地下で出会うようです
「全く、信じられないぜ。姫様が生きていたなんて⋯⋯その情報、嘘じゃないんだよな」
私はラゴスの言葉に頷いた。
頭部がワニにそっくりなラゴスは、リズがドミナントからこのレーヴァテインに来る時に、付き従っていた騎士だ。
リズが小さい頃から側で、その成長を見守っていただけありリズに対する忠誠は人一倍強い。
しかし、このレーヴァテイン城ではドルトンらの画策によって、この地下へと続く通路の門番へとその地位を落とされていた。
運が良ければ、ラゴスのシフトの時に城に潜り込めるのでは。
リズから聞かされていた言葉に私はホッと胸を撫で下ろす。
「よく信じてくれましたね」
私の言葉にラゴスは大きく頷く。
「まぁな。姫様にしか教えていない俺の秘密を全部答えてくれたんだ。姫様が生きてるって信じるには十分さ」
リズの用意の良さには頭が上がらない。
覚えることは多かったが、ラゴスが信じてくれるだけの情報を私に教えてくれていたのは助かった。
戦いばかりが強い魔族より、知略や戦術が得意なリズは良い魔王になるはずなのだが。
その能力はドルトン達によって発揮することなく、終わっていたようだ。
「ただ、申し訳ないけどこの扉は開かないぜ。この鍵はドルトンしか持っていないんだ。すまないが、俺の力でもこの扉は壊せねぇ」
私はラゴスの言葉を背に聞きながら、分厚い鉄の扉を触ってみる。
鉄の小窓がついているが、鉄格子がしっかりとはめ込まれ、そこから推測できる扉の厚みはおよそ30cmはあるだろう。
まるで、どこかの金庫みたい。
「ん?なんか上が騒がしいな」
ラゴスが地上を気にするように天井を見上げた。
どうやら、私が手洗いから戻って来ないことがバレてしまったみたいだ。
もう、この姿でいないほうがいいかな。
私はそっと意識を内面に向ける。
『劇場』の入口が意識の中で出現する。
すっと、身体の中から譲渡士の『セライ』が抜け出すと僕に向かって微笑みかけた。
僕は『劇場』の中でこちらを覗いている略奪者の『セライ』に向かって手を振った。
視界の奥で、少し照れているようにセライが手を振り返した。
そして、僕の意識は現実へと復帰する。
「ん、んんっ!?どうしたその姿は!?お前男だったのか!!」
天井から視線を戻したラゴスが、いきなり元の姿に戻った僕を見て慌てて槍を構えた。
「どっちの姿も僕だよ。じゃないと、この城には入れないでしょ」
「なんだぁ?性別なしの魔族か?それともスライム族みたいな擬態ができるやつか」
これで人族ですなんて言えばややこしいことになる。
「時間がない、僕はリズ達が入ってこれるようにこの中の城を覆っている制御装置を壊しに行かなければならないんだ」
僕の言葉にラゴスの目が怪しく光った。
「なに!それはとても面白そうなことを考えてるな。でも、言った通りそこは力自慢の俺でも開かないんだぜ。どうするんだ?」
ラゴスの言葉に、僕はリズの話していた言葉を思い出していた。
『結局、その扉どうするの?』
『レベル2000でしょ?大丈夫。私が魔法を使えば壊れるんだから、ユズキなら楽勝よ』
つまるところ、脳筋ゴリ押しというとこだ。
僕は仕方なく腕まくりをする。
あぁ、勿論服は男物に戻っているよ。
さっきまでの服の姿のままだと、危険なやつになってしまう。
「おいおい、そんな細腕じゃ無理だろう?」
後ろから呆れるようなラゴスの声が聞こえた。
「フンッ!!」
僕は正拳突きを、鍵がかかっているであろう部分に繰り出した。
──ボンッ!
