既読:今日たのしかったよ!また3人でうどん会やろうぜ(ピース)(ピース)(笑顔)
「そう?」
私もつられて汁を飲む。
いい意味でどこにでもある「普通のうどん」だ。
佑白はなお納得しない顔を見せる。
「ダシが……こんなダシ、初めてかも」
「そうだっけ? うーん」
彼の言う意味がさっぱり解らないが、冗談を言っているようにも感じられない。
食べながら不思議に思っていると、シアンが佑白をじっと見つめているのに気付いた。
「ねえ斎灯くん」
「何?」
「もしかして西日本の人だったりする?」
不意を突かれたように、一瞬きょとんと目をみはる佑白。
「……そうだけど」
「やっぱりね! ねえねえ、西日本のどこ? 関西? 四国?」
「田舎だよ。地名を言っても多分場所も分かってもらえないような」
「そうなんだ?」
私も思わず口を挟む。佑白の故郷なんて聞いたことがなかったからだ。
「だとしたらすごいね、全然訛りないし気付かなかった」
「さすがに年単位でこっちにいたら取れるよ。――で、なんで西日本だってわかったの?」
シアンは誇らしげに胸を張り、ナルトを挟んだ箸を掲げる。
「あたしの友達にさあ、香川出身の子がいるんだけどね。その子がゆーには、関西より西と、関東より東でうどんの味がぜんっぜん味が違うらしくってさー」
「香川っていうと四国だっけ」
「そう。あの辺、うどんで有名じゃん。えーっと、何うどんだっけ」
「讃岐うどん?」
私の言葉にシアンは頷く。
「そうそう。だからその子、余計うどんの味にはうるさくってさあ。前に一緒にうどん食った時にね、色々すげーうんちく聞かされたんだよ。なんかね、大阪あたりまでのうどんは彼女的にアリらしいんだけど、関東はダシの味が全然違うからダメなんだーって。逆に南に行くと、ダシより麺の食べ応えがガラッと変わって、そっちも口に合わねーとか」
私はうどんをすするのも忘れて聞き入った。
「知らなかった」
「でしょ。あたし生まれも育ちも東京だからさあ、へーって思ったもん」
ご当地ラーメンと雑煮の餅は有名な話だけど、ごく普通に食べているうどんのしかもダシにそこまで差異があるなんて、ちょっと旅行に行った程度では気づけない違いだ。
旅先で食べたうどんが慣れない味だったとしても、この話を知らなければ「ここが合わないだけだ」と判断してしまうかも。
「まあ、北海道と沖縄って地中海から北欧くらい離れてんだしさあ、日本全国、気候も文化も全国同じ常識が通じるわけないっつーわけだよねー。――あ、旅行行きたくなってきたな。春休みどっか行こうよ」
「話飛ぶねえ」
「あたしまだ、大阪より西に行ったことないんだよね。うどん食べ比べてみたいじゃん」
「うどんメイン!?」
シアンの話に苦笑いしながら、私は彼女の言葉がしみじみと染みていた。
当たり前のように思っている事だって案外、自分の中だけの常識だったりするものだ。
私が言い出せない『秘密』だって、シアンに話したとしても「あっそ、だから何?」で終わることかもしれない。
シアンが人の価値観に引く姿のほうが想像できない。
でも、想像できないだけに、引かれてしまったら高校時代よりも傷ついてしまう。
それからは行きたい場所の話題や旅行の話で盛り上がり、終始和やかに話が終わった。
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私は一人暮らしの部屋に戻り、暗くなった部屋に灯りをつける。
玄関には脱ぎ散らしたワンピースや下着、カバンが散らばったままだった。
昨晩アトラス・シトラスと別れたそのままだ。
疲れを感じつつ拾い集めながら、彼女の横顔を思い出して胸が苦しくなる。
記憶がないので定かではないけれど、酔っぱらった私を、ここまで送ってくれていたのかもしれない。
「……また会いたいなあ……」
唇の感触を思い出し、たまらず私はワンピースを抱きしめる。
彼女が確かに触れていた服。
彼女の匂いが残っていればいいのに、そこにはただ、私自身の汗と酒の臭いだけが染みついていた。
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