二条都
なぜか事務所に戻ったらこの間助けた二条の娘、二条都が居た。
とりあえず、俺にできることは……。
「不審者だ。つまみ出せ。後、警察に」
「分かったよ」
俺の言葉に聞き、姿を現した黒曜が都を捕まえると外に放り投げる。
その後、俺はすぐさま鍵をかける。
すると焦った都が扉を叩く。
「いきなり酷いですわ! 確かに勝手に入ったことは謝ります! この間は命を救って頂きありがとうございます! 私は二条都と申しますわ~~~! 中に入れて下さいまし~~~~!」
と必死で訴えている。
その姿を見るに、綺麗な赤髪を縦ロールにしており、初めて会った時と違い健康そうな顔色だ。
人形のように整った顔に質の良い服を纏い、誰から見てもTHE・お嬢様と言えるだろう。
不法侵入したという点を除けばだが。
「帰れ。後、そうやって入ったんだ?」
「お父様から鍵を頂きました。これなら入れるからと。後、父からも手紙がありますわ」
何考えてんだ、あのおっさん。職権乱用が過ぎる。
俺はそう思いながら、扉を少しだけ開けると手紙を受け取る。
『芦屋君へ
空が澄み清々しい秋を感じる頃となりました。
さていきなりですみませんが、娘の都が陰陽師になりたいと言い出しました。私も必死で止めたのですが、止めきれず。芦屋君の元なら安心だと思い紹介した次第です。バイトでも良いので使ってやってくれないでしょうか?我が儘をかけると思いますので先払いでお礼を渡しておきます。きっと喜んでもらえると思います
皆様お元気で、深まる秋を満喫されますことをお祈りしております。
二条明 』
簡潔に言うと、娘の面倒を見ろということか?
いくら世話になっているからって、面倒が過ぎる。
断ろう。
「これも一緒に渡すようにと言われてますわ」
再び扉越しに渡された高級そうな木箱を開けると、そこには透明な勾玉が一個入っていた。
こんなもので俺が釣られると思って……うーん。これは良い物だな。
まだ霊力が籠っていないので、如何様にも使える。
買おうとすると数千万円はするだろう。
だが、これほどの品は金があっても伝手がないと買えない。流石は二条商事社長。
それにしても、娘のためにこの額の勾玉を平気で渡すとは。親馬鹿すぎる。
『私は反対ですわ。こんな小娘を弟子なんて』
と莉世の声が脳内に響く。
俺はその場から少し離れると、無言で電話する。
「やあ、芦屋君。久しぶりだね。手紙は受け取ってくれたかい?」
二条さんは電話に出ると、明るい声色で話し始める。
「手紙は見ましたが。うちはバイトなんて募集しておりません。お断りします」
「そこをなんとか頼むよ。都が陰陽師になると言って聞かないんだ」
「頼むよ、じゃありませんよ。この仕事は危険です。娘さんのことを思うのであれば、止めるのが優しさです」
「……分かってはいるんだが、既に何日も話し合いしたんだよ。最後には認めてくれないと家を出るとまで言われてしまってね。本気で目指して、陰陽師になれなかったら諦めるとは思うんだ。君は最も私が信用できる陰陽師だ。娘がもし目指すのならば、最も信用に足る君に任せたい。大きな手間をかけるのは分かっている。私にできることならなんでもするつもりだ」
「はあ……」
これからのことを考えると大企業である二条商事との繋がりは役に立つのは間違いない、か。
「遊びではないので、ついてこれない場合はクビにします。よろしいですね。あと強い妖怪の情報が入ったら教えてください」
「分かった、約束しよう。君には迷惑ばかりかけて本当にすまない」
俺は電源を切ると、扉を開き都を中に入れる。
「認めてくれますか⁉」
都が喜色を浮かべる。
さて、どれくらい本気か確認しないとな。
正直、なれたらいいな、くらいの気持ちでやるには危険すぎる職業だ。
「君の父さんから話は聞いた。そのうえで言う。陰陽師を舐めるな」
俺の言葉に、都の顔が陰る。
「陰陽師の仕事は命がけだ。毎年多くの死者も出る」
「知っています」
「陰陽師志望の多くが五歳程から修練を始める。今幾つだ?」
「十五です」
「そんな遅く始めて成れると思うのか? 陰陽師を甘く見るな。陰陽師事務所は十五から始めた者を雇う者など殆ど居ない。皆、小さい頃から死ぬ気でやっているんだ」
「知っていますわ。私の年齢じゃ遅すぎるってことも。陰陽師がいかに厳しいかも。けど、年齢を理由に諦めたくありません」
都はこちらを見ながら、はっきり言った。
「私は貴方に命を救われました。きっと私と同じように、今もどこかで妖怪に苦しんでいる人が居ると思うのです。道弥様が私を救ってくれた時のように、今度は私が救ってあげたい。そのために、どうか私にご指導をお願いできませんでしょうか?」
都は深々と頭を下げる。
ふむ。
遊び半分ではないらしい。
であれば若人の願いを阻むものでもないか。
「今から無理やり陰陽師になろうとなると、地獄のような修行が必要になる。覚悟はいいか?」
俺の言葉を聞き、都は頭を上げ、破顔する。
「はい!」
「明日から毎日学校終わりに来い。次の試験までは休みはないと思え」
「承知しましたわ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる。
だが、俺は喜べるのは今だけだぞと、笑った。
ちなみに莉世はずっとぶつぶつと反対を表明していた。
本日よりぬるりと再開します。
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