16 ラビオナの実力は……
「えー、次の項目です」
●王太子妃に選ばれた場合は翌日から本格的な王太子妃教育を開始する
高官の声に合わせて司会の文官が脇に貼られていた求人広告の一部を指し棒で示した。
「メーデル王子殿下に選べばれた方には王子妃として上級を学んでいただきます。そちらは一年を見ております。
そして、メーデル王子殿下が王太子に指名されましたら王太子妃教育として特級を学んでいただきます。そちらは二年ほどを予定しております」
メーデルは昨日までは王太子だったので勉強の内容が多少変更になったようだ。
この求人広告を出した両陛下はメーデルを王太子にしたままの方が募集してくる人数が増えるのではないかと思い昨日までメーデルを王太子にしていた。だが、昨日のメーデルの醜態を鑑みて一度王太子を降ろし反省させる方が今後のためになると判断された。
高官が示した学習年数に大講義室全体がざわざわとしたが、先程のラビオナの話を考えてもそれほどかかることは当然だと思われる。
空気を読めない女はまたヒラヒラと手を挙げて立ち上がった。
今までと違って王妃陛下がいらっしゃるのだ。それにも頓着しないシエラにみんなが驚いてしまった。文官さえも固まった。
文官が固まっているので指名はされない。だがシエラは指名もされていないのに立ち上がって話を始めた。
「そこまでしなくてもぉ、ラビオナ様と同じくらいでよくないですかぁ?」
文官は慌てたが高官は手で制してシエラの発言を止めないようにさせる。文官は頷いた。
「発言の内容がわかりにくいですね。詳しくお願いします」
文官は高官の意図を読んでシエラに促した。
「ラビオナ様はこの前までメーデの婚約者だったんでしょう?
それってお勉強が嫌だったから自分から婚約破棄したんじゃないんですかぁ? それなのにメーデのせいにしてズルいですよぉ。
お勉強から逃げた人と同じくらいでいいんじゃないですかねぇ?」
『バキッ!!』
怒りのあまり扇を折ったのはヘレナーシャだ。伊達に副団長の娘ではないようだ。
「オーホッホッホ!! そう思うおバカな人もいるのねぇ…………」
『おバカ』とはっきり言ったが、笑える度胸のある者はいない。シエラ本人は人の話を聞くことが苦手なのでわかっていない。
王妃陛下は『ラビオナが勉強から逃げた』などと思っている者が他にいるのかを視聴席をグルっと見回して確認した。それはそれは冷たい視線で。
皆一様に顔や目線を下げてシエラに同意していないことを表していた。
ちなみにラビオナは王家の秘匿内容以外は履修しており婚姻後一年かけて秘匿内容を学ぶ予定であったのだ。だから結婚式まで残り一年半はゆっくりできることになっていた。
「そぉねぇ……わかりました。
では、ラビオナにもテストを受けてもらいましょう。そしてラビオナより点数の悪い方は落選としましょう」
王妃陛下が涼しげに答えた。
「王妃陛下っ! それでは誰も残らなくなってしまいますっ!」
高官が即座に反対した。
「まあ!」
王妃陛下は扇で口元隠して驚いた顔をした。演技だろうが。
「そう、しかたないわねぇ。
ラビオナ。そなたをメーデルの婚約者に戻さないと約束しますからテストを受けなさい」
「はい。陛下」
ラビオナは座ったまま頭を下げ了承した。
「ですが……。
ラビオナを愚弄する発言をしたそこの者だけはラビオナより高得点を取りなさい」
王妃陛下は扇でシエラを指す。いつも温和で艷やかな笑顔を絶やさない王妃陛下の冷たい無表情に大人たちはビシッと姿勢を正した。
「王妃陛下。その必要はないかと……」
そんな王妃陛下にも高官は物怖じせず意見を言った。
「あら? そうなの? それであの発言?
メーデルは人を見る目がないのねぇ。
それともメーデルはわたくしを本当に愚弄しているのかしら?」
メーデルが肘を膝についての落ち込んだ。
馬鹿にされてることに気が付かないシエラはキョロキョロと落ち着きなく見回していた。そしてなんとなく席に座った。
「では、他には? ご質問を受け付けます」
文官が促すも誰も手を挙げなかった。
「大丈夫みたいですね。
次に受け付けについてです」
高官が頷き説明を始めた。
「一ヶ月後に応募の受け付けを開始します。期間は二日間。場所は王城正門から右手側に特設所を用意しますのでそちらにお願いします。お配りした書類の中に応募用紙がございます。応募されるご本人がお書きになりご本人が提出してください」
「ご質問ありますか?」
誰も手を挙げない。
「無いようですね。質問があればいつでも王城の総務に連絡をください」
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