一掃
俺達二人は再び津野港にやって来た。
港に辿り着いた瞬間、凄い剣幕であのアホ社長がやって来た。
「お前、なぜすぐ来なかった! 今すぐあの化物を片付けろ!」
俺はその言葉を無視する。
「おい! 聞いているのか!」
俺は決して反応しない。
「おい! ふざけ――」
俺の胸倉を掴もうと、手を伸ばしたところで俺と目が合う。
一瞬、怯えた表情を見せたが、すぐに元の顔に戻る。
「は、話を聞いて、ください……」
「何か?」
「もう一度依頼をお願い、できませんか? しっかりと二千万払う」
「規模が事前に聞いていたものと違いますね、あの規模だと倍は必要です」
おそらく、二級案件だ。
一万を越える鉄鼠の一掃。
二級陰陽師でもできない者は多いだろう。
「ぐ……ぐ、ぐぅ……わ、分かった。四千万払う」
アホ社長は髪を搔きむしりながらも、最後は認めた。
よほど昨日の出来事で懲りたらしい。
「しっかりと協会経由での依頼をお願いします。後でごねられては敵いませんから」
「博多、頼む……」
「はい、すぐさま!」
博多さんが協会に連絡して正式な依頼となった。
「では、さっさと終わらせましょうかね。桜庭先輩は念のために二人の護衛を頼みます」
「分かったよ」
俺はそう言うと、護符を用意する。
「臨兵闘者皆陣列前行。悪しきものを捕らえよ、結界術・選捕結界!急急如律令!」
俺は半径二キロを覆う巨大な結界を生み出す。
これほどの大きさでないと、逃がす可能性がある。
一匹でも逃がすと再び増殖する。
既に昨日よりも随分増えているようだしな。
選捕結界の便利な所は結界内に閉じ込める対象を自由に選択できることだ。
この場合は、鉄鼠のみを閉じ込めることが可能となる。
強度が高い結界ではないが、俺が展開すれば鉄鼠如きに砕かれる心配はない。
俺はその結界を少しずつ圧縮していく。
巨大なドームが少しずつ小さくなっていく。
それに伴い、様々な場所に散らばっていた鉄鼠が徐々に結界内に集まり始める。
「ヂュウウ!」
異変を感じた鉄鼠達が必死で結界から出ようと暴れているが、無意味だ。
「なんという数だ……」
アホ社長が呆然と呟く。
半径百メートル、そして半径三十メートルと結界を圧縮した所で鉄鼠同時の圧縮で、鉄鼠達がつぶれ始めた。
中々気持ち悪い。
さっさと終わらせよう。
「火行・鬼火」
俺は結界を丸々潰せるような巨大な火の玉を生み出す。
骨すら残さずに燃やしてやるさ。
「鬼……火?」
桜庭先輩が小さくそう呟いた。
俺の放った鬼火は結界を通り抜け、そのまま鉄鼠を焼き尽くした。
「「「「「ヂュウウウウウウウウウウウウウ!」」」」」
鉄鼠の断末魔の声が港中に響き渡る。
だが、数秒もすれば、鉄鼠達は完全に骨も残らず灰となった。
『お見事です、主様。鉄鼠達は一匹残らず祓うことができたようです』
『よし、依頼完了だな』
「依頼は終わった。所定の口座に入金を頼む」
俺はアホ社長に声をかける。
「え? あ、ああ……。一撃で、たった一撃で祓いやがった。最初から頼んでいれば……」
アホ社長は肩を落としながら、灰を見ながらそう呟いていた。
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