表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/199

犬神

 全長は五メートルを優に超えるほどの巨大であり、その目から確かな知性が垣間見える。


「ほう……犬神(いぬがみ)か」


 道弥は思わず感心の声をあげる。


 犬神。

 日本では有名な妖怪である。

 だが、その有名さに反してその由来は血塗られている。

 飢えた犬を頭部だけ出して生き埋めにする。


 餓死寸前まで追い込み、食べ物を決して届かぬ所に置く、

 それを食べようと首を伸ばした時、その首を落とす。するとその首はそのまま食べ物の元へ飛んで行き、喰らうのだ。

 その首を焼き、祀る。

 そうして憎悪を覚えた犬が犬神と成るのだ。


「あれが……犬神!」


「凄い妖気だ……!」


 生徒達が再び騒ぐ。


「準備はいいかい? 芦屋君」


「いつでも」


「雅……遊んでやれ」


 その言葉と共に、犬神が道弥に向かってその爪で襲い掛かる。


「木行・木縛り」


 道弥の言葉と同時に、犬神の下の地面から大量の木が生え始める。

 その木はまるで意志を持っているかのように、犬神に絡みつき、その動きを止め捕縛する。


「木縛りで犬神を止めるつもりか⁉」


 だが、山楽はそう言ったが、犬神はピクリとも動けなかった。

 その体は完全に捕縛されている。


「え? 嘘だろ?」


「これ、本当に木縛りなのか?」


「馬鹿な……木縛りで、雅が止められるとは……」


 木が軋む音だけが響く。


「ガアアアア!」


 その瞬間、犬神の首が飛び、道弥に襲い掛かる。

 体が動かせないと悟った犬神が、最後の武器を放ったか。


「だけど、それくらいは予想している」


 下から生えた木が、犬神の首を縛り上げた。

 そのまま犬神は地面に転がり、恨めしそうに俺を見る。


「先生、十秒です」


「……ああ。十秒経った。君の勝ちだ」


 山楽の顔には驚きが混じっている。


「道弥様、凄いですわーーーーーーーー!」


「「「すげーーーーー!」」」


 都の歓声の後、それに続くように拍手が響いた。

 道弥が二級妖怪である犬神を圧倒したという情報は瞬く間に、学園中を駆け巡った。


「犬神を……山楽先生の切り札だぞ?」


「木縛りだけで、完封したらしい」


「噂だけでないってことか」


「犬神は祓われてはないらしい。互角の勝負だったんじゃないか? 先生が手加減したのかも」


 様々な議論が生まれる。

 こうして再び道弥は注目の的となった。


◇◇◇


 視線が鬱陶しい。

 俺はため息を吐く。

 皆が見てくるのだ。


『これも有名人の定めですなあ』


 と真が呑気に言っている。

 俺は最近ずっと、逃げるように屋上に来ていた。

 鍵がかかっているため、誰も入ってこないのも良い。


 たとえ鍵がかかっていようが、真に乗って飛べば、すぐである。

 母から貰った弁当を食べていると、鍵が開く音がする。

 先生が来たのか?

 逃げるか考えていると、扉を開けて現れたのはこの間会った桜庭さんである。


「ん、先客が居る? 鍵かかっていた筈なんだが」


 と首を傾げている。


「陰陽師に鍵など意味を持ちませんよ」


「そういうものだろうか? 君は何をしているんだ?」


「クラスが五月蠅くて」


「ふむ。まあいい。僕も食事に来たんだ。ご一緒して良いかい?」


「構いませんよ」


 俺の言葉を聞き、隣に座る。


『この女……道弥様に向かって馴れ馴れしいですわね。消しますか?』


『馬鹿なことは止めろ。ただの先輩後輩関係だろ』


 とりあえず莉世を止めておく。


「どうかしたのかい? なにやら元気がないが」


「ちょっと疲れまして」


 まさか視線が鬱陶しいとも言えない。


「大丈夫かい? 無理はしない方がいい。ほら、飴をあげよう。糖分は人生に必要だ」


「ありがとうございます」


 そう言って三角形の形をした飴を渡される。


「ここは普通の学校とは違うからね。困ったことがあったらいつでも言うといい。先輩として相談にのろう」


「ありがとうございます」


「なに。後輩を助けるのは先輩の務めだからな。そう言えば君は事務所所属かい? それとも個人かい?」


「自分の事務所なので個人ですかね?」


「自分の事務所をもう建てたのかい? 凄いな」


「そういうもんなんですか?」


「ああ。学生のうちはだいたいどこかの事務所に所属して仕事の取り方や、作法を学ぶものだからね。金銭的に困難なこともあるからな」


 そうだったのか。

 そう言えば、初期の頃は腐る程スカウトが来ていたな。


「運のよいことに伝手がありまして。事務所を安く借りられたんですよ」


「それは羨ましい。なら、三日後に仕事をお願いできないかい? 人手が足りなくてね」


「内容によりますね」


「それは当然だな。依頼は悪霊祓除。子供に悪霊が憑いてしまったみたいでな。悪霊と等級は四級。うちは、祓除依頼は原則二人で受けているのだが、ちょうど四級陰陽師の手が足りない」


「分かりました。お受けします。弟子を連れて行っても?」


 その程度なら受けても構わないだろう。


「構わない。こちらも見習いが同行するからね。詳細はまたメールで連絡する」


 俺はメールアドレスを桜庭先輩と交換した。


お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、


『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです!


評価ボタンはモチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  『復讐を誓う転生陰陽師』第1巻11月9日発売予定!
    ★画像タップで購入ページへ飛びます★
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