被害
凛華が幸せに過ごしていた一方、
津野港では雇われ陰陽師が鉄鼠を祓おうと動いていた。
今も一匹の鉄鼠を祓う。
「ふう。俺でもやれるな。一匹一匹ならそれほど怖くねえぜ。少しずつ祓えばいい。三級のガキなんて必要ない。何がトップ組だ。俺だって機会があればすぐ三級に……」
「やれているか?」
長谷川も様子を見にやって来ていた。
「社長! 今も一匹祓いました。強さはそんなですよ」
「いいじゃないか。やはり俺の判断は間違いじゃなかった。あの馬鹿はこんな鼠退治に二千万だなんて、ふざけやがって。できるだけ早く退治しろ。もうすぐドイツからも貨物船が来るからそれまでには片付けたい」
「了解です」
雇われ陰陽師はそのまま港内に居る鼠を見つけては祓っていく。
十匹を超えた所で、汗を拭う。
「ちっ、次は三匹かよ。面倒くせえな」
そう言って鉄鼠を祓う。
「奥から鳴き声が聞こえるな。いったいどれだけ居るんだ、よ?」
雇われ陰陽師はそう言って、コンテナの後ろを覗く。
「え?」
雇われ陰陽師は小さな声を上げた。
目の前の光景が信じられなかったからだ。
目の前には視界を埋め尽くすほどの鉄鼠。
その数は五千を優に超えており、その目は仲間を殺されたことにより怒りで溢れている。
雇われ陰陽師は無知ゆえ知らなかった。
鉄鼠はその圧倒的な数により全てを一度に祓わない場合祓除が困難であり、それ故大群の場合は二級陰陽師まで駆り出されてしまうということを。
「こ……こんな数、祓える訳がねえ!」
その叫ぶとすぐさま逃げるため走り出した。
だが、鉄鼠は速かった。
「ギャアアア!」
大量の鉄鼠に噛みつかれ、男はすぐにこの世を去ることとなる。
「あの男、何を騒いで――ひ、ひいいいいいいいい!」
叫び声を聞いた長谷川は背後を振り向き、気付く。
数千を超える鉄鼠が積み重なり、まるで巨大な鼠のようになっていることを。
長谷川は必死でその場を逃げた。
◇◇◇
翌日、テレビを見ると、鉄鼠の話題で持ちきりであった。
アナウンサーが遠くから津野港を中継している。
「皆様、私は今津野港に来ています。遠くからも巨大な鼠『鉄鼠』が見えますが、あちらは小さな鼠が群れとなった姿のようです。その数は一万を越えていると言われています。既に港は壊滅的であり、被害総額は数百億円にも上ると試算されています」
テレビ画面には鉄鼠に齧られ、使い物にならなくなった大型戦やクレーンなどが映される。
「この数を一陰陽師で祓除は困難との意見があり、」
「やはりこうなったか」
鉄の船など鉄鼠からしたら餌でしかない。
こうなる前にカタをつけたかったが、仕方あるまい。
優雅に部屋でコーヒーを飲んでいると、ノックの音がする。
ドアを開けると、そこには桜庭先輩が居た。
「凄い騒ぎになっているね、芦屋君」
「当然でしょうね。被害額が大きすぎます。あの会社どうなるんでしょうか」
話していると、電話がかかってきた。
「長谷川商船の博多です。恥を忍んで申し上げます。もう一度依頼をお願いしたく……」
遅いくらいだが、どうやらようやく考えを改めたらしい。
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