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余命1000年

作者: 皐月

私の余命はあと1000年です。


正確に述べると216年前の8月に余命宣告を受けたため、残りの寿命は700年弱といったところじゃないかなと考えています。私はこの200年間、自らの人生に悔いが無いように、精一杯生きてきました。学生として学業に励みました。社会人として社会貢献のために働きました。趣味のギターも、歌も、普通に生きている人と同等に頑張っていました。ですが最近、人間としての価値観が、自分の中でぶれていると重々感じています。人間ならだれもが感じる死への恐怖。人それぞれのいきがい。平均寿命の2倍も生きているとそれら人間を構成する要素が、自分の中で分からなくなってしまっています。どんどん生活が錆びれていくのがわかります。


そんな私ですが、最近結婚しました。200年も生きてきて生涯独身にリーチがかかっているような状況でしたが、共通の趣味だったギターがきっかけで付き合うことになり、デートなどを通して結婚に至ったという流れでした。彼女は非常に温厚な性格で、こんな私とも優しく接してくれました。それからしばらくは、彼女との順風満帆な生活を過ごして、私は数十年ぶりに生きる気力を得たような気がしました。


そんな彼女から、彼女の持病の話を持ち掛けられたのは、それから5年がたった夕食後でした。浮かない顔をした彼女は、生まれつき心臓病を患っていて、今の技術では治すことは絶対に不可能だということを医者に言われたと私に話してくれました。それと同時に彼女は最長でもあと1年しか生きることができないという事実も伝えられました。私は自分の寿命を彼女に明かしていませんでした。ですがこの日の話を聞いて、絶対にその事実を彼女に隠し通さなくてはと思いました。それからは、彼女とともに作成した”死ぬまでにやりたい100のことリスト”に基づいて行動を起こしました。海外に行ったり、遊園地に行ったり、彼女が生きている間にどれだけ彼女を幸せにできるかが私のいきがいでした。


1年後、彼女は病で寝たきりになってしまいました。医者からもそう長くはないだろうといわれました。私はこの一年で、命の儚さ、尊さを学びました。また、無情にも過ぎていく時間の流れを改めて実感させられました。もしも寿命が分けられていたのならば、残り500年、私は彼女とともに幸せに暮らせていたと考えると、やるせなさで心がつぶれそうでした。そんななか病室の中、寝たきりの衰弱しきった彼女が口を開きました。


「もしあと100年寿命が延びていたら、もっとあなたと一緒にいろんなところを旅していたのに、だけどそんなことは気にならないほどこの一年間、私は幸せでした。」


私はうなずくことしかできなかった。最後に、と彼女が言いました。


「あなたの寿命がもし1000年あるとしたのなら、将来の技術で私を生き返らせてほしいな。」


そういった彼女は泣いているような、笑っているような、どこか寂しそうな顔をしていました。その日のうちに、彼女は息を引き取りました。探求心のある彼女にとってあまりにも短すぎる人生でした。一人病室でたたずんでいましたが、ずっとこのままでいるわけにもいかないなと思い、病院を後にしました。病院を出ると、大きな一本のイチョウの木が生えていました。葉が少し黄色がかっていました。これだけ生きていると、季節もわからなくなってしまいそうです。私は、彼女の願いを胸に、力強く歩いていきました。

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