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6 恋に挑戦する

 ユエバルはサラビエネに好意を持ったことはおくびにも出さず会話を楽しんだ。


「それでこの勉強会にもご興味を持たれたのですね?」


「ええ。そして、地理学を学んだ時にため池に合う土地の候補をいくつか見繕ったのです」


「そうでしたか。見繕ってくださっていたので助かりました。領地全体を隈無く見るとなると膨大な時間と労力と金銭がかかりますからね。ムワタンテ嬢が見繕ったいくつかの場所がため池に大変適しており、それを報告いたしました」


「地質調査とは、ため池地についてでしたの?

そうですか。領地のお役に立てたのなら嬉しいわ」


 サラビエネの花が咲き誇るような笑顔にユエバルはドキリと心臓を止める。愛しく感じていたところにその笑顔は兇器だった。


「はっ! はぁ……」


「え? いかがなさいましたの?」


「いえいえ、何でもありませんよ」


 ユエバルは額の汗を拭いながら誤魔化した。


「シャダカフ様は地質学を専攻なさっておりますの?」


「私はいつか家を出る身。是非、ユエバルとお呼びください」


 サラビエネは目を丸くした。学園に通っている時でも男性を名前呼びしたことはない。緊張した面持ちで口を何度かパクパクさせた。意を決して声を出す。


「ユエ……ユエバル様……」


 サラビエネが真っ赤なった。あまりのサラビエネの可愛らしさに、ユエバルは抱きしめたくなる衝動を必死で抑えた。ムワタンテ子爵夫妻から、サラビエネはメーデル殿下の婚約者になるつもりはないと聞いている。だが、建前上は婚約者希望者である。それにお茶会という公の場で抱きしめるわけにもいかない。

 ユエバルは伏せ目がちにして我慢する。


「コホン! ムワタンテ嬢にそう呼ばれるのは嬉しいですね」


「あの……。わたくしのこともサラビエネとお呼びくださいませ」


「よろしいのですか?」


 サラビエネはコクリと首を縦に振った。ユエバルはゴクリと喉を鳴らす。


「サラビエネ嬢……」


 二人は一瞬だけ目を合わせて、お互いに照れて俯いた。恋を知らないサラビエネはこれが恋の始まりだと気がつかない。

 ユエバルはサラビエネを好ましく思う自分の心に気がついていたが、今はまだ、それを表に出すときではないと自重した。


「あぁ、地質学についてでしたね。学園を卒業した後、隣国へ留学したのです。三年勉強して二年前から王城に使役しております」


 ユエバルがその場を必死に取り繕った。

 ユエバルの『留学』という言葉にサラビエネは憧れを感じた。


「留学なさられたのですか? 素晴らしいですわ」


「アハハ。学園時代は変わり者だと言われていましたよ。地質や天候に関する文献を図書館で読み漁っておりましたので。

さらにこの国にはそれを専攻する学問は存在しませんから」


「みなと違うというだけで奇異の目で見られるのは、男性も女性も関係ないのですね」


「なるほど。サラビエネ嬢は優秀すぎるがゆえに肩身の狭い思いをなさったのですね。自分より知識のある女性を好まない男は多い。全く無意味なプライドですよ。

そのような素晴らしい女性に出会えたのなら、自分も努力すればよいだけだと思います」


 サラビエネはユエバルの考えがとても嬉しくて心は震えた。淑女学でそれを出さないことは習っているので、隠すかのように早口になる。


「この勉強会によって、教養を高める女性が増えますもの。殿方みなさんがそのように考えてくださるようになるといいですわね」


「王妃陛下のご希望はその辺りにあるのかもしれませんね。この国のこれからが楽しみです」


 二人は国の未来についてたくさんの話をした。お茶会が終わるときユエバルはサラビエネに乞うた。


「サラビエネ嬢。またお話させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ええ。もちろんですわ」


 サラビエネはこの六ヶ月、いろいろな殿方と話をしてきたが、こんなにも楽しい時間は初めであった。サラビエネはユエバルの『また』という言葉を楽しみにした。


〰️ 


 サラビエネたちのグループのお茶会には必ずユエバルが参加していた。


 サラビエネはメーデルのテーブルに呼ばれていない時間はほぼユエバルと話をしている。

 ある時、サラビエネがメーデルのテーブルを離れた直後に声をかけた紳士がいた。美しいサラビエネと話をしたくて待っていたのだ。

 しかし、ユエバルが飛んできて、攫うようにサラビエネを連れていってしまった。

 メーデルは目の前で繰り広げられたことにも関わらず、そんなことは気にもしていなかった。年上であるサラビエネに興味を持っていないのだ。



〰️ 


 サラビエネが語学が苦手と聞いたユエバルはラビオナ主催の補習会に参加して教師をかって出た。サラビエネのみと話ができるわけではないが、サラビエネはそれを進んでできるユエバルこそが素晴らしいと思えた。

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