実戦形式
ショートカットで背が高く、すらりとした少女。
少しだけ驚いた表情でこちらを見つめている。
「新入生です」
被害者なのは間違いないが、この状況なら誤解されても仕方がないため、名前は名乗らない。
「ああ~! 新入生に返り討ちにあった訳だ。理解したよ。この時期は毎年、そこの馬鹿みたいなやつが現れるのさ。すまないね」
どうやらこの少女は一瞬で、状況を理解したらしい。
「別に問題ないですよ」
弱かったからな。
「だろうね。状況的に相手にもならなかったんだろう? 私は桜庭凛華。君は?」
「……芦屋です」
「ふーん、芦屋君ね。よろしく。私は戻るよ。君も昼休みの間に戻ると良い」
桜庭と名乗る少女はそのまま去って行った。
俺も戻るか。
俺も教室に戻った。
「道弥様、大丈夫でしたか⁉」
都が心配そうに駆け寄って来る。
「あんな雑魚は問題にならん。少しだけお灸を据えてやった。それより、桜庭という生徒を知っているか?」
「桜庭先輩ですか? 知ってますわよ。彼女は四級陰陽師ですから。中々の実力者で、彼女は二年生で五本指に入るのではと言われてますわね? 彼女も居たのですか?」
都が目を細める。
普段は見せない鋭い目つきだ。
「いや、違う。全てが終わった後に会っただけだ」
「そうでしたか。なら良かったですわ」
「それより今日は初めての陰陽術の授業だろう? 俺以外の陰陽師から師事される貴重な機会だ。しっかりと学べ」
「はい!」
そしてちょうど、昼休みの終わりを告げるチャイムがなる。
同時に、山楽先生が教室にやってきた。
「お前等、お待ちかねの陰陽術の授業だ~! 早速、訓練場に行くぞ~!」
山楽先生は豪快に笑いながら、そう言った。
山楽先生に連れられ、俺達は訓練場に向かう。
普通の学校と違い、白陽には巨大な訓練場がある。
これは普段から大規模な陰陽術の練習ができるように、東京ドーム四つ分の広大な土地が全て訓練場となっている。
その訓練場は平地や森、山などあらゆる地形に対応しており、一部の場所は妖怪も生息している。
今回はその中の一つである森のエリアにやって来た。
訓練場を覆うように巨大な結界が展開されており、ある程度は派手にやっても大丈夫のようだ。
今回向かったのは森のエリア。
草木生い茂る中に、Aクラスのメンバーが揃う。
「もう一度、挨拶をしておくか。俺は山楽。二年前まで二級陰陽師をしていた。俺は陰陽術を担当する。式神術の方は野中先生が担当する。このクラスに入った者は皆、ある程度は陰陽術について既に学んでいると思う。だが、俺は君達の実力を知らない。だから……君達の実力を見せてくれ」
山楽先生はそう言うと、中鬼を一体顕現させる。
「式神は禁止だ。あくまで陰陽術を見るテストだからね。勝てなくても構わないから、気楽にやってくれ」
山楽先生は笑う。
だが、生徒達は全く笑っていない。
「中鬼って……四級相当だろ?」
「厳しいでしょ……」
トップのAクラスであっても陰陽師試験を既に通っている者は半分程しか居ない。
残りはまだ陰陽師試験に通っていないのだ。
実力不足だとも思うが、そもそも毎年二百人程しか通らない試験なので、仕方あるまい。
「じゃあ、左側に居る君から順番にやって行こうか。名前は?」
「俺ですか⁉ 遠山銀二です!」
遠山という生徒が前に出る。
「では、スタートの合図をしたら訓練開始だ。スタート」
「火行・雀火」
スタート同時に遠山は護符持ちながら、呪を唱える。
護符から大量の小さな火の鳥が、中鬼に向かって飛び掛かる。
中鬼はその金棒を振るい、雀火を一瞬で消し飛ばす。
金棒が風を斬る音に、遠山の顔が曇る。
「ぐうっ……! 土行・泥渦」
その言葉と同時に、中鬼の下の地面が泥へと変わり、渦巻いていく。
火力不足を感じ、時間を稼ぐ方向にシフトしたか。
狙いは悪くない。
だが……陰陽術の練度が足りていないな。
「火行——⁉」
遠山が呪を唱えようとしている間に、中鬼は泥渦を突破し、遠山の目前まで迫った。
「ひっ……!」
「ストップ! 終了だ」
中鬼の太い腕が目の前まで迫った時、山楽先生からストップが入る。
遠山は腰を抜かして、呆然としている。
「雀火では大したダメージを与えられないと気付き、すぐに泥渦を唱えたのは良かったな。だが、四級妖怪を足止めするにはもう少し深さが必要だ」
「はい……」
遠山はすっかり落ち込んでいる。
「落ち込むな。今すぐ倒せたら、それこそすぐに四級陰陽師だ。だが、在学中には倒してもらうぞ?」
「はい!」
「では次の者——」
生徒が一人一人中鬼に挑む。
だが、ある程度戦えるが、祓うまでいく者は少ない。
勝てる訳がない、とぼやく生徒も居る始末。
「では、次。名前は?」
「二条都ですわ!」
都が前に出る。
「元気がいいな。では……始め!」
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