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1章 使命

「どうしたんだ、ポデル」

「お前が獣族を辞めてから大分経つな。元気にやってたのか?」

「まぁな。噂は耳に入っているだろ、俺がどこで何をしているか」

「そうだな。闇の配達人ジル、今はそう呼ばれているんだったな」

「ふっ。で、今日は何の用だ?依頼があるんだろ」

「ああ、そうだとも。対価は何でも支払おう」

「そうか、それはお前の能力でもってことか?」

「ああ。それが友の頼みであるからな」

「友…か。それじゃあ、俺も断れないってことだな」

「古魔区、神魔区のこともある。俺は無関係だということで内密に頼みたい」

「まぁ、そうだろうな。今神魔区を敵に回して勝てる奴なんてこの世に存在しないからな」

「じゃあ、依頼の内容だ。―――」

ここは古魔区にある獣王の塔。獣王であるポデルと元獣族であるジルの密談である。世界を変えるきっかけとなったものだ。ジルはポデルからの依頼を聞き、早急に行動を開始するのであった。

「1人では不安だろう、相手が相手だ。こちらからも1人駒を差し出そう。タイト=ホークだ、ってか知ってるか。お前の好きに使ってくれ。元はお前の部下だ」

「それはご丁寧に。使い捨てるが構わないな」

「ああ」


                ・・・


「大分経つな。まだ、あの裏切り者は捕まらないのか」

「王よ、下の者ではジルが相手では歯が立たないと。しかも報告によると相手は一人ではないと」

「ラナス、そんなことは分かっている。だからこそ、ササヤとガゼランを出したのだ」

「そうなのですか。であれば心配ないかと」

覇王の塔での覇王ザイルと幹部であるラナスの会話だった。幹部を信じきっているザイルを他所にジルは大陸を北上していた。

「ジル、予想以上に相手の行動が早いのだが、いったい何を運んでいるんだ?」

「タイト、それは言えない。お前は俺を常魔区へ運ぶことだけを考えろ」

2人が下常魔区を駆ける最中、「やっと見つけましたわ」「そうね、ササヤ」目の前には覇王の幹部が立ちはだかっていたのだった。

「ガゼランにササヤか。こりゃ参ったな」

「大丈夫。ジルはこのまま走り抜けろ、それでいい」

「お前、まさか…」

「行け!!」【天魔天撃】

タイトのスキルによりガゼランたちは体が麻痺して動けなくなった。それと同時にスキルの代償である効果としてタイトもまた体が麻痺して行動不能となったのだった。

「すまん、タイト」【テレ】

ジルはタイトの身を案じタイトをランダム転送したのだった。タイトはもう使えない。それはその効果の代償にあった。1日動けない相手を連れまわすなんてデメリットでしかない。それならばタイトの役目はこれまでとし、この役目から降ろすべきだと考えたのだった。そして、タイトの力もありジルは常魔区へと入ることができたのだった。


「そうか、それはまずいな。こちらも早急に動かなくてはな」

ザイルはそうラナスに告げ、魔王と闇王にも連絡するように告げる。

そうして常魔区にてジルを捜索するメンバーを選出したのであった。

「ヘルガ、そしてアムール。今回お前たちを呼び出した理由は既に聞いていると思うが、お前たち2人には分かれて動いてもらいたい。アムール、お前は工作員として、ヘルガは妨害役として、だ」

その詳細とはアムールは単体で行動しジルを捜索する。案としてはバルクが常魔区にはいる。ジルとは親しい仲だったので居所の割れているバルクを餌にしてジルを吊り上げろというものだった。常魔区にはやっかいな守り神的な奴らがいる。そいつらに邪魔されないよう極力自身での行動は避け、そこで見つけた仲間を使えとのことだった。

ヘルガはバルクのいる付近で待機し、事が起きるまでじっと待て。事が起きれば必ず守り神がやってくるはずだ。俺が来るまでの間の時間稼ぎをしろ、ということだった。

ジルを呼び寄せ、バルクに常魔区の結界を一部解かせることで俺が常魔区に降り立つ。ジルに関しては俺が捕縛するから手を出す必要はない。この命令は死んでも守れ、その言葉を最後にアムールとヘルガは常魔区へと転送されたのだった。


