13 王太子の条件は……
翌日は臨時休校にも関わらず学園はごった返していた。大講義室は人が溢れかえっている。
前日のうちに大講義室の机は取り払われ長椅子のみが並べられて視聴席となっている。
文官たちの指示で候補になりうる女性たちは前方に座った。卒業生の親たちが領地にいる娘の代わりに来ていたり娘と一緒に来ていたり国の内情を知るために来ていたりと理由は様々だが、大人たちも多くおり中程から後ろは大人たちが座った。
野次馬としか考えられない男子生徒たちは壁際に立っている。それでもここの様子を見たいと集まっているのだ。後方の扉はすべて開け放たれ中に入れなくとも話は聞けるようになっていた。
教壇上に並べられた机と椅子にはまだ誰も座っていないので大講義室内はざわざわと喧騒に包まれている。
文官の一人が左に寄せられた説教台の前に立ち小槌を鳴らした。
『ゴンゴンゴン』
その音とともに室内は静まり壇上脇の扉から数名が入場して壇上の机に着いた。
視聴席から見て、1番左に説教台、そして左から、文官―メーデル―文官―昨日の高官―文官―学園長。このような順に座ってる。
メーデルは昨日の退室時と異なりふんぞり返り不貞腐れた様子であった。それを隠せぬ王子であることを見せていることに多くの保護者が心の中で眉根を寄せていた。
説教台の文官が司会を始めた。
「ええ。では昨日掲示されました求人広告についての説明会を始めます。
質疑応答は後程時間を設けますので説明の最中に挙手や質問はお止めください。
では、お願いします」
高官が立ち上がり視聴席に頭を下げた。
「本日はご足労いただき恐縮であります。話が長くなりそうですので着席にて話をすることをお許しください」
高官はそう言って椅子に座り直した。
「まずは本日決定したことからお伝えします。メーデル殿下は本日付けで王太子ではなくなりました」
視聴席が一気にざわつく。
『ゴンゴンゴン』
「お静かに」
文官が頷き高官が続けた。
「王太子の条件として『婚約者または伴侶がいること』となっておりますのでそういうことになりました。
婚約者が決まり国王陛下の了承があればまた王太子となります」
このどちらとも取れる言い方に訝しむ者もいた。『婚約者が決まれば王太子になる』とも『婚約者が決まっても王太子になるかは国王次第』とも取れるのだ。
昨日の醜聞もすでに噂になっているので敏い貴族たちは後者に取るだろう。
文官の指示で静かになると高官が話を進める。
「昨日に学生諸君にのみ説明してしまいました内容について先に説明いたします」
高官は『性格不問』『メーデルの不貞』『メーデルの懐事情』について昨日と同様の説明をした。高官の声を遮るほどではないがどよめきは収まらない。
メーデルは腕を前に組んで高官とは逆の左の壁を睨んでいた。
ユリティナが淑女四人に顔を寄せる。
「そういえばシエラ様はメーデル王子殿下のご予算には不満はないのかしら?」
先日の説明ではメーデルはこれから質素な生活になりそうだ。
「シエラ様のブルゾリド男爵家は苦しい経営状況らしいですわ。いくらメーデル王子殿下のご予算が少ないとはいえ王族ですもの。幾分かマシなのではないかしら?」
答えたのはマリアナだ。マリアナの父親ネフライテ公爵は税務大臣である。マリアナは昨日メーデルの財政状況を知ったので父親にブルゾリド男爵家について聞いておいた。
『ゴンゴンゴン』
「ではここまででご質問はありますか?」
説教台の文官が声を出した。
「はぁ〜いっ!」
甘ったるいだらしない声が響き挙げられた手はヒラヒラと動かされている。
高官はその声の主を心の中で罵ったが昨日と違い今日は顔に一切出さなかった。
昨日の様子を知る文官は少し戸惑ったが質疑をすべて受け付けると言ってあるので拒否はできないと諦めた。
「では。一番前の真ん中の女性の方どうぞ」
一人しか手を挙げていないのに律儀な指名の仕方をした。
メーデルだけでなくシエラのカマトトも復活しており両手を軽く握り顎の脇に当てて目をパチパチとさせている。
昨日シエラの姿を見ている者からしたらあざとい以外の何ものでもないが、それでもそのスタイルを崩さない強靭な心には感服している者もいる。
「呆れを通り越すと尊敬になるのね……」
マリアナが小さく呟き淑女たちもコクコクと頷いていた。
シエラが椅子からピョンと跳ねて立った。
「うふっ」
小首を傾げて可愛らしい笑顔を振りまいた。
「わたしぃ、昨日いっぱい考えたんですよぉ」
『ゴンゴンゴン』
「時間がもったいないので簡潔な質問でお願いします」
文官の指示にシエラは唇を尖らせたがこれもあざとい。
「はぁーい。
あのぉ、メーデの不貞? ってやつのことなんですけどぉ。赤ちゃんができちゃうようなことはダメかもなって思いますけどぉ。でもぉ、手を繋いたり、お話を二人っきりでしたりすることはいいと思うんですよぉ。なんなら、キスだけなら赤ちゃんはできないしぃ。いいかなって。うふっ」
大講義室は静まり返った。
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