10 不貞とは……
メーデルは『性格不問』については『相性』や『趣味や好み』の話だと言われて二の句を告げられず諦めた。
さらに下に目を向けていき気になる項目で止まるとその項目を指した指が震えていた。
○メーデル王太子殿下の不貞を心広く許せること
「俺を愚弄しているのかっ! 俺は不貞など働かないっ!」
「「「「えっ!!!」」」」
多くの野次馬がハモったしラビオナたちは紅茶を吹き出しそうになっていたし高官の目は極細に細められた。
「殿下。一度でも不貞を働いた者からのそのお言葉を信じる者はおりません。
殿下は先程までテレエル公爵令嬢様が婚約者であると公言しておきながらそちらの男爵令嬢と不適切な関係をお持ちでしたよね」
「シエラとは浮気ではないっ! 本気なのだっ!」
「メーデっ!」
シエラが目をキラキラさせて腕に縋り付いた。メーデルはデレつとした顔をする。
「そうでしたら順番を守りまずはテレエル公爵家に頭を下げるべきでしたな。
そして市井に下るつもりで愛を貫くべきてした」
「は? 市井落ちだと?」
「王意に背くのですからそのお覚悟は必要でしょう?」
『王意』とまで考えていなかったメーデルは少しばかりたじろいた。
「そしてテレエル公爵令嬢様と婚約解消なさるまでは、他の女性と手を繋ぐ、エスコートする、プレゼントする、二人きりで会うなどはするべきではありませんでした。これらすべて、不適切な行為です。
性的関係など以ての外です!」
女子生徒たちがコソコソと話しながら軽蔑の視線を突き刺す。男子生徒たちは羨ましいのか呆れているのかニヤニヤしている者が多い。
「婚約者がいることをわかっていながら他の女性と不適切なことをする者は浮気をする者または不貞を働く者と言われます」
高官のはっきりとした口調にメーデルは目を泳がせた。
浮気人だと認定され動けなくなっているメーデルの袖をシエラが引っ張った。
「メーデって貧乏なの?」
シエラは大きな青い瞳をパチパチとさせた。
「はっ??」
メーデルの不思議顔にシエラは求人広告の一部を指差した。
○メーデル王太子殿下の個人資産はないため贅沢はできないことを理解すること
メーデルが再び戦慄く。
「俺は王太子だぞっ! 金が無いわけないだろうがっ!」
メーデルは高官に向けてブンブンと指を指した。高官の目は細められたままだ。呆れが止まらないらしい。
「王太子殿下は王太子としての予算をすでに十年分ほど超過利用なさっております」
「な、なんだとっ??」
十年……。あまりに大きな話にメーデルは首をひねった。
高官は指で『1』を表した。
「まず、そちらの男爵令嬢との逢瀬のために家を賃貸されておりますね。そして掃除婦もお雇いになっていらっしゃいますね」
「「「おぉ!」」」
これには感嘆の声が出たが確かに『未成年が愛人のために家を賃貸する』など普通では不可能なことだ。
男子生徒たちは憧れと驚きでざわつき女子生徒たちは絶句している。
メーデルはシエラとの逢瀬のために学園からほど近い場所に家を借りたうえでお忍びの貴族という体で掃除婦を雇っている。性行為のためだけの家なので掃除婦だけで充分だった。初めは裏道を使ったりメーデルとシエラが行く時間をずらしたりとコソコソ利用していたがいつしか堂々と利用するようになり発覚した。
「王都に屋敷を借りるなど安いものであるはずがありません。掃除婦も三人も雇えばいくら平民でもお安くはないでしょう」
メーデルは週末をその屋敷で過ごし朝方または昼近くに王宮へ戻ってから学園へ来るのだから月曜は大抵遅刻して当然である。
高官は指を二本立てた。
「二つ目に先程退室されましたご友人たちとの豪遊費ですね。例えば、市井の娼館を何度も貸し切りになさっていらっしゃいましたね」
「「「「ブッ!」」」」
「「「「きゃあ!」」」」
声音が男女で二分した。メーデルは真っ赤になり口をパクパクさせた。
メーデルはノエルダムとウデルタがシエラに邪な気持ちがあることはわかっていたので二人がシエラと性的関係にならないようにするために外への捌け口を用意したのだった。二人と一緒に娼館へ行けば二人だけを楽しませるために金を出すというわけにもいかない。シエラとの性的関係によって覚えてしまった快楽はプロの手によってさらに快楽を覚えてしまった。
これにはラビオナとヘレナーシャとユリティナも嫌そうな顔を隠そうともしない。
「やっだぁ! メーデったらぁ。私に言ってくれればよかったのにぃ」
シエラがクネクネとしながらメーデルの腕に豊乳を何度もぶつけるとメーデルの視線は豊乳に釘付けとなった。
野次馬の女子生徒たちの顔は嫌悪感を隠さないでおり男子生徒たちは羨ましそうに見ている。
『娼館貸し切りなんて気持ち悪いですわ。ですがシエラ様は認めていらっしゃる? すごいですわ。シエラ様であれば『浮気を許す』という項目には問題なさそうですわね』
ラビオナはある意味シエラに感心していた。
「ああ、コホン!」
高官はシエラへ向かっていた注目をどうにか戻した。そして指で『3』を表す。
「それからそちらの男爵令嬢へのプレゼントやお二人のドレスや装飾品などの出費も大変多かったようですね」
プレゼントのことを言われてメーデルはまたしても挙動不審になり逃げ遅れたが誤魔化したい犯人のようだ。つまり、少しは使い込みの自覚があったのだろう。
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