その女、怪物につき
アドルフの判定など要らない。
明らかにこの女がお目当ての吸血鬼だろう。
その巨大な翼に、溢れてる妖気、特級ランクであることが分かる。
吸血鬼。
世界中で最も知られている怪物の一つであるが、その起源については謎が多い。
だが、日本人のイメージする吸血鬼は、東欧の民話や伝承を元にしていると推測されている。
東欧は昔から吸血鬼や人狼の伝承が多く、バルカン半島のなどのスラブ系民族には紀元四世紀には吸血鬼の伝承があった。
姿形は、ぶよぶよした血の塊や、生前の姿であるとされている。
またその姿は人を惹きつけるために美しい容姿を持つとも言われている。
「やっと会えたな、プリシラ! 次は逃がしてやらんぞ!」
とアドルフが吸血鬼を指さして叫ぶ。
この吸血鬼、プリシラと言うのか。
「だが、私は優しい。お前が私に絶対の忠誠を誓うのであれば、下僕として傍に置いてやってもいい! 吸血鬼の待遇にしては破格の条件だろう? どうだ?」
アドルフはそう告げる。
吸血鬼ハンターって、吸血鬼を下僕として傍に置いていいのか?
いつか寝首かかれそうだが……。
だが、一方プリシラはぽかんとしていた。
「? 誰じゃ?」
と首を傾げる。
「ふざけるな! ドイツで俺と戦って逃げただろうが!」
「違う者じゃないか? 知らんぞ」
「お前……俺のことを覚えていないのか?」
とアドルフはわなわなと震え始める。
「うーむ、雑魚のことなど覚えておらんなあ」
と煽りでもなんでもなく、素直にそう言っているようだ。
それが逆にアドルフの逆鱗に触れた。
「ふざけるなあああああああ! 殺してやる!」
アドルフは腰に差していた剣を抜く。
その剣は銀でできており、通常の武器とは違う神々しい霊気を感じさせる。
呪具、いや聖剣と言った方が正しいか。
おそらく吸血鬼狩りに最適化された武器なのだろう。
剣を構えると、凄まじい速度で一気に距離を詰める。
「主よ、私に力を」
その言葉と共に、霊気のような力がアドルフの体に溢れる。
祓魔師。
現在においては、妖怪、西欧では悪魔を狩る職業として知られているがその言葉の起源はキリスト教用語でエクソシスムを行う者を指す。
エクソシスムは「誓い」「厳命」を意味するギリシャ語であり、悪魔に憑かれた人から、悪魔を追い出して正常な状態に戻すことをいう。
国よって異なるが、その起源の通り、彼等は神の力を借りる。
陰陽師とは大きく異なる職業である。
アドルフがその剣を振るうと、輝くその剣閃の先が、閃光のようにプリシラを襲う。
だが、その閃光はプリシラの腕の一振りで、霧散する。
「なっ……⁉ ガルガンチュアを使った一撃だぞ!?」
アドルフが動揺して動きを止める。
その隙に、一瞬でプリシラは距離を詰める。
「邪魔じゃ」
まるで道行く先を邪魔された者が腕を振るうように、プリシラは腕を振った。
だが、その一撃を受けたアドルフが、骨が砕ける鈍い音と共に、何十メートルも吹き飛んだ。
死んだか……?
俺は小さく飛んで行った方向を見る。
まだ息はあるような、ないような。
プリシラは輝くような目でこちらを見ている。
「その血を寄越すのじゃ、少年! お前ほどの力を感じる血はこの千年でも見たことがない!」
「欲しけりゃ無理やり吸うんだな。祓ってやるよ」
「勿論じゃ!」
自分の元式神とは違う、本物の特級妖怪との戦い、楽しみだ。
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