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2話

「口に合わない?」


「ええ、まあ、合いません」


早朝、リルディアとミオは共に朝食をとっていた。


乾いた硬いパンと具の入っていないスープは長年貴族として生きてきたリルディアにとっては食べづらく、味気ないものだったが、そんな贅沢を言うつもりはない。


「こんなもの食べられないって床に投げ捨てて、あの人達に駄々をこねてみるのはどう?

案外、もう少しまともなものをくれるかもよ」


にこにこと笑いながらミオが言う。


「私にとっては口に合わないものでも、貴方方にとってはいつも食べている大切な食事でしょう。

私はそれを頂いているのですから、そのような態度は失礼極まりません」


「硬くて、噛むのもしんどって思ってるくせに」


「…」


じとりとした目で意地悪なことを言うミオは無視して食事を続けた。

自分はこと食事を毎日食べ続けてきただろうに、失礼なことをわざわざ言ってほしいのだろうか。

分からない人だ。


「…っむぐ!」


視線から逃れるようにパンを口に運んだが、固くなりすぎて噛みきれずに動きが固まってしまった。


「あはは」


やはりと思って隣を見れば、ミオがこちらを見て笑い始める。


「〜〜貴方も早く食べてください!」


「はいはい」


仕方がないな、とでも言い出しそうな様子で食事を再開するミオは、やはり意地悪だとリルディアは思った。






────────────



「薪って、夏の内から用意するものなんですね」


何か出来ることはないかとミオに相談した結果、薪割りを一緒にやらせてもらうことになった。


前回の時はミオの両親に相談し、今と同じように薪拾いや薪割りを任されたが、リルディアは使い物にならなかった。

体力や要領の問題が大きかったと思うが、説明役にと言われていたミオがリルディアに全くの無関心で、ほぼ説明などしてくれなかったことも大きかったとリルディアは思っている。


「冬になってから用意すると思ってたの?

君ってやっぱり、世間知らずなんだね」


「う、貴方はなんというか、嫌なことをはっきりと言いますよね」


ミオはこういう時、リルディアが無知を晒すことを喜んでいるように見える。


「そうかな」


「そうです」


話しながら薪割りの準備を進める。

大きな切り株の上に、手頃だと思った小さめの木片を置いた。

丁度中心に斧の刃をおいてみて、そのまま振りかぶっておろす。


「………」


斧は木片の中心に、確かに振り下ろすことが出来たが、力が足りないのか刃は刺さったまま抜けないし、木片を割ることもできなかった。


隣を見る勇気もなく、無言のまま斧に木片が刺さったまま振りかぶり、切り株に叩きつけてみる。


「〜〜〜〜っ!!」


じんわりとした衝撃がリルディアの手へと伝わり、手が麻痺してしまったようだ。


「まあ、無理だよね」


声の主は当然ながらミオだった。


「思ったよりも斧の扱いは上手いけど、そんな手の力で割れるわけないじゃない。

僕がやるから、貸して?」


「嫌です!」


「ええ。また面白いことを言い出してくれそうな気配だけどさ。

ある程度の量を今日の内に終わらせないと、怒られるのは俺の方だから」


そうぼやくとミオはリルディアの手から斧を取り上げた。


「あっ、ミオ!」


「ごめんね」


そうしてミオは慣れた仕草でリルディアが途中まで割ろうとしていた木片を割った。


「すごい…!」


「そうだね。君にとってはそうなのかも」


「その言い方は何だか含みのあるように聞こえるけれど、すごいと思うわ」


リルディアに出来ないことをあっさりとやってみせたのだ。

慣れの問題だとか、性別の問題はあるだろうが、すごいことだと思う。


「嫌味のつもりはないけどな。

ねえ、君。

もしも一緒にやりたいのなら、そこの木片を君がここに乗せて。

それを俺が、斧で割っていくからさ」


「っ!そうね、任せてほしいわ」


仕事を取り上げられたかと思ったが、ミオはリルディアにも手伝わせてくれる気があったのだ。


(勘違いをして、意地をはって、よくなかったな)


早速切り株の上に新しい木片を置いた。

それをミオが割って、割れたものが邪魔にならないようにリルディアが片付けた。


「なんだか早く終わりそうだね」


「私とミオが協力して頑張ったおかげね」


「そうかも」


「ええ、そうよ」


以前薪割りをやった時は、それはそれは散々な結果だった。

どうにも上手く出来なくて、最終的にミオの邪魔になっていることに気付き、それ以降薪割りをやらせてもらおうとは言えなかった。


練習をしようとしても、薪にする木片は数に余裕がある訳ではなく、リルディアの勝手に使うことは憚られた。


(だから余計に嬉しいわ)


「ねえ、ミオ」


「なに」


「ありがとう。私がちゃんと、薪割りのお手伝いが出来たのはミオのお陰だわ」


嬉しさに表情が解けた。

はしたないと言われてしまうようなゆるゆるなリルディアの表情に、ミオは怒ってしまわないだろうか。


「…君って、何を食べたらそんなに変なこに育つの?

俺にも教えてほしいな」


「っ、ミオ!!!」


「はは」


ミオと過ごすことを楽しいと思うけれど、最後はいつも怒ってばかりな気がするのは、リルディアの気のせいなのだろうか。



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