悪霊
三日後。
東京二十三区のとある区の住宅街。
「よく来てくれたな。この二人が今回同行する二人の見習いだ。まだ免許は持っていないが、うちの期待の新星だ」
桜庭先輩が二人の少年、少女を紹介してくれる。
「長井です! 芦屋さんですよね! ニュースで見ました! 圧倒的な一位格好良かったです!」
「長船です! 今日は勉強させてもらいます!」
と二人が笑顔で握手を求めてくる。
困惑しながらも握手に応じる。
「ありがとう。実践を見ることでしか学べないことも多い。沢山学ぶといい。うちの弟子である二条だ」
俺の紹介を聞き、二条が優雅に頭を下げる。
「師匠にご紹介いただきました、一番弟子の二条都と申します。本日はお勉強させて頂きますわ」
と都が桜庭先輩の目をはっきり見ながら挨拶をする。
「ご紹介どうも。では行こうか」
自己紹介を終え、五人で目的の家に向かう。
「長井、長船。簡単に今一度説明しておくよ。今回は悪霊祓除依頼だ。今回は僕が子供から悪霊を祓う。芦屋君には外部を守る結界と、何かあった場合に補助をお願いしている。悪霊は何で祓うか覚えているかい?」
桜庭先輩は見習いの子達に尋ねる。
「えーっと、基本的に護符で祓うん、ですよね?」
長船と言う少女が恐る恐る答える。
「その通り。悪霊は霊体だからね。護符を使い憑かれている人間を浄化し、それにより体から追い出す。浄化結界も有効だね。今回は浄化結界を使う予定だ」
「うちは基本的に二人以上での行動を義務付けているから大丈夫だと思うけど、四級以下は基本的に一人で悪霊祓除は受けない方がいい」
「失敗すると、自分が取り憑かれるからですか?」
「正解だ。それに、失敗によっては依頼主への負担もあり得るからね。できる限り万端を期さないといけないんだよ」
よく勉強しているな。
まだ若いだろうに。
隣では都もうんうんと頷いて聞いている。
話しているうちに、依頼主の家に着いた。
一般的な一軒家だが、東京でまだ建てたばかりのことを考えると、ある程度稼いでいることが分かる。
チャイムを鳴らすと、目の下に少し隈の出来た奥さんと思われる女性が扉を上げた。
「えーーっと、淀川陰陽師事務所の方ですか?」
奥さんは少し不安そうに尋ねてきた。
これだけ子供ばかりで来られたら困惑するのも無理はないだろう。
「はい。淀川陰陽師事務所所属四級陰陽師の桜庭凛華と申します。本日は祓除依頼を受け参りました。彼は本日の補佐を担当する芦屋四級陰陽師です」
「芦屋です。よろしくお願いいたします」
「……分かりました。こちらへ」
奥さんに呼ばれ、居間に案内される。
ソファに座ると、奥さんが不安そうに話し始める。
「もう娘が、おかしくなってから一週間以上が経過しているんです。話も通じなくなって、体も痩せていく一方で……お願いします! 早く娘を助けて下さい!」
奥さんはそう言って、桜庭先輩にしがみつく。
その目は涙で潤んでいた。
平安時代の時もそうであったが、悪霊に憑かれた家族も大変なのである。
なにしろ、悪霊に対する知識などない。
娘は大丈夫なのかすら分からないのだ。
ただ、陰陽師のことを信じて任すしかない。
だが、その陰陽師が優秀かどうかも分からない。
二流の陰陽師に当たってしまった場合、悪化することもあるから怖い。
「不安なお気持ちは分かります。必ず娘さんから悪霊を祓ってみせますので、ご安心ください。すぐに元の娘さんに戻りますよ」
桜庭先輩は微笑みながら、奥さんの背中をさすった。
「ありがとうございます……」
その声は嗚咽が混じっていた。
「すぐに仕事にかからせてもらいます。補佐の芦屋陰陽師に部屋の保護をお願いしますので、危険は少ないと思いますが、念のために部屋には入ってこないようにお願いいたします」
俺達は階段を上がり、一室を目指す。
妖気を感じる。あそこに悪霊が居るのは間違いないだろう。
部屋の前に辿り着くと、部屋の中から唸り声が聞こえる。
桜庭先輩が目配せをしてきたため、俺は頷く。
「臨兵闘者皆陣列前行。守護護符よ、その力を示し、我を守護せよ。急急如律令」
俺は部屋の内部を覆うように、結界を張る。これにより悪霊が暴れて外に出ることを防ぐ。
「では、入る。三人は芦屋君から離れないようにね」
室内に入ると、猫のように背中を丸めながらこちらを威嚇する少女の姿があった。
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