22 ラビオナの希望は……
ネビルードは他に問題がないかを二人に確認したが、二人は今のところは何もないと返事をした。
「では、今日は見学ということで、総務部に行ってみましょうか?
クイシャス嬢もご一緒にいかがですか?」
「はいっ! 是非お願いしますわ」
四人は立ち上がり、高官に挨拶を済ますと部屋を出ていった。
「ふぅ」
高官が小さく息を吐いた。
「ラビオナ嬢。ここまでお疲れ様でした」
ラビオナと高官はこの一年協力関係となっており、ラビオナが名前呼びを許していた。とはいえ、優秀な高官は気心の知れた者だけの時にしか名前呼びはしない。
「ありがとうございます」
ラビオナは息を呑むような美しい笑顔で答えた。ラビオナの笑顔に高官は言葉を失うが、ハッと我に返る。横を見ると文官もラビオナの笑顔に呆けていた。
「コホン!」
高官のわざとらしい咳に文官が慌てて目を落とし書類を読むフリをして誤魔化した。
高官は気を引き締めて、改めてラビオナと目を合わせた。
「ところで、本当に王妃陛下付きの文官でよろしいのですか?」
「はい。もちろんですわ。わたくしからお願いしたいほどですわ」
「そうですか。アハハ」
高官はなんとも複雑そうな笑顔とも苦笑いともとれる顔をした。ラビオナはそんな高官を見て知らず知らずに口角をあげている。
「王妃陛下はいつからでも良いと仰っております。他の文官たちと同様、四週間後からでどうでしょうか?」
「男性の方で、わたくしと一緒に採用された方はいらっしゃるのですか?」
「いえ、今回採用の王妃陛下付きの官職はラビオナ嬢だけですよ」
「でしたら、皆様、わたくしより上のお立場であり、お仕事もおできになるということですわね? よろしければ、卒業式の翌日よりお仕事をさせていただきたいですわ」
「え?」
「一日でも早く慣れたいのです。ダメでしょうか?」
「あ……いえ……。大丈夫ですが……」
高官は嫌そうな顔を隠しもしなかった。
「あの? 何か?」
ラビオナが不安そうに顔を歪めた。
「王妃陛下がね…………、ラビオナ嬢ならそう言うだろうと予想していたんですよ。
王妃陛下はやはり…………怖い怖い」
高官が自分の腕を抱いて震えるパフォーマンスをした。
ラビオナはクスリと笑った。
「では、そのようにお願いいたしますわ」
「ええ、王妃陛下はとっくにそのように準備しておりますよ。
では、一週間後、こちらを衛兵に見せて入城してください。部屋はわかりますね?」
高官は王城勤務用の腕章をラビオナの前に置いた。ラビオナは嬉しそうに受け取った。
「はい。大丈夫ですわ」
「では、お待ちしております」
文官も含め三人が立ち上がった。そして、出入り口へ向かう。テーブルの反対側から来て、ラビオナと高官が並ぶような位置まで来ると、ラビオナが高官の斜め後ろに付こうとする。ここで一歩下がろうとする完璧な淑女のラビオナに高官は頬を緩める。
「ラビオナ嬢。貴女はまだ文官ではありません。馬車乗降場までお送りしましょう」
高官はそう言って手を差し出した。ラビオナは少し驚いたが、微笑んで手を取った。
「はい。お願いいたしますわ」
指と指を重ねるだけのエスコートであるが、高官の仕草はとても洗練されていてラビオナはとても優雅な貴婦人の気持ちになれた。
二人が手を取って歩く姿は、まるで絵画のようであった。さらに美形にも関わらず普段から仏頂面で歩いている高官が、笑顔でラビオナと話をしながらゆっくりと歩く姿はすぐに話題となった。
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メイド試験と女性高官試験の二次試験が行われている頃、ウキウキと廊下を歩くメーデルがいた。向かう部屋は、メーデルの婚約者候補の淑女たちが待っている部屋だ。
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昨晩、最終月に残った十人全員が合格した報告がメーデルにも伝えられた。メーデルはすぐさま国王陛下の元へ赴いた。そして、『十人の中からまだ三人を絞っただけで、三人のうち一人には絞れていないので、三人とそれぞれ一人ずつのお茶会をして、数ヶ月後に決めたい』と申し入れた。国王陛下は詳しい話も聞かず了承した。
「それはそうと、シエラ嬢とはどうなったのだ?」
「え? シエラは一ヶ月目に落ちたのでこちらに来ていませんよ」
「学園で会っておらんのか?」
「ええ。元々クラスは違いますので、会おうとしなければ会いませんよ。あちらからも来ないので、不相応だと理解したのでしょう。アハハ」
国王陛下はシエラがとっくに退学になっていることを知っていて、メーデルに鎌をかけたのだ。
メーデルの高笑いを見て、国王陛下はメーデルの薄情さと高慢さを感じ、落胆せずにはいられなかった。
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そして、今、王城の廊下をスキップするように歩くメーデルである。
「ふふーん。まずは誰から誘うかなぁ。一人目って特別感あるよなぁ。
初めから胸をジロジロは見れないからなぁ。キャロレイだと胸ばかり見ちゃうからなぁ。
顔ならエリナだよなぁ。顔はジッと見ても平気だよなぁ。
ビビアローズの細い首を後ろから眺めるのもいいよなぁ。でも二人きりだとそれも難しいかなぁ」
三人のご令嬢をすでに呼び捨てにして、我が物だと言わんばかりの物言いでウキウキしているメーデルだった。
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