28 ラビオナの伴侶は……
『ラビオナはクロードのことはまだ何も意識していないだろう』と思っていたクロードにとって、このラビオナの反応は大変僥倖で、とても満足できるものだった。
「仕事中は、口説かないとお約束します。
ですが、私の貴女への愛はさらに強まりました。仕事以外のお時間を少しでもいただけると嬉しいのですが、いかがでしょうか?」
ラビオナはコクリと頷いていた。クロードは眦を下げ、口角はこれでもかと上がる。俯いているラビオナはそこまで喜んでいるクロードは見えていない。なので、頷くだけで何も言わないことは失礼だと思っていた。
ラビオナが小さく息を吸う。クロードはラビオナの様子を見て、言葉を待つことにした。
「わ、わたくしも、その……。この一年、クロード様が何かとお声掛けくださり、時にはアドバイスもいただけ、時には労いのお言葉をいただけて、頑張ろうと思えましたの。
理知的なお話もユーモラスなお話もとても楽しかったのですわ。
差し入れや教官の手配や備品の手配もしてくださって。支えていただいていたことに感謝と喜びと……その……お慕いする気持ちを持っておりましたの……」
ラビオナが頬を染めて微笑んでいた。
クロードが立ち上がってラビオナの隣に立ち、足元に跪く。そして、顔にあったラビオナの手を優しく取った。ラビオナも抵抗せずに手を預ける。
「ラビオナ嬢。愛しております。私と結婚してください」
頬を染めたままの上目遣いでクロードを見た。
「はい。クロード様。わたくしでよろしければ。
…………お慕いしておりますわ」
クロードはこれまでの中で一番の笑顔を見せて、ラビオナの手にそっと口づけを落とした。
クロードの笑顔と仕草に遠くから様子を見ていたメイドが数名倒れたことは、二人は知らない。
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クロードはラビオナとの婚姻のためにゼルアナート王国に正式に移籍した。そして、ラビオナを迎えるため、テレエル公爵が持っていた伯爵位を受けることになった。伯爵領の名前を取り、クロード・バスカット伯爵となる。
クロードは『浮気も離縁も絶対にない』と前置きをして、万が一の時には爵位はラビオナのものになるという念書を残した。テレエル公爵はその実直さにも感心している。
王妃陛下は甥の叙爵祝いとしてバスカット領に隣接する王家領の一部と元ブルゾリド男爵領地を譲渡した。そのおかげでクロードは領地の広さからすぐに侯爵になった。
王妃陛下はブルゾリド男爵領を得てからすぐに文官を視察に行かせていた。調査の結果、きちんと領地管理すれば充分に利益になる領地だと報告されている。
元ブルゾリド男爵に手腕がなかったことは残念でならない。
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卒業式から半年、秋の王城舞踏会にメーデルの姿があった。以前であれば壇上から降りると男女問わず囲まれていたメーデルであったが、数名の高位貴族令息以外は寄ってこない。
王妃陛下に『婚姻する相手は爵位が高いか、能力が高い方であること』と厳命されているメーデルは、その高位貴族令息たちに婚約者のいない高位貴族令嬢について訊ねてみる。しかし、十歳も下の子供しかいないだろうと言われた。
さすがのメーデルでもそれに縋るほど厚顔無恥ではなかった。
メーデルに見合う年齢で下位貴族であってもある程度知的であるご令嬢は半年前の試験を受けている。不合格であったか辞退したかは定かではないが、メーデルが声をかけるわけにはいかない。
翌週、メーデルは王妃が定めた一年の猶予を半年残して、王位継承権を放棄する。それを反省と見た両陛下は温情として王家領の中でも比較的温和な領地を与え公爵として臣下にさせた。領地の広さは伯爵程度だ。
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卒業式から二年後、王都にある一番大きな教会でクロードとラビオナの結婚式が執り行われた。
メーデルは自領の館でその報告を受けた。憂いの籠もった目で王都に続く空を見ていたメーデルに執事は声をかけずに執務室を離れた。
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騒動から五年がたった。
王家直系の公爵であるメーデル・クレアンナート公爵はすでに二十三歳だ。公爵にしては慎ましやかに生活をし、負債の返済も順調にしている。パートナーがいない分返済できる金額も多いので、あと二年もすれば完済できそうだった。
去年、書庫整理員として軟禁されていた文官を王城から貰い受けた。文官は四年で随分と窶れていた。
文官はメーデルの甘言に負け横領に加担した自分が悪いのだと、メーデルを責めることはなかった。クレアンナート公爵家の執事として雇われることに感謝さえしていた。
毎年、秋の王城パーティーと年始の王城パーティーには参加していた。服装は本当に国王陛下からの下がりを使用していた。若さと凛々しさと美しさのおかげが、下がりであっても充分魅力的な男性のそれである。
しかし、壇上から降りることはほぼなく、降りたとしても、大抵は大臣たちや他の領主たちと話をして、領地経営の相談などをしていた。
顔つきは以前のような甘えた様子はなく、それでいて穏やかな表情である。
領地をこまめにまわり領民に声をかけるクレアンナート公爵は、領民にも人気があり領地経営も芳しい。
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