占領
昼食時、もはや恒例となった屋上での食事。
「この間は良い物を見せてもらったよ。勉強になった」
「なら良かったです」
桜庭先輩が弁当を食べながら言う。
「たまにはおかずを交換しようじゃないか。こちらからはプチトマトを出そう。唐揚げをくれたまえ」
「それ等価じゃないですよね」
「食べ物に優劣などないよ」
確かにと一瞬納得しそうになったが、なぜか唐揚げの方が上な気がするのはなぜだろうか。
「分かった。卵焼きを出そう。僕の手作りだ」
そう言って、俺の弁当に卵焼きを入れる桜庭先輩。
「仕方ありませんね」
俺は唐揚げを渡す。
卵焼きを食べるが、普通に美味しい。
だしが効いた良いだし巻き卵である。
「美味しいです」
と素直に伝えると、桜庭先輩は顔を背ける。
「僕が、作ったから当然だな。そう言えば、芦屋君は三級になって仕事が増えたかい?」
「はい。この間の依頼が来ました。多分数日以内にまたしばらく休むと思います」
「良いことだ。上級陰陽師は常に人手不足だからねえ。僕も三級陰陽師になったら芦屋道弥陰陽師事務所に入るんだから、今のうちに僕のプレートでも作っておいてくれよ」
「気が早すぎますよ、先輩……」
どうやら本当にうちに来るつもりのようだ。
前の仕事を見るに、三級には近いうちになりそうなんだよな。
「来年には受かるつもりだからね」
それは良いことだ。
平和な会話をした後、家に帰るとテレビのニュース番組はあるニュース一色だった。
それは新潟県夜杉町が妖怪によって占領されたというものだった。
『こちら夜杉町の隣町の体育館から中継しています。夜杉町に直接向かうことも考えたのですが、想像以上に危険なため、陰陽師の方から待ったがかかりました。今こちらは夜杉町からの避難民で溢れています』
テレビで流れるのは体育館の映像である。
そこには多くの町民達が怪我を負い、寝ているという地獄絵図だった。
一人の夜杉町民がインタビューに答えている。
『夜にいきなり、叫び声が聞こえたんだ。何が起こっているのかも分からなかった。だけど、多くの家が燃え、悲鳴がそこら中から聞こえたから大変なことになっているのは分かった。何も持たずに必死で逃げて来たよ。外は妖怪だらけだった……あそこは地獄だ』
と震えながら言った。
『町には四級陰陽師の方が居ましたが、未だに生死は不明です。町民は九割程度避難しましたが、未だ生死不明の方も多いようです。おそらく死者は数百人に上ると推測されています』
「かなりの被害だな」
と俺は呟く。
「これほどの被害は十年ぶりくらいか。まさか町一つがまるごと妖怪に占領されるなんてな。これは陰陽師協会が責められそうだ」
と父がニュースを見ながら言う。
その後テレビは村の中継画面から切り替わり、陰陽師協会の中継に変わる。
多くのフラッシュ音が響く中、狩衣姿の職員達が頭を下げている。
『なぜもっと強い陰陽師を夜杉町に常駐させなかったのですか⁉ この被害は事前に防げなかったのですか⁉』
と記者の批判が響く。
『上級陰陽師は全国的に不足しております。全ての町に上級陰陽師を置くことは不可能です』
その批判に、職員は申し訳なさそうに答える。
『そのせいで、数百人の犠牲者が出たんだ! どう責任を取るんだ!』
『犠牲者が出た点に関しましては誠に申し訳ございません。すぐに陰陽師チームを編成して、夜杉町奪還に向けて動きたいと思います』
『妖怪達の規模等は既に把握しているのか!?』
『規模は想定ですが、千体以上。既に周辺の妖怪が集まり始めているため、数千を超える可能性があると思われます。それを率いるのは規模を考えるとおそらく二級妖怪と思われます。こちらは二級陰陽師三名以上を中心に、百人以上のチーム編成を考えています』
『一級は出せないのか!? 今も多くの町民が体育館で震えているが』
『御存じかと思いますが、今九州地方で複数の一級妖怪による被害が発生しております。一級陰陽師の多くはそちらの案件に対応しております』
それを聞いた記者が黙る。
どうやら九州も最近荒れているらしい。
日本は妖怪が多いが、陰陽師の数はそれほど多くない。
どうしても同時多発的に暴れられると人手が足りないのだろう。
二級陰陽師三名だけでも、無理をしたはずだ。
だが、九州の妖怪が暴れるとの同時に、ドイツから祓魔師がやってくることと、夜杉町の占領事件が重なるのは偶然だろうか。
と少しだけ思った。
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