バンカーに撃ち抜かれたような音が響き、僕の右手は文字通り扉を貫通した。
30cmはあろうかという鉄の厚みは、まるで豆腐に指を突き刺したかのように僕の前腕を吸い込んだ。
「よっと、これで開いたかな?」
僕はすっぽりと扉に埋まってしまった右腕を引き抜いた。
「お、お前本当に何者なんだ!?」
慌てるラゴスに僕は手招いた。
「早く中へ!さっきの音で、兵士達が地下に集まってきます」
「お、おぉ。そうだな、だがこの中に入ったことはないから、どこに制御装置があるか分からんぞ」
僕は、重さ数トンにも及びそうな扉を、普通の扉のように開いた。
二人で薄暗い通路の中に入ると、僕は元通りに扉を閉めた。
鍵は壊してしまったが、この重さの扉を開けるのには時間がかかるだろう。
「大丈夫、地図はリズから教えてもらってるから」
そう言うと僕は小さく『光球』の魔法を唱えた。
今まで魔法を使えなかった僕だが、『最適化』のお陰で、イスカに初歩的な魔法を教えてもらってからは、いくつかの魔法を使えるようになっている。
脳内の地図と眼の前の道を照らし合わせるように左右を確認すると、僕はラゴスを先導するように歩き出す。
「それよりお前、さっきから姫様のことを呼び捨てにしているが、お前は姫様の何なんだ?」
あ、しまった。
いつもの癖でつい呼び捨てにしてしまっていたけど、ラゴスにとっては仕えるべき大切な主君だ。
ラゴスから見れば、主君を呼び捨てにしてしまっている僕は大変な礼儀知らずと思われてしまっているのかもしれない。
「僕はリズの友達だよ。呼び捨てはリズから、そのように呼んでほしいって言われたんだ」
僕の言葉にラゴスは思わず立ち止まる。
慌てて僕が止まって振り返ると、ラゴスは腕で目を覆っていた。
「あ、あのリズ様にご友人ができるとは⋯⋯。姫様の訃報を聞いて、嘘だと信じていたが、まさかこのようなことが起こるとは」
やっぱり、リズはレーヴァテイン城でも死んだことになっているんだ。
きっと、そのような情報を流したのはドルトンだろう。
「鑑賞に浸っているのはいいけど、急がないと」
僕がラゴスを急かすと、彼は強く服の袖で目をこすった後、大きく頷いた。
「しかしなぁ、もしお主が姫様の恋人とでも言うものなら、俺は卒倒するところだったぞ」
あー、これは好意を向けられているとは言えないな。
そんなことを思いながらも、地下にしては広大な通路を先へと急ぐ。
「待て!」
いきなりラゴスが声をあげると、僕を静止するように肩を掴んだ。
「どうしたの?」
先は暗くて見通すことができない。
「何か来る。俺は温度に敏感だから、このひんやりした地下では動くものが分かるんだ」
そうか、地球で言う爬虫類のようにラゴスは生き物が発する赤外線を感知することができるのか。
「分かった。後ろは?」
「今はまだ大丈夫そうだ」
僕は頷くと『光球』の光量を上げると、前方へと照らした。
出力を上げた『光球』が、サーチライトのように白い光を廊下の奥へと投げかけた。
「わっ!眩しい!」
突然幼い声が聞こえた。
僕はその声に、咄嗟に光を少し横に逸らす。
通路の奥、そこには小さな人影が写った。
こんな暗闇の中、何故いるのか?
光に照らされたせいではない、真っ白な髪は雪のよう。よく見れば、頭部からは二本の角がのぞいている。
肌は褐色。
そう、フーシェと瓜二つな色をしている。
思わず、僕は視界に入った少女と思わしき姿が、見間違いなのかと思って瞬きをした。
「──なっ!!」
視界の先に、人影は消えていた。
しかし次の瞬間、声は僕の視線のすぐ下から聞こえてきた。
「やぁ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが、あの扉を壊した悪い人なのかな?悪い人なら、私がやっつけに来たんだよ」
似ている!
少し長い髪型と髪の色を、口調は明らかにフーシェとは異なる。
だが、目元や輪郭、背格好。
それらはまるで、フーシェを写したかのようだ。
屈託のない表情で笑う少女の笑みは、どこまでも純粋で、どこまでも残酷な様に僕の目に写った。
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次回は4月26日(火)までの更新を予定しています!




