14 女性の不貞は……
シエラは目をキラキラさせてキョロキョロと周りを見回した。周りは司会の文官が小槌を叩いた時よりも静まり返っている。
メーデルとシエラがすでに性的関係を持っていることは昨日はっきりとした。その上での発言なのだから呆れを通り越して尊敬の念さえ出てきそうだ。
「やっだぁ! そんなに感動しないでくださいよぉ」
シエラがまた両手を顎の下にして小首を傾げて笑顔になった。
「コホン!」
我に返った高官が司会の文官にの催促する。
「あ、えっと、ご質問はわかりました。お座りください」
司会の文官がシエラに指示した。
「はぁ〜い」
シエラはウキウキした様子で座る。
高官と両脇の文官が軽い会議を始めて、しばらくして三人は納得したように頷きあう。
「現時点では何をもって不貞とするかの法はありません。近日中に境界線を決めて応募受付日にはお知らせいたします」
高官が返事をするとシエラはすぐさま手を挙げた。指名もされていないのに立ち上がる。高官も文官も指摘するのは面倒になりそれを許した。視聴席からも指摘しないことに対する不平はでなかった。
「それでねっ! それって王妃にも当てはまるようにしてくださいねっ!」
「は??」
高官がそれらしくない声を上げた。
「だってえ、メーデが許されて私がダメっておかしいでしょう?
メーデがいない時とかぁ、メーデが不機嫌な時とかぁ、私が寂しいなぁって思う時とかぁ。そんな時はぁ、一人じゃいられないしぃ。
今まではぁ、ノエルとウルが一緒にいてくれたけどぉ、二人ともどこかに行っちゃったのでしょう?
昨日、お部屋に行ってみたけどいなかったものぉ」
『ガッタン!!』
壇上の右端にいた学園長が椅子を倒して立ち上がった。
「まさかっ! 男子寮に確認に行ったのですかっ?」
学園長は体の脇で拳を握りしめワナワナと震えながら質問する。
「うん。行きましたよぉ。コンコンってしても返事なくってぇ。隣の部屋の男の子が『もういないよ』って教えてくれたのぉ」
「き、君は貞淑の美学とか、淑女の嗜みとか、貴族の矜持とか、そういうものは持ち合わせていないのかっ!!!」
学園長は教師時代を含め三十年ほど学園にいるので視聴席に座るほとんどの者が学園長の人柄を知っている。その学園長が怒鳴るところなど初めて見たと驚いていた。
シエラは学園長の怒りの意味を理解せずコテンと首を傾げた。
「たった今より、男子寮は女人禁制とするっ!掃除夫が見つかるまで汚した場合は各自で掃除をするようにっ!」
「「「えっーーー!!」」」
壁際から怒号が響いたが学園長はそれを無視して椅子を直しドカッと座り直した。
壇上の左側ではメーデルが床に着きそうなほど口をポカンと開けていた。恋人だと思っていた女性に浮気宣言をされたようなものだ。
「ツワモノねぇ……」
エダリィは扇で口元を隠して周りだけに聞こえる声で呟いた。他の四人も扇を口元に当てている。口が閉まらなくなっているのを隠していた。
「王子妃及び王太子妃及び王妃の不貞の境界線も後日お答えします」
高官は淡々とした口調で答えた。
『ゴンゴンゴン』
「他にございますか?」
「ないでぇす」
文官の言葉にシエラだけが答えた。手を挙げないことが返事であるのでここで答えることがおかしいのだがシエラにそのようなことがわかるわけがない。
「では、テストについて説明します」
高官が手元の資料を見ながら話を進めた。
「まず、応募締め切り日の翌日より月曜から金曜の夕方三時より七時まで王城にて王子妃教育勉強会を受けていただきます。学習内容はお配りした紙の通りです」
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【カリキュラム】
○月曜から金曜の夕方三時より七時まで
○王城の特別室にて勉強会をする
○下記の内容を一ヶ月毎にテストする
○テスト合格者は八十点以上の者とする
1・マナー、ダンス、護身術体術初級
2・語学大陸共通語初級
3・歴史学、淑女学初級
4・地理学、天候学初級
5・語学他国語初級
6・総合学初級
この後は、上記内容の中級となる
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二枚目の紙にはカリキュラムが書かれていた。初級なら高位貴族令嬢ならできる者もいそうだ。
「一項目につき約一月、王宮にて勉強していただきテストを行います。百点の内八十点を合格とみなします。不合格者は落選ということになります。
できるとお考えで勉強会を欠席される方もいらっしゃるかもしれませんがメーデル王子殿下との茶会も織り混ぜる予定ですし両陛下もご見学にいらっしゃることもございます。ですのでお休みにはならない方がよろしいかと存じます」
「学ばせるのはよいがテストなど必要あるまいっ! 希望者の中から俺が婚約者を選べば済む話じゃないかっ!」
メーデルが足を組みふんぞり返って反論した。メーデルは女性の不貞に関する件でシエラを選ぶかどうかは悩み所となったがテストをすると自分の選択肢が減らされると考えている。
「いい加減になさいませっ!」
視聴席から声がかかり皆驚いた。最前列の右側の席からすっと手が挙がった。
大きな声で遮ったのはなんとラビオナであった。ラビオナは改めて手を挙げた。
「テレエル公爵令嬢。ど、どうぞ」
文官は高官とラビオナを交互に見たが高官が頷いたのでラビオナを指名した。ラビオナが立ち上がる。
「お話の途中にも関わらず発言をしてしまい申し訳ありませんわ。
しかし、メーデル王子殿下のご発言がどうしても赦せませんでしたの」
ラビオナは文官に頭を下げた後メーデルを睨みつけた。
「メーデル王子殿下。どこまで愚弄なさるおつもりですの?」
メーデルが立ち上がる。壇上なのでラビオナを見下す形になった。
「自分が愚弄されているからと取り乱すな。みっともない」
愉悦に浸るメーデルの顔つきに嫌悪感を表すものは一人や二人ではなかった。
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