのか、個室の待合室に通された。


「いきなり来たのにあってくれておおきにな。わしは大阪に本拠地を構えとる一級陰陽師・長船武蔵(むさし)言います。わしが大阪居らん間に三人も上級陰陽師がやられた聞いてな。それ片付けたん自分なんやろ? 助かったわ」


 と笑ってこちらに手を差し出す。


「いえいえ。仕事でしたので構わず。それに仲間も増えたので」


 そう言いながら、俺はその手を握り返した。

 気付いていたが……本当に強いな。

 特級クラスだ。


「どうかしたん?」


「まさかここまでの大物が大阪に居たとは知らず。知識不足を恥じている」


「気付いたんかいな」


 そう言って不敵に笑う。

 そう、この人。いや、彼は……。


「鬼人魔王・大嶽丸(おおたけまる)に会えるとは、光栄だ」


 目の前に魔人と呼ばれる鬼人・大嶽丸が居た。


 大嶽丸。

 伊勢国と近江国の国境にある鈴鹿山を住処にし、山を黒雲で覆い、暴風雨や雷鳴、火の雨を降らせる等の神通力を操るとされる鬼神である。

 酒呑童子、金毛白面九尾の孤と並んで日本三大妖怪に数えられる。


 室町時代初期の世阿弥作と伝えられる能の演目『田村』や、室町時代中期から後期にかけて書かれた『田村』を元にしたお伽草子『鈴鹿の草子』からも大嶽丸に関する伝説が見られる。

 色々な作品や伝説で語られる大嶽丸であるが、特筆すべきはその強さだろう。


「ハハハ、懐かしい名や。今は長船さんで通っとる。そっちで呼んでくれると嬉しい。それに自分からは懐かしい匂いがするな。酒呑童子を従える人間が、また出るとは驚いたわ」


 そうか……この二人は面識があるのか。


「お前こそ、陰陽師の真似事しているとは驚いたぜ!」


 そう言って、突然八雲が顕現する。


「数百年ぶりやなあ。もう二度と人間には従わない言うてたんに、どういう心境の変化なん?」


「こいつは――」


色々話しそうな八雲を強制的に帰還させる。


『なんでも話すんじゃない、八雲』


『なんだよー、数百年ぶりの再会なのによお。こいつもいくら殺しても死なねえから、いいんだよなあ』


『今は陰陽師として活動されているみたいだから、殺そうとするんじゃない』


『分かったよ。こいつと戦う時は俺を呼んでくれよ』


 戦えない大嶽丸に興味はあまりないらしい。なんと薄情なんだ。


「面白そうな話やったのに。酒呑童子を従える自分が三級陰陽師なんておもろいなあ。すぐ上がって来るんやろうけど。他の式神も噂だけは聞いてるけど、世界征服でもするつもりなんか?」


 長船さんは笑いながら言っているが、目が笑っていない。


「陰陽師の仕事は遥か昔から変わっていません。民の平穏を守るために俺達は居ます。それが揺らぐことは決してないでしょう」


 俺の言葉を聞いて、長船さんが微笑む


「ええ返事や。酒呑童子が再び主を持ったのが少しだけ分かったわ。自分は聞きたくないかもしれへんけど、あいつの昔の主は凄かったんや。妖怪の全盛期と言われる平安においても、彼の凄さは群を抜いていた。当時のわしも勝てへんて思たね。式神も化物揃いやと妖怪の間でも話題になってたんや。千年も前やからあんま覚えてへんけど」


 しみじみと話す長船さん。

 それ俺だよ、とも言い辛いな。


「そうなんですね」


「そうなんよ。自分の強さやったらすぐに一級に上がってこれるやろうから、よろしくな。人手不足やさかい。まあわしは鬼やけど!」


 完全に親父ギャグである。年齢で言うと千を超えているだろうから、親父どころか爺なんだが。


「その時は、よろしくお願いします」


 こうして、西を守る鬼神と初めての邂逅は終了した。


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