出会い
つばの広い白い帽子を被り淡い黄色のワンピースを着て、私は街の一角に到着した。もちろん私1人だけではなく専属メイドのアンと護衛の兵士も一緒だ。
ここは所謂商店街みたいなエリアになっていてたくさんのお店がある。どの店も興味深かった。
まずは腹ごしらえと近くにあった美味しそうな匂いのするお店に立ち寄る。
串に刺さったホットドッグにかじりつき、アンの「お嬢様のこの様なお姿、旦那様に報告できない…」という小さな呟きは無視して、次の店に向かう。次の店からは牛串のような物を買ってそれもまたかじりついた。
「お、お嬢様!ご領地ではこの様なこともまだ許されますが、王都ではなるべく控えた方がよろしいかと…」
見かねたアンが汗を流しながら私を諫めた。
「この商売で生活を成り立たせている平民もいるのですよ?確かにはしたなく見えるかもしれないけれど、こういうのもひっくるめて平民の生活を知っておくのも悪くはないと思うわ?それにこれ、中々美味しいわよ?アンもジョンもどうぞ?」
そう言って多めに買っておいた牛串をアンと護衛のジョンにも分けてあげた。
私の後でのおやつを分けるなんて…私って優しい!…と脳内でジョークも交えつつ。
アンは元々男爵家の娘で行儀見習いとしてシュレーゼン家にやってきた。だからアンもあまり平民の生活について詳しくは知らない様で、「これは…ほんとに美味しいです」と目を輝かせた。
ジョンはジョンで美味しいと笑みを浮かべながら食べていた。
これで私の食べ歩き仲間が増えたようなものだ。
食べ物のお店を覗いては食べて覗いては食べて…をしていた私達はお腹も膨らみ、食べ物屋さんのお店から色んな雑貨屋さんが建ち並ぶ場所へ移動した。
この世界にも魔法は存在するのだが、貴族だけが魔法を使えて普通の平民の大部分は魔力というものを持っていない。
稀に私の様な魔力無しな貴族が生まれたり逆に平民の中でも魔力持ちが生まれたりするわけだが、平民で魔力持ちが生まれた場合貴族の養子として引き取られたりして結局のところ平民の中の家系で魔力持ちの家系が生まれることはないのだ。
そんな魔法が扱えない平民の為に魔力のこもった魔石を売ってる店があるのだが、ただの石ではなくネックレスとかブレスレットとかアクセサリーとして加工してる店も多く、平民達はもっぱらそういった魔石をアクセサリーとして求めることが多いようだ。
ただその魔石も平民向けとは言え値段も高く平民の中でも裕福な家の人間を対象として売っているのだが。
私は今そんな魔石のアクセサリーが売っているお店で商品を眺めていた。
たしかにこれはアクセサリーとして身に着けたら綺麗かもしれない。
ただ私はアクセサリーは見てる分は綺麗で好きだが身に着けるのはあまり好きではない。邪魔になるから。
だから買う気はなくウィンドウショッピングを楽しんでいた。
その時、後ろできゃーーーと大きな悲鳴が聞こえた。
振り返ると私の身に着けてる帽子くらいのつばの広い帽子を深く被った水色のワンピースを着た女性が大きな男3人に囲まれていた。
「あなた方のしたことは許されることではありませんよ!?」
小さな声ではあるがしっかりした声で男達に対峙していた。
「うるせぇな?姉ちゃんには関係ないだろ??」
「関係はないですが、ご年配の女性に暴力をふるってお金を盗ろうとすることを見過ごすこともできません!!」
どうやらこの男3人組はおばあさんに暴力をふるって財布を盗もうとしてたらしい。女性と3人組の男の元に後からおばあさんが到着した。
ぜえぜえ肩で息をしてとてもつらそうで一生懸命ここまで走ってきたのだろうということが分かる。
「お嬢ちゃん…ありがとうよ…でももういいんだよ」
おそらくこの女性に危ない目に遭いそうだからだろう。おばあさんは財布を諦め、この女性の身の安全を優先しようとしている。
「うるせぇんだよ!!ババァ!!もうおせぇんだよ!!」
男3人組は憤りを隠せずおばあさんの元に歩いてく。
女性も焦っておばあさんの元に向かう。
「騎士の皆さん!!こちらです!!おばあさんがひったくりに合っていて…!!」
大声で3人組の男達は慌てだして財布をおばあさんと女の人の方へ思いきり投げつけて、声の反対方向へ走って行った。
女性とおばあさんが声の方へ振り返ると黄色いワンピースの女…つまり私がいただけだった。
「まぁ騎士の皆さんは来ませんがね、私の力では男3人に勝てないので」
そう大声を出したのは私である。ホラを吹いて男達を撒かせたのだ。
「あらまぁ…お嬢ちゃんもありがとうねぇお嬢ちゃんたちも無事に済んで良かった」
おばあちゃんが優しそうな笑みで私に笑いかけた。
「あの…私からもお礼を…助けていただいてありがとうございました。」
女性が帽子を脱ぎ私にお辞儀した。
帽子から出てきたのはピンクブロンドの綺麗な髪で肩まで緩くウェーブがかかっている。
しっかりしていたので年上の女性かと思っていたが、顔立ちは可愛らしくエメラルドグリーンの目がくりっとしていて小さな鼻と小さくプルっとした唇がとても愛らしい少女だった。
おそらく私と同じくらいの年のようだった。
おばあちゃんにもとても感謝されて別れたところで少女と2人になり私に話しかけてきた。
「あのちゃんとお礼がしたいので今私が住んでるところまで来てもらっていいですか?」
少女のお家に招待されたのでついて行くことにした。