27 高官の心は……
ラビオナと同時にクロードも立ち上がった。
「僕もご一緒しますよ。今日は残念なことに手を取ることはできませんが」
クロードの冗談にラビオナは頬を緩める。
「ラビオナ。クロードを困らせるくらい指摘してあげてね。彼女たちがお仕事をしやすいように、頼んだわよ」
「かしこまりました」
女性文官採用を推し進める手伝いができることにラビオナは喜びを感じていた。
問題点を考えながら王城を回り、王妃陛下の執務室に戻ると王妃陛下は不在であった。クロードとともに見学した内容をまとめたり、資料や書類の場所、今後の仕事などについて説明を受けたりしていたら、あっという間に終業の時間になった。
「今日はここまでにいたしましょう」
クロードが机に置かれた書類をまとめながら声をかけた。
「はい。ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたしますわ」
ラビオナはとても達成感と満足感を抱いており、これからの仕事の日々を楽しみに思い、思わず微笑んだ。
ふと顔を上げたラビオナは、優しい瞳でラビオナを見つめるクロードと目が合った。ラビオナは慌てて目を伏せた。頬は桃色に染まっている。
クロードはさらに笑みを深めずにはいられなかった。一つ息をして口を開く。
「ところで、ラビオナ嬢。貴女の仕事初めを祝って、王妃陛下が薔薇園をお貸しくださったのです。よろしければそちらでお茶でもいかがでしょうか?」
ラビオナは顔をパァと明るくした。
ラビオナにとって、王妃陛下の庭園である薔薇園は大好きな場所であった。メーデルと婚約している時には許可を得て何度か訪れていたが、足を向けることができない場所となってすでに一年以上たっていた。
「それはとても嬉しいですわ。今頃は咲き誇る少し前で、可愛らしい蕾たちが並んでいるのでしょうね。わたくし、その様子も好きなのですわ」
「そうでしたか。喜んでいただけそうでよかった。では、参りましょう」
クロードは朝から緊張していた様子のラビオナが顔を緩ませたことを嬉しく思っていた。そして、エスコートするために手を差し出した。
ラビオナはまさかエスコートまでされるとは思わず、びっくりしていた。しかし、淑女としてそんなことはおくびにも出さず、優雅に笑顔を向けた。
「ありがとうございます」
先日と同じくクロードの指に指を乗せた。しかし、クロードは先日と違い、ラビオナのその指にクロードの親指を乗せてきた。
『離さない』
そう言われているようで、ラビオナはドキドキしてしまった。
薔薇園への通路を抜けるとほのかに薔薇の香りがした。クロードはそこからさらに歩調を緩めた。二人は少し歩いては止まり薔薇を愛でて、また少し歩いては止まり薔薇園を愛でた。
時間をかけてガゼボに着けば、ケーキスタンドや菓子皿が色鮮やかに並べられていた。クロードと向かい合うように座れば、メイドたちがローズティーを淹れ、下っていく。
しばらくはとりとめもない話をした。
ガゼボで楽しむ二人の会話がふと途切れた時、二人はソーサーを持ち上げお茶をいただく。そして、音もなくソーサーを置いた。
クロードがスゥと息を吸った音がした。ラビオナはフッとソーサーからクロードへと視線を移すと、澄んだ空色の瞳が先程までの柔和な雰囲気とは変わり、真剣な真っ直ぐな瞳となってラビオナを見ていた。
「ラビオナ嬢。大事なお話があります」
「は、はぃ……。何でございましょうか?」
ラビオナはクロードのあまりにも真摯的な瞳につい動揺を隠せなかった。今日一日の様子が頭の中で走馬灯のように駆け巡り、『何かミスをしたのか?』『何が至らなかったのだろうか?』と悪い想像ばかりをしてしまった。
「ふふふ、怖がらないでください。仕事の話ではありませんよ」
「そうなのですね」
ラビオナはホッとした。クロードはそういう顔を見せてくれていることをも嬉しく感じていた。
「貴女のお父上から貴女へ話をされる前に、私から伝えたかったのです」
「父……、ですか?」
クロードが今度は大きく深呼吸した。
「ラビオナ嬢。貴女は、聡明で優しく、真面目で朗らかで、気配りができ、他人の気持ちを慮れる。そして、それらをひけらかすこともせず、時には人のために怒ることができる。
私は貴女のことを尊敬しお慕いしています。
どうか私と一生を共にしていただけませんか?」
ラビオナは固まってしまった。クロードにとって何時間にも感じるような数秒の沈黙時間が流れた。クロードは我慢強く待った。
ラビオナが『ボンッ』と音がしそうなほど真っ赤になった。緊張して待っていたクロードの頬が緩む。
「その可愛らしさも魅力的だ。貴女といると貴女をどんどん好きになってしまう……」
クロードは甘く蕩けそうな表情でラビオナを見つめていた。ラビオナは目をパチクリと数度瞬かせた後に、手で顔を覆って俯いた。
クロードはラビオナから視線を外さずにクスクスと嬉しそうに笑った。
本編残り四話ほどの予定です。
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