「アムール、気をつけろよ」

ヘルガは魔王、闇王からの応援者たちを束ねるリーダー役を任されていた。ヘルガはあくまで隠密でありアムールよりも陰に隠れなくてはならない。

「あぁ、1人で何とかしてみるよ」

「最初は地図を入手するんだぞ。土地勘ないんだから、絶対、絶対にだぞ」

「あーあー、分かってるから。ヘルガは世話焼きすぎるんだから」

「あと、力も使うなよ。バレたらそこで終了なんだからな」

「あーあー、分かってるって。もう、こんなところでずっと一緒にいたらそれこそバレるでしょうが。早くあっち行って」

「お前なぁ…」

ここはミラバール王国とアスバルをつなぐ道中。

「じゃあ、俺たちはこっち行くから」

そう言って、ヘルガたちはミラバール王国の方角へと進んでいったのだった。

「じゃあ、僕はヘルガとは逆を行くよ」

そう言ってアムールはバルクが住むバルク山とは逆方向に進んでいったのだった。

(そうだ、ついでにミケラルにも行ってみよう。久しぶりだから覚えてるかなぁ、セリカ。どちら様ですかなんて言われたらどうしよう。)

帰省気分のアムールに常魔区で少し楽しみができたのだった。

しばらく歩くと何やら町を発見する。入口を探すことしばらく。町の入り口をついぞ発見する。アムールはそのまま入り口を通過しようとするのだが、「あの、通行税をお支払い下さい」そう言われ、足を止められる。

「通行税って何?ただ通るだけだよ」

アムールの言葉に関所の門番は警戒態勢に入る。

「金がないならこの関所は通れない。金を用意してからまた来るんだな」

「えー、他にこの町に入る手段はないの?」

「ない!!」

門番にキッパリと言い切られアムールはガックリと肩を落とすのだった。

(『極力問題は起こすな』だったよね。)

アムールは関所通過を諦め、街道から森の中へと入っていくのだった。(まっ、別にどこからでも入れるんだけどね。)【浸透】

アムールはスキルを使いそのまま壁に向かって歩く。すると、壁を壊すことなく通り抜けたのだった。常魔区初の町。アムールは興奮を抑えきれなかった。

(活気があるね、いろいろ欲しい物があるんだけど。何だ、あのキラキラ光ってる物は?)

アムールは宝石店へと入っていく。だが、店長に「金がないなら他所に行きな」と突っぱねられてしまった。世知辛い世の中をまじまじと痛感するアムール。

(古魔区では欲しい物はくれたのに、何でこの大陸はくれないのかな。ケチだよね、ケチ。いいじゃん1個くらい、いっぱいあるんだから。)

アムールはブツブツ言いながら宝石店を出るのであった。そしてハッとする。

(あれ?僕何しに来たんだろう。観光?…そうだった。)

アムールは町の活気に興奮し、本来の目的を完全に忘れていたのだった。とりあえずここがどこでバルク山がどこなのかを聞くことから始めないといけない。目に入った大きな気になる建物に入ってみることにした。

既に本来の目的をワクワクが上回っておりどうにも止められなくなっていた。

建物に入ってすぐのことだった。「入信の方ですか?」そう受付の者から問われるのであった。

「いえ、違います」

「では洗礼の方ですね」

「いえ、それも違います」

「そうですか。今回に関しては不問としますが、次回このような冷やかしをすればこちらも容赦しませんので。速やかにお引き取り下さい」

「えぇ!?」

中に入ることなく入り口でそう突っぱねられたアムールは冷や汗をかき始める。覇王様の命の遂行もしかり、中に広がる未知への興味もしかり。ここで突っぱねられる訳にはいかないとアムールも食い下がる。

