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11 金融監察は……

 それにしてもその高官はどうやらシエラの名前は頑として言わないつもりのようだ。ラビオナのことは『テレエル公爵令嬢様』というのにシエラのことは『そちらの男爵令嬢』と言っている。


『万が一シエラ様が王妃になったらどうするおつもりなのでしょう?』


 ラビオナにとって名前も知らない高官だが心の中で心配している。それほど高官の態度は頑なでシエラのことを露骨に嫌っていた。態度からメーデルのことも良くは思っていない。

 嫌われている当の本人たちは気がついていないようなので当面は問題にはならなそうだ。


「それらについては離宮とメーデル王太子殿下の寮のお部屋とそちらの男爵令嬢の寮の部屋にすでに金融監察官が入っておりますので金銭に換金できるものは押収されるでしょう」


 メーデルとシエラは高官の言葉を一度飲み込んだ。数秒の静まりの後に二人は騒ぎ出した。


「そんなことは横暴だっ!」

「勝手に入るなんて犯罪だわっ!」


 二人は高官に掴みかからんとしたがいつの間にか後ろに控えていた近衛兵に腕を掴まれ拘束された。


「わたくしは本日は王妃陛下の代理ですと申し上げました。いくら殿下でもお言葉にはお気をつけください」


 ラビオナたちや野次馬たちは『やはりそうだよね』と監察官についても王妃陛下代理についても納得する。


「横領の疑いがある時点で監察官が許可なく入ることは合法です。もし、入ることを拒否なさいますとその場で捕縛され牢へ入れられます。

拒否なさいますか?」


「「「ブフッ」」」


 あちらこちらで吹き出す音がした。ラビオナたちも慌てて口を押さえたほどだ。

 『牢屋へ入りますか?』などと尋ねられる者がいるとは思わない。

 当然言った本人である高官の馬鹿にした態度であったが正論なのでメーデルは何も言えなくなった。


「横領なんてしてないわよっ!」


 教養の少ないシエラはまだ喚いていたのはおそらく高官の言った意味を理解していないからだろう。


「そちらの男爵令嬢へのプレゼントは王太子としての交友経費を大幅に超え『王太子が婚約者へ使う予算』も使っております。

それでも足りていないのですが、ね。

とにかく『王太子が婚約者へ使う予算』を使った時点で横領確定です」


「どうしてよっ? 恋人の私に使ったのなら問題ないじゃないのっ!」


 高官はやっとシエラを見たが顔を歪ませていた。


「恋人は婚約者ではありません。婚約者様がいらっしゃる方の場合では娼婦と同等です」


「「「ゴクリ」」」


 あまりに辛辣な言葉に野次馬たちも息を呑むが、前の『王妃陛下の代理』というのが効いているのかメーデルは何も言わなかった。


「娼婦ですってぇ! 覚えておきなさいよっ!

私が王妃になったらアンタなんか平民にしてやるんだからっ!」


「それはそれは。ハッハッハ。楽しみにしておきます。求人広告にあるように『爵位不問』ですからね。是非頑張ってください」


 高官はニヤリと笑ったし野次馬たちもクスクスと笑っていたがシエラは笑われている意味がわからずただイライラしていた。


「ちなみに王太子殿下に予算を回していた文官はすでに牢へ送られています。今後は生涯書庫整理員として軟禁されるでしょう」


「え?」


 メーデルは顔を青くする。『俺が国王になったら重用してやる』と甘言を吐き予算を出させていたのだ。


「本来なら強制労働所行きですが王太子殿下の命令に背けなかったのだろうと国王陛下がお慈悲を与えられたのですよ」


 高官が小首を左右に振った。高官からすれば犯罪に加担した文官に慈悲を与えた国王陛下も信じられないがまずメーデルに加担した文官が信じられない。


「話を戻します」


 高官は『4』を表した。


「後はテレエル公爵令嬢様への賠償金です。テレエル公爵令嬢様を八年に渡り束縛し時間を費やさせたわけですから多額の賠償金となります。

これは婚約破棄の原因はメーデル王太子殿下ですのでメーデル王太子殿下の個人資産で払うべきものです」


「あの女が魅力がないことが理由でしょっ! 賠償金なんておかしいじゃないのっ!」


 大人しくか弱いシエラはもうどこにもいくなってしまったことにもメーデルは気がついており気力のすべてを無くしていた。


「テレエル公爵令嬢様との婚約は王命だったのです。魅力などは関係ありません。

しかしながらわたくしから言わせていただきますと、淑女としての魅力はそちらの男爵令嬢より数倍、数百倍、それ以上に上だと思いますよ。メーデル王太子殿下?」


 高官はシエラを無視して項垂れているメーデルに確認したがメーデルは何も反応しなかった。野次馬たちは男女問わず大きく首を上下させている。

 ラビオナは立ち上がって高官に一度野次馬に一度華麗なカーテシーをした。


 シエラは高官を睨んでいるのでラビオナのカーテシーを見ていなかった。


「あんな陰気な女と比べないでよっ! 失礼ねっ!」


『比べる価値がないのはお前だ』

『失礼なのはお前だ』


 本人以外全員が思った。

 高官は無視して続けた。


「監察官によっていくらかは返金されると思われますが今後数年は王太子としての予算はありません。

交友経費だけで返済するには二十年もかかります。この求人広告にありますように次の婚約者様がお決まりになるまで一年以上かかりますのでその間婚約者様にお使いになる予算はでません。これらのことを踏まえまして殿下の生活費からも返済することになりました。そうなされば十年ほどで返済可能な予定です」


 メーデルは少しだけ首を動かして虚ろな目で高官を見ているが話を理解しているかは不明だ。

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