新規依頼
合否発表の翌日、事務所の前には巨大なスタンド花が置かれていた。
なんかこの光景覚えがあるぞ。
岳賢の野郎じゃないだろうな。
そう言って、中心にある板を見る。
『祝 三級昇級
芦屋道弥様
二条商事 代表取締役 二条明』
明さんか。
マメだな。
俺は御礼の電話を入れる。
「もしもし。芦屋です。スタンド花ありがとうございます」
「芦屋君か。三級合格おめでとう。拙い物だが、贈らせてもらったよ」
「それにしても情報が早いですね」
「なに、合否発表前から準備をしていたのだよ。すぐに出せるようにね。君が落ちる訳がない。娘も君にはお世話になっている。最近は活き活きしていてね。いつも陰陽術の練習をしているんだ。この間も―—」
その後、ずっと都の話が続く。
どれだけ娘好きなんだ、この人。
「あの、学校の時間がありますので」
「ああ、そうか。これから学校か。困ったことがあったらいつでも言ってくれ」
そう言って電話が切れた。
朝から謎に疲れたな。
俺はそう思いながら、白陽高校に向かった。
校門を超えると、待っていたのか都が走って来た。
「道弥様、おめでとうございますですわあああ!」
かなりハイテンションである。
「ありがとう」
「流石、道弥様ともなると冷静ですわね」
「まだ、通過点だからな」
早く一級になることもそうだが、実力も上げねばならない。
毎日訓練はしているが、実践も足りない。
そう考えていた。
いつものように屋上で食べていると、また桜庭先輩がやってきた。
もはや日課となっている。
「やあやあ、合格おめでとう」
と飄々と言いながら、隣に座る。
「皆知ってて怖いんですが」
誰が漏らしているんだ。
「何を言っているんだ。君の弟子が大声で合格を祝っていたじゃないか。君が合格したことは、僕のクラスでも話題になっていたよ」
「都が原因か」
確かに大声だった。
「君なら合格すると誰もが思っていただろうから、大した漏洩じゃないさ」
「桜庭先輩は受けなかったんですか?」
「受験資格はあったが、受けなかったんだよ。事務所の代表からまだ早いと言われてね」
まあ危険もあるからな。
もう少し実力をつけてから、という方針も分かる。
「焦らなくてもいいと思いますよ」
実力を過信した者から死んでいくのが陰陽師だ。
「一発合格をした君が言っても説得力がないな……。まあ、それはいい。仕事の依頼ばかりで申し訳ないが、実はまた合同依頼をお願いしたいんだ」
「内容は?」
「鉄鼠の祓除依頼だ」
「鉄鼠ですか」
鼠に縁があるな、最近。
鉄鼠は平安時代の僧である頼豪の怨霊が鼠と変じた妖怪である。
『平家物語』曰く、頼豪は白河天皇のために皇子誕生の祈祷を行い、成功させた。
褒美に三井寺に戒壇の建立を望んだが、比叡山延暦寺の横やりによって望みは叶わなかったのだ。
それを恨んだ頼豪は百日の断食を行い、最後は恐ろしい鬼のような姿となり、亡くなった。
その呪いを受けた皇子はわずか四歳で亡くなり、延暦寺には巨大な鼠が現れ、経典や仏像を食い荒らしたという。
恐るべきはその数。
『太平記』にはその数は八万四千と言われている。
一体一体の強さは五級から強くても四級程度であろう。
だが、全てを一度に滅ぼさない限り、すぐに復活するという厄介さから三級妖怪「」に指定されている。
「鉄鼠は確かに放っておくと大変なことになりますね。報酬は?」
「満額が二千万。取り分は三級の君が九、補助の私が一だな」
千八百万か。
三級にしては高いが、鉄鼠はかなり面倒だから妥当な額だな。
「分かりました。受けましょう」
「助かるよ。うちは代表以外三級が居なくてね。代表も過労死しそうなくらい働いていて、このままだと断らないといけないような状態だったんだ」
「場所は?」
「詳細はまたメールで送るけど、兵庫県の湾岸だね。海運系の会社からの依頼で、船着き場に鉄鼠が住み着き、業務が滞っている状態らしい」
「ということは急ぎですね」
「ああ。受けてもらえるなら、明日には出発したい。宿やチケットは全てこちらで手配するよ。朝九時に東京駅でいいかい?」
「分かりました。では明日」
早速三級の依頼がやってきた。
やはり仕事は横の繋がりが大事なのかもしれないな。
今更ながら陰陽師学校の利点を感じ始めていた。
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