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30 メーデルは……

 メーデルに優秀だと言われたライラリンネははにかんだ。


「姉の話をたくさん聞いて、勉学に励んでまいりましたから。父もわたくしが学ぶことには幼き頃からご助力してくださり、お陰様で現在学園ではAクラスに在籍しております」


 後継者でもない子爵令嬢がAクラス入りするだけでも破格な才能だ。


「おお! それは素晴らしい。姉上殿を上回る活躍が期待できそうだね。楽しみだ」


 メーデルは若き女性が活躍することに前向きな様子を微笑ましく思った。


「クレアンナート公爵閣下。今日は閣下にお願いがありまして、父に無理矢理このパーティーに連れてきていただいたのです」


 確かにまだ学園の二年生であるなら、パーティーに参加してはいけないわけではないが、参加する者は少ない。世間を知らず恥をかいたりすることがあるからだ。

 ライラリンネには参加するだけの覚悟と教養があるといえる。


「私に願い? 叶えられる話なら叶えるよう尽力しよう」


 メーデルはデビューしたての若者を受け止めるような気持ちで請け負った。


「ありがとうございます!」


 ライラリンネの笑顔が弾け、メーデルもわかりやすく微笑んだ。


「あの、もし、わたくしが王妃陛下から『淑女の称号』の勲章をいただくことができましたら、わたくしを……」


 ライラリンネが真っ赤になって視線をメーデルの目から手元に落とした。が、意を決して再び顔を上げた。

 あまりの可愛らしさにメーデルも心から笑顔になる。しかし、それも束の間だった。


「わたくしを娶っていただけませんか?」


 メーデルは久しぶりに仮面が脱げて、口をパカンと開けた。


 必死なライラリンネはメーデルの動揺に気が付かず一生懸命に自分をアピールした。


「語学は、クレアンナート公爵領に隣接するエドラッド国語を選択します。エドラッドとの交渉や交流で閣下のお役に立てるように頑張りますわ。実はもう勉強を始めていますの」


 『王妃陛下の勉強会』では王妃候補を選ぶわけではないので、語学は三カ国語の中から選択制になっている。


「父から閣下の語学力は素晴らしいと聞いております。いつか、閣下とエドラッド国語でお話もしてみたいですわ」


 ライラリンネは目をキラキラさせてメーデルを見つめた。


 メーデルは公爵になった後も勉学を疎かにせず、語学はかなり得意になった。特にエドラッド国語は完璧である。


「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ……。

あー、俺は今……もしかして……プロポーズされているのか?」


 メーデルは仮面どころか、言葉も動揺していた。


「はいっ! そうです!」

 

 頬を染めたまま、ブラウンの瞳が見えなくなるくらいニコニコと目が細められた。それがまた人懐っこいムワタンテ子爵にそっくりだった。メーデルが心を許してしまう笑顔なのだ。


「わたくしは父から話を聞いて閣下とお会いしたいと思っておりました。

そして、今日、閣下に一目惚れしてしまったのです。決心が揺るがないものとなりましたの。

あ! でも、元々、『王妃陛下の勉強会』には挑戦するつもりでした。閣下に好かれたいだけで挑戦するわけではありません」


 メーデルはライラリンネのストレートなプロポーズに赤面して片手で顔半分を隠して横を向いていた。ライラリンネを直視できなかった。


「ムワタンテ嬢は今十七歳ということであろう? 本当に『淑女の称号』の勲章を授与されたら、俺のようなおじさんなどではなく年に見合った良縁がたくさんくるぞ」


 メーデルは真っ赤な顔で慌てて言い訳めいた事を言い始めた。


 メーデルの的外れな言い訳にライラリンネは少し悲しくなり、スカートを手をギュッと握る。それでも、諦めるつもりはなかった。


「閣下はまだ二十三歳ですよね? 男性ならお気になさるお年ではありません。

わたくしの父は二十七歳で母と結婚しました。再婚ですけど……。

お気になさるのでしたら、わたくしと政略結婚してください。隣領なので便宜も図れます。それに、わたくしは勉学に勤しみ、閣下のお役に立つようになります」


 拳を握りしめて必死に言い募るライラリンネに対してメーデルは心がふと温かくなったと 感じていた。


「その……気持ちは嬉しいのだが……。俺はそんな……」


「わたくしの何が足りないのでしょうか? 努力して補えるものでしたら、今からでも頑張ります。教えていただけますか?」


 ライラリンネの必死な瞳にメーデルは釘付けになった。ドキドキしだした自分の心臓に慄いた。


「え? あ? え? そこまでして……」


「はいっ! そこまでしても、閣下をお支えしたいです。

そのぉ……、閣下にもわたくしを好きになってもらいたいですけど、それは急がずに頑張ります……から」


 ライラリンネは俯いてしまった。『好き』という自分の言葉に反応して、恥ずかしさが増加してしまったのだ。スカートを握る手が先程とは違う理由で小刻みに震えていた。


 メーデルはライラリンネを傷つけないように、だがライラリンネに貧乏くじを引かせないように、懸命に考えを巡らす。

 ライラリンネは教養もあると伺えるし、明るい笑顔は可愛らしいし、ハキハキとした口調は好感が持てるし、頬を染めた姿は愛らしい。そんなライラリンネが他の者に笑われるようなこと―メーデルと懇意になること―になってはダメだとメーデルは考えた。


 そう考えた時点でライラリンネに好意をいだいているとは、この五年の間女性と接点を持たなかったメーデルにはわからなかった。ドキドキする心臓は罪悪感だと勘違いしている。

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