アドルフ
翌日、白陽高校内も夜杉町の話で持ち切りだった。
そして、陰陽師学校であれば当然、呼ばれる者も出てくる。
「僕も夜杉町奪還チームに入りそうだよ。うちの事務所は四級以上は全員参加さ」
と桜庭先輩が言う。
「夜杉町ですが……何か危険な感じがするんですよね。気を付けてください」
「心配してくれるのかい。良い後輩を持ったね、僕は。ありがとう。だが、僕は後方支援だから大丈夫さ。とはいえ、気を付けるよ。あの夜杉町占領事件の目的が読めないんだよ」
「人の被害が思ったより少ないんですよね」
あの規模で妖怪が侵攻してきた場合は、半分以上死んでもおかしくない。
だが、九割近い町民が逃げのびている。
「君も仕事だろう? お互い頑張ろうじゃないか」
「ありがとうございます」
俺の仕事も、敵の詳細も分からないし、分からないことが多いな。
そして、本日ようやく仕事相手であるアドルフ・フォン・キールマンが日本にやって来たようだ。
テレビでは俳優のようなドイツ人の若者が飛行機から降りている所が、報道されていた。
『ドイツのS級祓魔師アドルフ・フォン・キールマンさんが来日されました。整ったルックスでドイツ内でも人気の高いアドルフさんですが、どのような理由で来日されたのかは現在不明です』
金髪をオールバックにした、碧眼の若者だ。
『アドルフさんが空港内にまでやってきました。早速インタビューしてみましょう。今回はなぜ日本に来られたのですか?』
聞かれたアドルフはにっこりと笑う。
『日本には観光でやってきました。日本食を楽しみにしています』
とだけ答えて去って行った。
『観光という答えですが、本当でしょうか? 夜杉町との関連も一部では疑われていますが……陰陽師協会の発表を待ちましょう』
そう言って中継が終わった。
やっと来たのか。
俺は仕事先である兵庫県へ向かった。
陰陽師協会兵庫県支部の待合室で、俺はアドルフが来るのを待つ。
しばらくして、扉が開き、アドルフが姿を見せる。後ろには兵庫県支部の陰陽師の方も連れ添っている。
「彼が本日の案内係か。まだガキじゃないか」
とアドルフは英語で言う。
ドイツ語じゃないだけましだろうが、英語はそこまで分からんぞ。
「こんにちは、芦屋道弥三級陰陽師です」
俺も拙い英語で返す。
「陰陽師ね……島国だけの独自文化だな。世界では祓魔師がスタンダードなんだよ。独自の階級を使っているから分かり辛いが、三級ということはB級か。こんなガキがB級とは流石島国だ。ドイツならせいぜいC級だろう」
と日本を馬鹿にし始める。
「お言葉ですが……彼は昨年の試験を一番で突破した優秀な陰陽師でして……」
と後ろの陰陽師の方がフォローしてくれる。
「こんなガキが一位か。まあいい。足は引っ張るなよ」
「今回の標的は?」
「一週間程前、ドイツから吸血鬼の始祖が逃げ出した。千年以上生きている化物がな。我が一族は長年吸血鬼狩りを行っており、今回の奴も追い詰めたのだが、直前で尻尾を巻いて逃げた訳だ。お前達程度では倒せん。そのため俺がわざわざ来てやった訳だ」
千年以上となると強そうだが……この馬鹿程度に追い詰められたのならば期待外れかもしれんなあ。
『このカス、言語はよく分かりませんが、道弥様を馬鹿にしてますね。後で消しますか?』
と莉世が尋ねてくる。
『止めろ、国際問題になるだろ』
消したい気持ちは分かるが。
「標的は分かりました。相手の目的地の当てはありますか?」
「こんな島国まで逃げていることから、おそらくどこかの田舎に隠れているとみている。港付近の田舎に隠れているんじゃないか?」
当てはないも同然だった。
探すか。
こうして、この馬鹿との吸血鬼捜索が始まった。
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