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1 スペアの仕事

 私クロード・ヤンバスティーは国内では王家の次に力のある筆頭公爵家の次男だ。三つ年上の兄上のスペアとして厳しい教育もされてきた。


 私が十六歳の時兄上が婚姻し、十八歳で叔父さんになりスペアの職を退職となった。

 その際、父上から退職金のように結構な金額と学園卒業後三年間の自由をいただけた。戻ってきたら、王城勤務になる予定である。


 兄上に何かあれば義姉上との婚姻もスペア職の仕事であるので、私に婚約者はいなかったし、自国の他家もそれを理解しているので私に言い寄る他家のご令嬢もいなかった。だから、私は自分の容姿について甘く見ていた。グレーの髪に空色の瞳、整っていると言われる顔。ヤンバスティー家の象徴のような容姿はどうやら魅力的らしい。


 他国外遊先で父上が懇意にしていた貴族家に宿泊させてもらうとあからさまにその家のご令嬢との縁談を持ちかけられる。ひどい時にはベッドに忍び込むご令嬢もいた。

 それを何度か繰り返すとさすがに辟易して宿屋に宿泊する。世の中をあまり知らなかった私は部屋の鍵をし忘れて女性客に部屋へ入り込まれることもあったし、あてがわれた部屋のドアを開けた瞬間に私と雪崩れ込むように部屋に入りそのまま押し倒されることもあった。女性相手であったが投げ飛ばした。『強盗だと思った』との言い訳は信じてもらえたかは不明だが、私を責める者はいなかった。

 こうして警戒心と女性への嫌悪感とを拗らせていく。


 それでも他国を知ることは楽しかったし、社会それぞれの仕組みを知ることも楽しかった。


 三年間、フラフラと外遊した。


 自国への帰還の帰り道、母方の伯母上に会っていこうと思ったのは運命だったのだろうか……。

 伯母上はゼルアナート王国の王妃陛下である。


 ゼルアナート王国の王都の中でも高級な宿に泊まり、伯母上に手紙を送ると即座に謁見許可がおりた。

 

 謁見に王城へと伺うと、伯母上の執務室へと通される。そこにはゼルアナート王国の国王陛下もいらっしゃり、だいぶ緊張したが、お二人はにこやかに話をしてくださり、すぐに打ち解けることができた。

 しばらく対談した後、私は退室の旨を伝える。


「部屋を用意したわ。今日はゆっくりしなさい」


 伯母上が優しく微笑んだ。


「お心遣い感謝いたします。しかしながら、宿に荷物もありますし、王都を見物しましたら一週間ほどでこちらを離れますので、お気遣いいただきませんよう」


 私は恭しく頭を下げた。


「それは大丈夫よ。もう荷物も部屋に届いているわ」


「へ??」


 紳士らしくない言葉だったと思うが仕方がないことだと思う。


「明日からしばらくは、午前中にはわたくしのお茶に付き合ってちょうだい。午後からは王都見学でも王城見学でも自由にしてね。

それと、わたくしと二人の時以外は、わたくしを『王妃』と呼んでね」


 伯母上の強引さに負けて頷くしかなかった。私はメイドの案内で私に用意されたという部屋に通される。そこは客間でなく、居室のような雰囲気だった。


「ここ??」


「はい。ジレンド様にはごゆっくりしていただけるよう王妃陛下のご指示でご用意させていただきました」


「ジレンド?」


「??? クロード・ジレンド様ではないのですか?」


 ジレンドは父方の祖母の実家の家名であり、このゼルアナート王国の伯爵家である。伯母上の考えには、私が隣国の公爵家と知られない方がいい何かがあるのだろうと思った。


「ああ、すまない。しばらく他国にいて偽名を使っていたんだ」


「そうでございましたか。外遊からお戻りになられたと王妃陛下からお聞きしております。お疲れてございましょう。ごゆっくりなさってくださいませ」


 メイドはお茶を淹れてから退室していく。


 翌日、部屋に運ばれた朝食を済ませてから伯母上の部屋へと赴いた。『王妃陛下』に挨拶をするとソファに促される。

 しかし、『お茶に付き合え』というから私の国の話や母上の話や他国の話を聞きたいのかと思いきや、王妃陛下は仕事に没頭している。しばらく一人でお茶をしていたら、王妃陛下が話しかけてきた。


「クロード。これどう思う?」


 王妃陛下が文官に書類を渡し私の手元に届ける。目を通して意見を述べる。王妃陛下は納得したように笑顔であった。そんなことを数回すると昼になり解放される。意見を求められるだけでなく、時にはまさに仕事の手伝いであった。それでも午前中で終わるし、宿代の代わりだと思えば苦痛にはならない。

 午後には、部屋で食事をしてから出かけたり、王都で昼を食べながら散策したり、王城の図書館で面白そうな本を見つけたりとしていた。

 王宮のメイドは躾が行き届いているので私に秋波を送る者はいなかったし、王都では帽子とスカーフと眼鏡を駆使して容姿を隠したので気兼ねなく楽しむことができた。

 それが四週間ほど続いた。

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