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26 お仕事一日目は……

 ラビオナはこの一年お世話をしてくれた高官が『クロード・ジレンド伯爵令息』であることはよく知っている。だが王妃陛下は『クロード・ヤンバスティー』だと紹介した。『家名』が違う。ラビオナは戸惑ってしまい珍しく淑女の仮面が脱げていた。


「……ジレン……ド様?…………ご機嫌麗し……く?」


 王妃陛下は執務机へと歩きながら、ニコニコとしているクロードをチラリと見やる。


「まあ! その笑顔で王城を歩けば婚約者などすぐに見つかるでしょうに……ふぅ」


 呆れ顔を隠そうともしないでため息を吐いた。王妃陛下のその様子にもラビオナはびっくりしている。


「それが面倒だから仏頂面で歩いているのです。あの顔もなかなか疲れるのですよ」


 クロードは眉間に皺を寄せ、王妃陛下はヤレヤレというように頭を振る。


 多すぎる情報量に呆けていたラビオナがハッと我に返った。


「ヤンバスティー公爵令息様でしたか。お顔を存ぜず、ご挨拶もできませんで大変失礼いたしました」


 ラビオナが急いでカーテシーをした。クロードはこれまで『クロード・ジレンド』と名乗っていた。ラビオナも『ジレンド様』と呼んでいる。

 ヤンバスティー公爵といえば隣国では王家の次に力のある筆頭公爵家だ。

 ラビオナは王太子妃教育で隣国の高位貴族の名前と領主の顔は頭に入っていた。


「さすがにラビオナ嬢ですね。名前だけで僕の正体をわかってしまいましたか。

そんなに改まらないで。頭を上げてください」


 クロードはとても嬉しそうだ。ラビオナが頭を上げるとクロードは優しく微笑んだ。


 王妃陛下がクロードについての説明を続けた。


「クロードはわたくしの妹の次男なのよ。勉強という名目でわたくしの補佐官をすることになったのよ」


 王妃陛下は隣国の姫だ。クロードの母親は王妃陛下の妹姫で筆頭公爵家のヤンバスティー公爵に降嫁したのだ。


「ご存知のように、ここではクロード・ジレンドと名乗っています。父方の曾祖母の伯爵家の名前です」


 クロードの曾祖母はこの国ゼルアナート王国から嫁いだ。


「わかりました。ジレンド様」


「今日から仲間です。クロードでいいですよ。同じ王妃陛下付きの者として、貴女にはクロードと呼んでいただきたい」


 クロードは少し恥ずかしそうにはにかみ笑いをする。美しいはずの顔がとても可愛らしく見えて、ラビオナは思わずクスリと笑った。クロードはその反応が嬉しかったのか、今度は輝く王子様のような笑顔になった。そのギャップにラビオナは動揺し、目を逸らした。クロードはその反応にも嬉しそうにしていた。


「で、では、クロード様とお呼びさせていただきますわ」


「はい。それでお願いします」


 ラビオナが思い出したとばかりにフッと微笑んだ。


「でも、これであの日の疑問が解決しましたわ」


「あの日の疑問? ですか?」


「ええ。クロード様が求人広告の説明に学園へいらした時、メーデル王子殿下へのご対応を不思議に思っておりましたの。

いくら王妃陛下の代理とはいえ、横柄に見えましたので心配していたのです。

あの時はシエラ様が王妃になることもあり得えましたし、メーデル王子殿下は今でも王太子候補ですのに、あのような対応でいいのかと……」


「ハッハッハ! そうですよね。僕なら不味くなったら国へ帰れますから。逆に他の者には可哀想で、やらせることはできない役でした。ラビオナ嬢のおっしゃるように、殿下の不興を買う行為ですからね。

ですが、そうやって殿下と元男爵令嬢を煽れという指令を出されていたのですよ」


 クロードが困り笑顔でチラリと王妃陛下を見れば、王妃陛下は満足気に微笑んだ。


「帰らせませんけどね。うふふ」


 ラビオナはクロードの言葉を思い出す。


『王妃は怖い怖い』


 なるほどと納得した。そして、『他の者』のことを思い出した。


「そういえば、王妃陛下付の他の方もご紹介いただけますか?」


「あら? 言わなかったかしら? わたくしの専属高官はクロードとラビオナだけよ。あとは案件の内容によって文官が変わるの」


 ラビオナは目を見開いた。


「そ、それは……。わたくしで務まるのでしょうか?」


 ラビオナは不安に掻き立てられた。


 王妃陛下は優しく笑顔になる。決しておごらず慢心しないラビオナを嬉しく思ったのだ。


「もちろんよ。今まではクロードだけでやってきたし。貴女が来てくれたからわたくしのお仕事を増やせるわ。

貴女も知っているように女性文官の採用を始めたでしょう。これからいろいろと問題が起きてくると思うの。その対処だけでもお仕事が増えることは確定ですもの」


「今日は初日です。まずは王城見学へ参りましょう。仕事をする者として見るときっと違いますよ。特に女性が働く場所として見ていただけますか?」


「はい。わかりましたわ。では、早速行ってまいります」


 ラビオナにとって王城はすでに勝手知ったる場所である。流石に、秘密の通路までは知る由もないが。それは婚姻後に学ぶ予定のものだった。

 八年も通った王城内の地図は頭の中に入っている。

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[一言] 此れは正統派ざまあですねW ニヤニヤ笑いましたW
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