「じゃあ、入信を考えるから、まずは体験からでもいいか?」

すると、2Fへとすんなり案内された。そこには、古魔区にはないパラダイスが広がっていた。

「うお、なんじゃこりゃ」

驚きしかないアムールだった。

「入信するためにはまずお布施として100万eが必要です」

その言葉に首を傾げるアムール。

「100万e?何それ、それはどういう物なんだ?」

常魔区の通貨を知らないアムールはそう案内人に聞く。

「100万eとはこの世界の通貨です。お金を稼いだらまたお越しください」

そうまた突っぱねられそうになる。

「ま、待てって。ここはどういう施設なんだ?体験なんだから聞くのくらいはいいだろ」

「ここは皆が幸せになるための修行の場とでも言えばいいですかね」

だが、今アムールの視界に入っているのは幸せとは程遠い光景だった。とても幸せそうには見えない。嫌がっている奴を無理やりどこかに連れて行っている光景だった。

「あれ、めちゃ嫌そうだぞ」

「あの人もまたこれからの修行を経て幸せを掴むのです。だから、結果的には私たちはあの人のために今は心を鬼にしているのです」

「ふーん」アムールは不意にその嫌がっている女に近づく。「あ、あの、待って」案内人の言葉を無視し、アムールは女に話しかける。

「おまえにとっての幸せってなんだ?」

その問いを阻むかのように近くにいた男たちがアムールを押しのけようとする。だが、アムールは男たちの力には全く動じなかった。

「ん?」

アムールは女に顔を近づけそう再度聞く。

「私にとっての幸せは普通に暮らすことです。こんなところで一生奴隷になるのは嫌です」

その言葉にアムールは首を傾げる。

「奴隷?ここは幸せになる修行の場だって言ってたぞ。違うのか?」

「違います。ここにいる人たちはある部屋で洗脳され自我を失い、奴隷に堕ちるんです」

「そうなのか。お前名前は?」

「ヨルム=ローサンタです」

「じゃあ、ヨルム。お前の願い、俺が叶えてやる」

その言葉にヨルムは目を丸くした。

「金はないが、ヨルムを俺にくれないか?」

そう案内人に聞く。

「何を言っているんですか。そんなのダメに決まってる。誰か、こいつを抑えてください」

その言葉に男たちが集まってくる。ふぅとため息をつくアムール。アムールはそのままヨルムをだっこすると外へと歩き出す。

「人攫いだ。早くあいつを捕まえてください」

「・・・人攫いは、お前らだろ」【威圧】

ため息をつきながら歩くアムール。ヨルムは今とても不思議な光景を目の当たりにしていた。近づいてきた男たちが次々と倒れていくのだから。アムールはヨルムをただ抱えているだけ。そんな中一人倒れない男がいた。

「お前、名前は?」

「クローだ」

「ふふ。覚えておくよ」

アムールはクローにでこピンをかますと、クローはそのまま気絶した。アムールはそのまま何もすることなく、その建物を出た。

「あいよ。これでお前は自由だ」

アムールは裸のヨルムに自分の上着を着せてあげた。

と、突然アムールが叫びだす。

「あっ、この建物にきた本当の目的を達成してねぇ!」

その言葉にヨルムは聞く。

「目的ってなんですか?」

その問いに「えっ?」という顔をするアムール。もうどこかに行ったのかと思っていたがヨルムはアムールの隣にまだいたのだった。

「バルク山はどこかを聞きたかった」

「それだけですか?」

唖然とするヨルム。そこに顔を近づけるアムール。

「お前、かわいいな。俺の嫁になってくれないか?」

唐突にそんなことを言い出すアムール。

「え!?いきなり何を言い出すんですか」

驚きを隠せないヨルム。

「まぁ、冗談だ。じゃあ、俺は行くから」

そう言ってアムールはヘルジャス方面へと歩き出す。

「そっちはバルク山じゃありませんよ」

アムールに常魔区の地理は分からない。

「そうなのか?」

頭をかきながら照れ笑いしていた。

「じゃあな」

そう言ってアムールはバルク山へと歩いていく。

「しょうがないですね。私がいないとあなたはすぐに迷子になりそうだから、一緒に付いていってあげます」

「そうか」

そう言うとアムールは手をだした。ヨルムはアムールと手をつなぎ歩き出した。

「さっきそこのキラキラした石が置いてあるところに行ったんだけど、あのおばさんケチなんだよ」

「どうケチなんですか?」

「1個くれって言ったんだけどくれないんだよ。いっぱいあるからいいじゃんね」

「お金を払ったのにですか?」

「お金?何それ?」

「はぁ…。アムール…あなたには一から常識を教える必要がありそうですね」

ヨルムはため息をつきながらガックリと肩を落とすが、何も分かっていないアムールを見て、それが可愛く見えてほほ笑むのだった。

「とりあえず服からだな」

「…」

ヨルムは自分の今の姿が恥ずかしくなりアムールに貰った上着の前がはだけないようにキュッと締めるのだった。緊急だったとはいえ、盗みを見逃せないヨルムは服屋の店長に交渉して家屋の修繕と引き換えに服を貰ったのであった。アスバルで既に騒動を起こしている身であるため早々にミラバール王国方面へと向かったのだった。



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