鏖
俺が夜杉町付近の町に辿り着いた時、現場は大きく混乱していた。
逃げのびた陰陽師達が真っ青な顔で震えている。
その姿を見ても、知っている顔はない。
桜庭先輩は……。
「突然すみません。桜庭凛華四級陰陽師を知りませんか?」
俺の言葉を聞いた女性の陰陽師は目を背ける。
「第五チームの子ね……第五チームは一人も生き残ってないわ」
とだけ言った。
死んだ……死んだのか?
この間まで普通に笑っていた桜庭先輩が?
信じられない。
だが、同時にこの状況を見て察していた所もあった。
俺が一緒に参加していれば……と後悔する気持ちが襲う。
「教えて頂いてありがとうございます」
とだけ伝えてその場を離れる。
ふらふらと夜杉町へ向かって歩く。
陰陽師は命がけだ。それは勿論、知っている。実力が足りないのであれば、戦場に出てはいけないことも……。
だが……それでも。
「殺してやる……」
立入禁止のテープを超えて町へ向かう俺を止めようとする警備員が一人。
「ここは立入……」
だが、俺の顔を見て、言葉を止めた。
俺は少し歩いた後、式神を全て顕現する。
「お前達……この夜杉町に居る妖怪は一匹残らず、鏖にしろ。頭だけは殺さず俺の目の前に連れてこい。分かったな?」
「「「「「承知しました」」」」」
普段は言うことを聞かない八雲ですら素直に頷いた。
こうして鏖殺が始まった。
◇◇◇
無理やり顕現させられた八雲は、道弥に文句を言おうと思ったがその冷めた目を見て一瞬で考えを改めた。
(あれほど切れているあいつを見たのは久しぶりだぜ。千年前初めて会った時のような妖怪に情も何も感じていない冷たい目。ハハッ! やっぱ俺を従える奴はこうでなくちゃよ!)
「お前等、暴れろ!」
八雲によって茨木童子を含めた鬼が大量に召喚される。
「俺の主が鏖殺をお望みだ。長以外八つ裂きにしろ!」
「「「「「了解!」」」」」
これによって夜杉町に住む妖怪達に暴虐の嵐が吹き荒れる。
(なんだ……あの鬼達は!? 特にあの無精ひげの男と、女! 化物じゃねえか!)
「おい、お前達、合流しに来た仲間じゃないのか? なぜこんなことを!?」
と夜杉町に住む妖怪のうちの一匹が八雲に声をかける。
「あ~ん? お前達が何かは知らねえが、お前等は残念ながら逆鱗に触れちまったんだ。もう終わりだ」
八雲がその双刀を振るうと、百を超える妖怪が一撃で消し飛んだ。
「おい、お前等! 他の奴等より多く殺せよーーー!」
「あいよ、頭領!」
瞬く間に、妖怪達は数を減らしていた。
一方莉世は宙に浮かびながら目につく妖怪全てを燃やしていた。
(雑魚ばかりですわねえ。気分転換にもなりやしませんわ)
「お前、同じ妖怪だろう! なぜこんなことをする! ここは妖怪のための国だぞ!」
と人型の妖怪が莉世に向かって叫ぶ。
「国? この程度の力で国など笑わせますわね。おままごともたいがいにしなさいな。道弥様を怒らせた罪、お前達の命で償わせてあげますわ」
「ふざけるなあああ!」
その妖怪は激昂しながら莉世に襲い掛かる。
だが、莉世の尻尾によって全身が消しとんだ。
「続々と危険を察して逃げようとしてますわね。ですが、もう無理なのですよ。道弥様が本気で結界を張っていらっしゃる。これは一匹も逃がさないという強い意志。あの鴉も部下を呼んで、続々と数を減らしているようですし、後何分持つのかしら?」
と考えていると目の前から北斗が飛んできた。
「お前達、陰陽師の式神だな! それほどの力を持ち、なぜ人間に尽くす!」
北斗は苛立った声で怒鳴りつけた。
「ラッキーですわね。おそらくお前が今回の原因。お前を連れて行けば少しは道弥様もお喜びにあるというものです」
とコロコロと笑う。
「質問に答えろ、女!」
「ああ、質問ですわね。それは道弥様が我々よりはるかに強く素晴らしいお方だからに決まっております。お前も感じているでしょう? 一秒ごとに仲間が減っているのを」
「ふざけるな! お前を殺して、すぐに終わらせ」
北斗がそう言うと同時に、自分の右翼が消し飛ぶのを感じた。
「ギャアアアア!」
北斗は悲鳴を上げる。
「あら、ごめんあそばせ。でかい翼が邪魔でしたので。ですが、これから道弥様の前に立つのに翼で飛ぶのは不敬よ」
そう言って、莉世は左翼も消し飛ばす。
「ギャアアアアア! ふ、ふざ」
莉世はその炎で北斗の全身を焼く。
「ギャアアア!」
(馬鹿な……炎に耐性のある俺を焼くこの女は何者なんだ⁉)
「五月蠅いですわねえ。少し黙らせてから連れて行きましょう」
そう言うと、莉世は北斗の頭にかかと落としを叩きこみ気絶させる。
意識が飛ぶ寸前、北斗は昔を思い出していた。
莉世はそんな北斗を引摺りながら道弥の元へ向かう。
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