5 領地改革に挑戦する
三ヶ月目は歴史学と淑女学の勉強だった。それらの資料の説明を聞き、学習方法を理解したサラビエネは、昼間の空き時間に王立図書館へ頻繁に赴いた。そして、気がついた事をムワタンテ子爵に手紙で知らせた。
四ヶ月目は地理学と天候学での応用を王立図書館で調べ、気がついた事をまたムワタンテ子爵に手紙で知らせた。
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六ヶ月目のメーデルとのお茶会の席で、サラビエネはある高官に声をかけられた。眩しく輝くハニーブロンドの髪は耳の上で切り揃えられて清潔感があり、緑色の瞳は大きくはないが全体のバランスが整った美丈夫だ。
「こんにちは。貴女がムワタンテ子爵令嬢ですか?」
「ええ。そうですわ」
「はじめまして。私は王城の士官をしておりますユエバル・シャダカフと申します」
シャダカフといえば侯爵家であると歴史学淑女学で習った。
「シャダカフ様。ご機嫌よう。ムワタンテ子爵家が長女サラビエネですわ」
サラビエネはマナーレッスンで磨きのかかったカーテシーをした。
ユエバルは苦笑いした。
「侯爵になるのは兄なのです。そんなに改まらないでいただけると嬉しいのですが?」
「そのようには参りませんわ。そのためのレッスンですもの。このお茶会もレッスンの一つだと考えておりますの」
サラビエネは優雅に笑った。
「なるほど。ふふふ。聞きしに勝る真面目さですね」
ユエバルはその真面目さを大変好ましく思い、嬉しそうに笑った。
サラビエネは不思議に思った。
「聞きしに勝るとは?」
「実は先週までムワタンテ子爵領へ赴いておりました。ご一家にもお会いいたしました」
「まあ! 妹は元気でしたか? 弟は?」
サラビエネは目をキラキラさせた。この勉強会が始まってすでに六ヶ月目。ムワタンテ子爵夫妻は時々王都まで会いに来てくれるが、幼い弟妹とは会えていない。
「本当にご家族思いでいらっしゃるのですね。お二人共とてもお元気でいらっしゃいましたよ。
ムワタンテ嬢の真面目さについてはムワタンテ嬢のお義母上様からお聞きいたしました。大変自慢の娘であると」
サラビエネが頬を染めた。
「本当にお可愛らしい……」
ユエバルはサラビエネに聞こえないほどの声で呟いた。サラビエネが学園での事から男性不信気味だとムワタンテ子爵夫妻から聞き及んでいる。本当に美しいサラビエネは容姿への褒め言葉を素直に受け取れないようだと義母オデリーヌから聞いていた。
なので、ユエバルは大業に容姿を褒めることは得策でないと考えた。あまりのサラビエネの可愛らしさに思わず呟いてしまったが。
「それにしても、なぜあのような田舎へ行かれたのですか?」
サラビエネにはユエバルの呟きが聞こえていないようで、ユエバルはホッとした。
ムワタンテ子爵領は王都から馬車で五日ほどかかる。役人がフラッと行くようなところではない。
「地質調査ですよ。ムワタンテ嬢はこの勉強会の中でムワタンテ子爵領に関する天候不順を予兆なさったとか?」
「予兆というほどのものではありませんわ。ただ、歴史学を習ってみると我が領のある南地方はどこかしらで干ばつになっている年が多いようだと感じたのです。次の夏に我が領地で干ばつになるかはわかりませんが、いつかは干ばつになるでしょう。ですからその準備をした方がいいと父には伝えましたわ」
「なるほど」
「淑女学で爵位と高位貴族様のお名前と領地の場所などを習いましたの。わたくし、これまでは隣接する領地のお名前は存じておりましたが、さらに近隣の領地のお名前を知りましたのよ」
「それで、南地方の領地をお調べに?」
「ええ。子爵家や男爵家では残念ながら歴史書として領地で起こったことを残しているところは少ないのです。ですが、高位貴族様の歴史書にはいろいろなことが残されておりました」
「そこまでこの勉強会で教わるのですか?」
「いえ。まだ初級ですから、国全体の大まかなものだけです。でも、調べ方は教えていただきましたので、王立図書館へ赴き、調べましたの。
隣領の一つは王家直轄領ですので、これまで調べることはなかったのですが、さすがに王家直轄領だけあって、歴史書がたくさんごさいましたのよ。とても参考になりましたわ」
ユエバルはすぐさま応用できるサラビエネの才能に驚いている。
「素晴らしいお考えですね」
サラビエネは勉強や努力に関する褒め言葉であれば素直に受け入れるようで、頬を染めてニコニコとした。
「幸い、わたくしの父も亡くなった祖父も、そして曽祖父も日記をつけておりましたのよ。義母がそれらを歴史書に直す作業を始めたと聞いております」
「お義母上様も優秀であられるのですね」
「義母はとても素晴らしい方なのです。わたくしが勉学に興味が持てたのも義母のお陰ですのよ。幼い頃、わたくしの家庭教師をしてくださっておりましたの」
義理の母娘は仲が悪いところもあると聞く。ムワタンテ子爵家は大変仲が良いことは手に取るようにわかり、その理由の一つはサラビエネの素直さだと感じたユエバルは、尚更サラビエネを愛しく思った。
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