そろそろ
口からはよだれが溢れ、目は充血しており正気でないことがすぐに分かる。
「警戒しないで欲しいな。僕は味方だよ」
と桜庭先輩は少女に声をかけながら、護符をさりげなく周囲に配置していく。
だが、護符を配置していることに気付いた少女が桜庭先輩に襲い掛かる。
「シャアアアアアア!」
「ばれてしまったか。仕方ないね。少女を蝕む妖魔を消し去り、安寧を与えたまえ。浄化結界・天部光」
周囲に置かれていた護符が互いに霊力を流し、その中心に居る少女に光が降り注ぐ。
少女がその光を浴び、苦しそうに床に倒れる。
「き、効いている!」
見習いの少年が興奮の声を上げる。
「グウウウウウウウ……!」
少女は下の結界を爪で引っかきながら、のたうち回る。
そして、遂に動かなくなった。
終わった、そう考えた桜庭先輩が力を抜く。
その瞬間、凄まじい瞬発力でその少女が牙を剥き、桜庭先輩の首を狙う。
「なっ!?」
桜庭先輩が驚きの声を上げる。
油断だな。
俺は霊力を体から放ち、一瞬だけ少女に浴びせる。
それにより少女の体が硬直した。
この一瞬があれば、立て直せるだろう。
「少女から……消えろ!」
桜庭先輩は至近距離で全力の浄化光を浴びせる。
それにより、体に憑いていた悪霊が完全に祓われた。
桜庭先輩は少女を抱えると、そっとベッドに寝かせる。
少女の顔は疲れてはいたが、どこか安らかだ。
「うん、大丈夫そうだ。良かった」
俺達はすぐに下の階で待っている奥さんに、祓除が終わったことを告げる。
「無事、娘さんに取り憑いた悪霊を祓いました。もう大丈夫だと思いますが、何かありましたらご連絡ください」
その言葉を聞いた奥さんの目から涙が溢れる。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
何度も何度も、桜庭先輩の手を掴みながら感謝の言葉を唱えていた。
「お母様もお疲れ様です。今日はごゆっくりお休みください」
「そうします……」
涙を拭って、笑った。
依頼を終えた後、皆それぞれ帰路に就いた。
その夜、桜庭先輩からメールが届く。
『今日はありがとう。
悪霊の動きが最後止まったのは君が何かしてくれたのだろう?
お陰で大変助かったよ。この借りは必ず返す』
『なんのことか分かりませんね』
とだけ返信しておいた。
「お礼の連絡とは、中々マメな子ですなあ。年の割にしっかりしています」
と真が部屋でダラダラしながら言う。
こうしてみるとただの犬である。
「確かにな」
「当然ですわ! 道弥様がわざわざ気を利かせたのですから」
「まあ、そう言うな。その当然ができる者が少ないのだ。そう言えば、そろそろ三級陰陽師の試験ではありませんか?」
「よく覚えていたな。既に佐渡さんに推薦もお願いしているし、試験も申し込んでいるぞ」
そう。三級陰陽師の試験が来週に迫っている。
昇級試験受験資格は下記の三つ。
・上級陰陽師の推薦
・三十回以上の四級依頼の解決
・三回以上の国選依頼の解決
である。
そこまで難しくないため受験資格は殆どの四級陰陽師が持っている。
が、合格は別物である。
三級陰陽師の試験内容は下記。
・陰陽術試験。
・三級妖怪の単独祓除
である。
陰陽術試験は選択式らしい。
結界術・護符生成・陰陽五行術のいずれか得意な選択して、試験で披露するようだ。
結局メインとなるのは三級妖怪の単独祓除である。
まず祓除できない場合は他がどれだけ良くても落ちる。
まあ、そこは問題ないだろう。
俺はゆっくりと昇級試験を待った。
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