迷子
雨が降る直前、夜月は木々の中に動く狸の尻尾を見た。
(あれは尻尾! 妖狸だ! 私でも一人で妖狸を倒せるところを見せてやろう)
夜月は道弥に褒めて欲しい気持ちから、妖狸を探して道弥から離れた。
生い茂った森の中に入るも、さっき見つけた尻尾は見当たらない。
不幸なことにはぐれたタイミングと、雨が降るタイミングが重なる。
目の前も見えないくらいの豪雨に視界が塞がる。
「あれ……ここはどこだ?」
夜月は自分が完全に迷子になったことに気付いた。
妖怪の出る山で一人、夜月はそこで自分がいかに危険な状況にあるか気付く。
「道弥ー!」
夜月は叫ぶ。だが、その声は豪雨にかき消された。
夜月は雨から逃れるために闇雲に森を駆ける。
周囲の音一つ一つが恐怖に変わる。
焦って走る夜月は、木の根に足を引っかけこけてしまう。
「いたっ!」
夜月の膝は擦り剝け、血が滲む。夜月は涙が出るのを耐え、立ち上がると必死で走る。
ようやく夜月は小さい洞穴を見つけた。
「……良かった」
夜月は洞穴に逃げ込む。
夜月はびしょ濡れの服を絞りながら、体育座りで外を見る。
「寒い……。大丈夫かな?」
夜月は不安そうに呟いた。
(道弥に調子に乗るな、って言われたのに一人で妖狸を狙った結果がこれだ。今襲われたらどうしよう……)
夜月は落ちた木々に鬼火で火をつける。
ほんのりとした焚き火の温かさに涙が出そうになった。
洞穴の奥から、何かが落ちる音がした。
夜月は体を震わせ、後ろを振り向く。
洞穴の奥は何も見えない。ただ漆黒が広がっているだけだ。
夜月は震える体を無理やり動かし立ち上がる。
(く……来るなら来い!)
夜月はそう構えるも、全く何かが来る様子はない。穴の奥へ進むと、そこには雨漏りしているところがあり、その音だったようだ。
夜月は妖怪でないことに安堵して入口へ戻る。
再び雨が止むのを外を見ながら待っていると、外から人の気配が。
「道弥!」
夜月は叫ぶも、外から現れたのは優しそうな青年だった。登山客のようにパーカーにジーパンのいでたちで傘をさしている。
眼鏡をかけ、穏やかそうにこちらへやって来た。
誰かが助けに来てくれたのだ、と夜月は喜んだ。
だが、すぐに夜月は気づく。
ここで会った者は半分以上が狩衣を着ていた。彼はなぜ私服なのか。
よく見ると、彼の後ろには短くも太い尻尾が見える。
「妖狸か!」
夜月は護符を手に立ち上がった。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです!
評価ボタンはモチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!