大鬼の一撃
全長は優に三メートルを超える、二級妖怪である。
中鬼よりはるかに鍛え上げられた筋肉に覆われ、その角は禍々しくもどこか美しい。
その体躯は人間を圧するには十分だった。
「出たっ! 野木二級陰陽師が大鬼を出したぞ!」
大鬼は手持ちの巨大な金棒に妖気を纏わせると、そのまま結界に振り下ろした。
「危ない!」
受験生が叫びそうになったのも無理はない。
大鬼の金棒は人間を一瞬でミンチに変える。
その一撃が振るわれたのだ。
凄まじい轟音が会場に響く。
「ほお……」
野木と呼ばれていた陰陽師が感嘆の声を上げる。
夜月の展開した結界は、その一撃を耐え抜いた。
だが、その結界にはヒビが入っていた。
大鬼が野木の顔を見ながら、再び金棒を振り上げる。
「どうするかね?」
野木が夜月に尋ねる。
「次は耐えられないわ」
夜月はそう言って両手を挙げると、結界を解除した。
「カウントは一分十二秒。素晴らしい」
野木は素直に笑う。
「ありがとうございます」
夜月は礼を言うと、そのまま会場を去った。
その後も受験生が続くが、一人も二十秒は持たない。
「次、七十二番。前へ」
遂に俺の番がやって来たらしい。
「あれだ……昨年の一位」
「やっぱり出て来たか……野木陰陽師、なんとか叩き割ってくれ」
と好き勝手言われている。
俺は無言で前に出る。
「それでは、結界術の展開を。結界が破壊されるまでに時間をカウントする。呪具の使用は一切が禁止されている。それでは始め」
「臨兵闘者皆陣列前行。悪しきものから、我等を守り給え。急急如律令」
俺は結界を展開する。
烏天狗が俺の結界にめがけて、攻撃を始める。
だが、結界には傷一つつくことはない。
そして二体目の烏天狗が召喚される。
二体の烏天狗による激しい連撃が結界に叩き込まれるが、全く揺らぐことはない。
「今年は優秀な者が多いな。行け」
野木は笑いながら、大鬼を召喚する。
「また出た! 大鬼だ!」
大鬼は両手で金棒を握ると、その妖気を纏わせる。
そして、俺の結界めがけて振り下ろした。
金属が当たったような澄んだ音が響く。
大きく弾かれた金棒に、大鬼の顔が驚きに変わる。
「まじかよ……大鬼の一撃を受けて、傷一つついてねえぞ」
「護符もなしに、あれほどの強度を……」
受験生達が騒ぎ始める。
大鬼は一瞬で結界の硬さを感じ取ったのか、更に金棒に妖気を纏わせる。
イベント会場が僅かに震えるほどの妖気。
「受け止めてみろ」
そう、短く大鬼は言った。
「地獄割」
大鬼はそう言って、金棒を振り下ろした。
金棒が結界に触れると同時に、妖気が爆ぜる。
会場が大きく揺れ、大気が震える。
だが、それでも我が結界が揺らぐことはない。
「これを耐えるか……そうか。これほどの……」
野木はそう小さく呟いた。
大鬼は苦々しい表情を浮かべた後、野木の方を見る。
「今の一撃でも全く揺るがないのであれば、俺では力不足だ」
大鬼はそう言って、降参のポーズを取る。
「すまないな、戻っていいぞ。その結界はどれ程持つ?」
「望むのならば、何日でも」
「言いおるわ。七十二番、測定不能だ。おそらく俺では破壊できんだろう。勿論、最高評価を渡そう」
「ありがとうございます」
俺は結界を解くと、そのまま帰路に就いた。
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