洗礼
白陽高校の話題はやはり道弥が中心であった。
「聞いたか? 芦屋の奴、綾辻さんの誘いを断ったらしいぜ」
「どの部活のスカウトも蹴っているらしい。部活に入るつもりがないんだろう?」
「私、握手してもらってきちゃったよ~! 凄く強そうだった」
「五月の昇級試験受けるのかな?」
と二年Aクラスでも話されている。
「ちっ。浮かれやがって。先輩として、洗礼ってのを浴びせてやらねえとな」
そう言って、一人の青年が立ち上がる。
「天真、お前も行くか? このまま二年が舐められていたら示しがつかねえぞ?」
青年が天真に尋ねる。
「俺は行かない。止めておけ。お前じゃ奴には勝てない」
天真の言葉を聞き、青年はますます不快そうに顔を歪める。
「天真までびびってんのかよ。活躍してたって所詮は同じ四級だ。それに陰陽師ってのはいくらでも倒し方はある」
「……好きにしろ。とにかく、俺は行かない」
天真はそれだけ言うと、黙って前を向いた。
青年は何人か友達を連れて、クラスから出て行った。
「大丈夫かねえ」
天真の友人が、笑いながら言う。
「無事だといいが」
「珍しいなあ、天真が心配するなんて。大丈夫やろ。正直、芦屋君の方が強いやろ」
「いや、あの馬鹿共がだ」
天真はただそう言った。
◇◇◇
「おい、芦屋道弥って奴は、どこだ?」
そう言って現れたのはガラの悪い二年生の男達。
周囲を威嚇するように見ている。
「俺はここだ」
「おい、ちょっとツラ貸せや。あっちで話そうぜ」
と男達は外を指す。
「道弥様、私が先生を呼んできましょうか?」
都が心配そうに尋ねてきた。
「いや、問題ない。少し席を外す」
俺は立ち上がると、男の元へ向かう。
「とっとと終わらせろ。昼休みが終わるまでにな」
「余裕かましてくれるじゃねえか。来いや」
俺は馬鹿共について行く。
向かった先は、体育館裏。
『本当に体育館裏に呼び出されるなんて、あるんですなあ』
と真が呑気に言っている。
『地面と体育館の上に妖怪が複数待機してますわね。潰しますか?』
莉世の冷たい声が脳内に響く。
『やる気満々って感じだな。問題ない。放っておけ』
完全に校舎から見えない位置まで誘導されたところで、あいつらの動きが止まる。人数は四人程。
「よく、ビビらずついて来たな」
「ビビる理由がないからな」
「テメエ、随分調子乗ってんな。そんなんだから呼び出されるんだぜ? 粋がった後輩は痛めつけられると相場が決まっているんだよ。今までは素人相手に粋がってたらしいが、俺もお前と同じ四級なんだよ!」
馬鹿の親玉が叫ぶ。
「話はそれだけか?」
「殺す! 火行・鬼火」
男が護符を持ち叫ぶとともに、地面と頭上から式神を襲い掛かってきた。
「馬鹿が! 釣られたな!」
「ハア」
俺は小さくため息を吐くと同時に、周囲から襲ってきた式神全てを霊気の放出で、消し飛ばす。
「グピッ!」
小さな悲鳴を上げ、式神達は霊気の圧で消しとんだ。
「「「「なっ!?」」」」
どうやら突然の出来事に理解が追い付いていないらしい。
「黒曜、死なない程度に」
「分かったよ」
その言葉と共に人間姿の黒曜が顕現し、手に持った錫杖を地面に突き立てる。
突風が、上空から馬鹿共に叩き込まれる。
鈍い音と共に、全員が地面に叩きつけられた。
「ぐあっ!」
「げええっ! 痛てえよぉ……!」
悲鳴を上げながら、地面を転がる馬鹿共。半分は既に伸びている。
だが、俺と黒曜を見る目は先ほどと違って恐怖が伺える。
俺は無言で、馬鹿共のトップの頭を踏みつける。
「愚かな。お前達のような雑魚ですら、一般人を傷つけるには十分な力だ。力を持つ者はそれに値する責任が伴う。分かるか?」
馬鹿からの返事はない。
「分かるか?」
踏みつける力を強める。
「は……はい! す、すみませんでした!」
「二度目はない。次は全ての式神を契約破棄させたうえで、二度と陰陽師になれないようにしてやる。分かったか?」
「はい! もう二度と……このようなことはしません!」
「とっとと失せろ」
「すぐに……!」
馬鹿のトップは伸びた仲間を置いて、必死で逃げて行った。
中々薄情な奴だ。
誰か来る前に立ち去るか。
「ありゃりゃ? 伸びてるじゃないか。あれ、君誰?」
そんな時、校舎裏に一人の少女がやって来た。