規模
(勝負あり、か)
俺は心の中で呟く。
旧鼠の連携の方が一枚上手であった。
旧鼠の壁は逃げるためのものではなく、相手の視線を遮るためのものだったのだ。
確実にその歯を急所に突き立てるための策。
「キュウウ!」
弥胡は大きな鳴き声を上げる。
だが、もう遅い。
そのまま鋭い前歯で貫かれたまま、回転を込め地面に叩きつけられた。
凄まじい音と共に、弥胡が消えていく。
「や……弥胡!?」
相棒の敗北にゆまは動揺してその場にコケてしまう。
長はそんなゆまに襲い掛かった。
ここまでだな。
俺が霊力を解放すると、長はびくりと震えた後すぐさま方向を変え、結界に突進を始めた。
ゆまの張った結界はゆまの動揺もありすぐに砕け散った。
「あ……駄目!」
悲鳴に近い大声をあげるも、長はそのまま逃亡し、残りの旧鼠もそれに続いて音楽室から逃げてしまった。
音楽室から旧鼠達は消え去り、俺とゆまだけがその場に残された。
ゆまは気まずそうにこちらを見る。
「あんなに敵が居るとは思わなかったから……」
俺が無言で見ていると、顔を逸らす。しばらく沈黙した後、ゆまが大声をあげる。
「……分かっているわよ! 私のミスよ! あれだけの旧鼠が村に向かったら、凄い被害が出る。行かないと……痛っ」
ゆまは捻った足首を押えて顔を歪める。
「落ち着け。今妖狐がやられたところだろう? しばらくは再顕現もできないだろうし、やられるだけだ」
「自分のミスの責任くらい自分でとる。それに、村人達も危ないわ!」
「自殺は認められない」
俺の言葉にゆまは悔しい顔を浮かべるも、最後は項垂れる。
「そ、そうね……ごめんなさい。貴方の言う通りだわ、私ってほんと馬鹿」
ゆまは完全に落ち込み、自分を責め始める。
「一人で突っ走ってやられて、妖怪を逃がして。何をやってるんだろう? 貴方も私のことを弱いお飾り陰陽師だと思ってるんでしょ? 中途半端で、どっちつかずだって。どうせ私は陰陽師としても、アイドルとしても中途半端よ!」
と自暴自棄になり始めた。
「誰もそんなこと言ってないだろう? 反省は後だ。とりあえず学校に出た旧鼠だけでも全部祓うぞ。お前の言う通り、このまま放置すると、村人に迷惑がかかる」
俺の言葉を聞いたゆまは、叱られた犬のような表情を浮かべる。
「分かっているわよ。けど、もう遅いわ」
「問題はない。結界は張ってあるからな」
俺は窓から外を指さす。
暗闇で見辛いが、外にこの廃校を囲むように巨大な結界を張っておいた。
ゆまは足を抑えながらも立ち上がり外を見る。
「えっ……このサイズの結界を一人で張ったの? いったいどれほど多くの呪具を持ってきたら?」
ゆまは口を大きく開けたまま呆然と結界を見ている。
「この程度なら護符すら必要ない。だが、数が多いな。このまま一匹一匹殺すのは面倒そうだ」
俺は刀印を結ぶと、呪を唱える。
結界は妖怪のみを捕え、少しずつ圧縮されていく。
旧鼠達は必死で結界に体当たりをしているが、揺らぐことはない。
廃校を余裕で囲うほどの結界は、十メートル四方の立方体にまでそのサイズを縮めた。
その結界内は旧鼠がぎっしりと詰まっており、悲鳴を上げている。
「土行・土流葬」
地面から土が渦を巻いて旧鼠達に絡みつく。
そしてそのまま旧鼠達を一匹残らず、土の圧力によって潰した。
横を見ると、ゆまは完全に上を向いていた。
火行だと臭いそうだから土行にしたが、やはり少女が見るにはぐろかったかもしれん。
と血を吸って黒くなった土を見てそう思った。
「陰陽師なんだから、こういうのも慣れないと」
「えっ? あ、はい!」
俺の声を聞き、ようやく我に返ったようだ。
少しの間ぶつぶつと何かを呟いた後、口を開く。
「私は失敗しちゃったけど、怪奇現象が解決して良かったわ」
ほっとしたような顔を浮かべている。
「終わってないぞ? まだ」
「何言ってんのよ? 旧鼠が原因でしょ? 既に長も仕留めたじゃない」
「さっき仕留めた奴は親ではない。この規模だとな。もっと居る。おそらくだが……五千以上」
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